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速くなるサイクルウェア テクノロジーの進化とアスリートサポート
ツール・ド・フランス出場チームのガーミン・チポレをはじめ、オリンピック日本ナショナルチームのウェアを製作するなどアスリートのサポートを続けるパールイズミ。今回は清水弘裕社長にアスリートへのサポートの変遷、そこから生まれる素材やカッティングの変化がどう一般製品にフィードバックされるかを訊いた。
−水泳の世界では水の抵抗を減らす水着が大きな話題になりました。自転車の世界でも空気抵抗をいかに減らすかは永遠の課題ですね。そしてフィット感の向上。その2つの観点から、パールイズミがトップサイクリストたちをサポートしてきた変遷を教えてください。まず、サイクルウェアはアスリートのサポートと共に進化してきたと言えますか?

そのとおりです。1960年代はTシャツと変わらない形でした。ライディングフォームにあわせたフィッティングという発想はまだなかった頃です。ウェアの素材がウールということもあり、立体裁断などを採用するでもなく、ウールのもつ伸縮性だけでフィットさせていた頃ですね。

−その流れが変わったのはいつごろですか?

'70年代後半から合成繊維が登場して、いろいろなことにチャレンジする土壌ができたと言えます。エアロダイナミクスに挑戦しだしたのが'80年代の少し前から。当社はコーティングワンピースを発表しました。80年頃から開発し、'82年からUSAナショナルチームにウェアを提供。'84年のロサンゼルス五輪では9つの金メダルを獲得しました。ちょうどディスクホイールやブルホーンハンドルが使われはじめ、ウェア、機材ともに空気抵抗への挑戦が始まった時期でした。
日本の坂本勉がスプリントで銅メダル、アトランタ五輪で十文字貴信選手が男子1kmタイムトライアルで銅メダルをとったときにもコーティングエアロスーツが使われました。

'88年ソウル五輪でオランダ、オーストラリアナショナルチームにウェア供給を行い金メダルを獲得しましたが、その頃までコーティングエアロが使われました。コーティングエアロとは、つるつるの表面をもつ素材で、当時は表面を滑らかにすることで空気抵抗を減らすことができると考えていたのです。
1984年ロサンゼルス五輪でUSAナショナルチームのウェアをサポート。コーティングエアロスーツを着たスティーブヘッグ(写真)が4000m個人追い抜きで金メダル獲得
清水弘裕社長
光沢のある表面が特徴的なコーティングエアロスーツ。空気抵抗を激減させた素材のさきがけだ
2004年アテネ五輪男子チームスプリントで銀メダルを獲得。スピードセンサー使用スーツを着た(写真は2004年ワールドカップ大会)
2004年アテネ五輪銀メダル獲得スーツ。スピードセンサーの格子織り状の表面に注目
デーヴィッド・ミラー(ガーミン・チポレ)に供給したエアロスーツはパールイズミの最新テクノロジーの塊だ
−というと? つるつるの表面は空気抵抗が低い。当たり前だと思いますが、そうではないのですか?

平滑な表面がベストだと考えられていましたが、実験を重ねるとそう言い切れないことが判ってきたのです。表面素材の違いによって空気抵抗が減らせるということが風洞実験によって分かってきたんです。コーティングには選手の好き嫌い、汗抜きの問題もありました。
平滑でなくてもいい空気抵抗値が出る素材がある。それを製品化したのが私たちが通称「鮫肌」と呼ぶ、凹凸のある生地です。

−それはどのような原理なのでしょう。その生地とは何ですか?

空気抵抗とは「空気離れ」で決まります。空気が渦を巻かないで剥離する生地が空気抵抗が少ないということになります。ゴルフボール表面のディンプル加工もその空気離れを良くする例のひとつです。
自転車競技のスピードにおいて最高の(低い)空気抵抗値をもつ生地が、アテネ五輪以降日本ナショナルチームジャージやガーミン・チポレのタイムトライアルスーツなどにも採用されている「スピードセンサー 」です。凹凸がついたもので、従来比で空気抵抗を50%減らすことができます。アテネ五輪の男子チームスプリントで銀メダルを獲れた素材です。

−格子織のような生地が空気抵抗が少ないなんて驚きです。むしろ空気抵抗が多いように見えますからね。

しかも整流効果を考えながら腕部分、パンツの裾部分などにスピードセンサー素材を部分的に使っています。タイムトライアル用ワンピースでは、脇の部分にはわざと張り出すような部分を設けています。脇から入り込む空気を上へ逃がすという論理です。裾の処理は、脚の動きがもっとも速い箇所にそれを配し、かつ身体には素材の抵抗がほとんど感じられないというものです。そうやって空気の流れを全体でコントロールするのです。
−フィッティングという面では変化はありますか?

フィットに関してはますますタイトフィットになってきていますね。大きさで言えば当初の3割減の大きさになっています。選手側からはもっと小さく、そしてもっときつく締め付ける感じが欲しい、という希望も出ています。 反発力のある生地、話題の水着のような締め付けるタイプの生地などもサイクリングウェアの世界では早くから効果があると言われてきました。ロス五輪の際よりすでに使用されてきました。

−北京五輪ではそれらの集大成のウェアが活躍するわけですね。

日本で開発した素材をアメリカへ送り、風洞実験テストで素材配置を試しながらベストな数値が出たものを北京で使用します。

−スピードセンサーの表面生地は2008新製品のプレミアムパールなどにも採用されていますね。ファッション性のあるパターンだな、と思っていたんですが、じつはこれが使われているのですね。

そうです。ただもちろんプレミアムパールはスピードの限界に挑戦するという製品ではありません。でもそれらのトップアスリート向けのウェアの性能を一般ユーザーの方にも使ってもらうということは、私たちのモチベーションです。レーサーでない一般の方々にとっても、それを着ることで「スピードを追求した素材のウェアを着ている」というプライドにもなることと思います。

−アスリートサポートからのフィードバックを製品づくりに生かす。またアスリートからは要求が絶え間なく出る。まさに開発に次ぐ開発ですね。

ロンドン五輪の際にはさらにいいものを作らなければいけませんね。選手からの要望は大きくなるばかりです。スピード社の水着の一件もウェアへの関心を高めました。レギュレーションとの闘いも含め、進化を止めることはできない。進化を止めれば終わりだと思っています。
北京五輪を目指して開発が進められてきた日本ナショナルチームのウェア(写真は2007年ワールドカップ大会)
袖部に設けられた空気抵抗軽減のための整流フィン。脇から胸への空気の巻き込みを防ぐ効果がある
エアロスーツのパンツの先端部に設けられたスピードセンサーの整流パーツ
スピードセンサー・ウォーム2が採用されているプレミアムパール・ウィンドブレークジャケット
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