民主党政権の閣僚名簿予想 - 人事はトロイカの意思と希望で決まる
本日（8/22）の毎日新聞の世論調査記事では、「民主３２０議席超す勢い」と出て、自民の１００議席割れが確実な予想となっている。投票日に近づくほど新聞が予想する民主の議席数が増える。民主党の比例名簿の候補者不足が確実な情勢となった。私は、8/17深夜の民主党の比例名簿提出の経緯について疑惑を感じていて、小沢一郎の作為的な陰謀ではないかと訝っている。新聞社の調査でさえ３２０議席を予想しているのに、政党の精密な事前調査でこの数字や傾向が把握できないはずがない。週刊現代の記事（民主３９０）は8/12に出ている。今回、小沢一郎は比例名簿の調整を自分だけで仕切り、作業を提出期限ギリギリの8/17深夜まで延ばして、党内から苦情が出ても時間切れで修正を不能にしている。表向きは県連から追加の候補者が上がって来なかったと説明して、責任を県連側に押しつけているが、これは嘘だ。おそらく、月曜日の8/17当日に県連に緊急の候補者追加受付の指示を出していて、県連側が候補者を選定する時間的余裕を与えなかったのだろう。いきなり候補を打診されても、本人の承諾を含めて一日では時間的に無理がある。県連側は不意を衝かれた。
各県連の本部長である前職の衆院議員は選挙区を駆け回っていて、追加候補の選定や調整どころではない。小沢一郎に全てを任せる以外になかった。朝日新聞の8/20の４面に「比例順位も『小沢色』 - 側近の身内・元秘書・塾生」という記事があり、比例下位の人選が県連の推薦ではなく、小沢一郎が直接電話して元秘書や小沢政治塾の塾生を候補に仕立てた事情が書かれている。比例名簿提出日前日（8/17）の朝日の２面記事にはさらに毒々しい記述があり、小沢一郎が政治塾出身者を独断で名簿登載する剛腕に対して、「その手法には、党内にも『小沢系議員を増やすことを優先させたのでは』といぶかる見方もある」と書いている。穿った見方をすれば、小沢一郎は選挙情勢を熟知しながらそれを党内に教えず、意図的に比例下位で獲得する議席を党内の他派にではなく自民党に贈呈した、ということになるだろう。他派に議席を渡せば、選挙後の小沢派の党内勢力が相対的に小さくなる。自民党の落選議員に渡せば、恩を売って政界再編時の小沢一郎の「予備私兵」に備えることができる。小沢一郎の狙いは、将来の政界再編に備えた「小沢私党」作りにある。衆院選後、民主党の派閥勢力図は大きく塗り変わることになる。
現在の党内勢力は、小沢Ｇ−５０、鳩山Ｇ−３０、旧民社Ｇ−２５、菅Ｇ−２０、前原Ｇ−２０、野田Ｇ−２０、旧社会Ｇ−２０、羽田Ｇ−１０、となっている。これが一転して、小沢Ｇが１００‐１５０を擁する突出した大派閥となり、自民党の清和会のような他派閥を寄せ付けない圧倒的な集団規模になる。今後４年間、民主党の代表選は小沢一郎が派閥の数で牛耳る格好になり、党人事は小沢一郎の意向で全て決まる事態になる。今回の選挙で小沢一郎は事実上のキングメーカーになった。この小沢派の数の力を今後の政局運営で存分に駆使するのは必至だろう。おそらく小沢派は衆院だけで１００名を超える。この数は自民党よりも多く、すなわち院内第二勢力であり、民主党を離党すれば野党第一党の存在になる。自民党・公明党と組めば過半数に近づいて政権も展望できる。小沢一郎の第一幕は「政権交代」を実現して民主党政権を誕生させることだが、第二幕は集団的自衛権の合憲化を断行して「普通の国」を実現することだ。民主党でそれをやるか、外へ出て政界再編でそれをやるか、どちらでも可能なように「小沢私党」の数を用意する必要があった。今度の比例名簿の「不足」の一件は、そうした戦略上の布石として深読みするべきだろう。要するに火事場泥棒の政治だ。
選挙の趨勢は決まり、次の関心は新政権の閣僚名簿に移りつつある。私の現時点の予想は上のとおりで、官房長官は菅直人、財務相は岡田克也、外相は田中真紀子、国家戦略局長は枝野幸男もしくは海江田万里、幹事長は小沢一郎となる。これは、8/17の日本記者クラブでの鳩山由紀夫の発言から予想したもので、官房長官と財務相と外相は国会議員から出すと明言があった。政権人事で最も重要なのは官房長官と幹事長であり、これは自民党でも民主党でも変わりはない。民主党はトロイカ体制であり、トップ三人が最も重要な権力ポストに収まらなくてはいけない。そのとき、少し考えれば分かるが、他の二人には意中のポストがある。菅直人は官房長官を第一に希望する。首相でなければ官房長官、自分の手で自分の構想どおり官僚機構を統制したい。それが菅直人の「政権交代」の悲願だ。鳩山由紀夫が盟友の希望を尊重するのは当然だろう。二人の関係は結党以来の二人三脚である。希望は簡単に無視できない。同様に、小沢一郎は幹事長ポストを要求する。来年の参院選を仕切るためだ。連立政権が政策で揉めた時に備えて、参院自民党に手を突っ込んで切り崩すためだ。テレビ出演は口の達者な人間を幹事長代理に据えてやらせ、幹事長の自分は裏に回って新政権のヒト・モノ・カネを統括・差配する。
外相を田中真紀子と予想する理由は、田中真紀子が民主党入党を承諾した際の取引条件として、小沢一郎と密約を交わした可能性を推測するからである。何の見返りもなしに民主党入りを受諾するとは思えない。小沢一郎が鳩山由紀夫を説得してポストを配ったはずだ。菅直人もハト派の田中真紀子の起用には異存はなく、長島明久のような親米右翼系よりも国民に人気のある田中真紀子の方が新内閣の高支持率に直結する。田中真紀子が民主党に入党しながら新政権で無役とは考えられず、そして役職を与えるなら外相しかない。これも本人の希望だ。岡田克也は、当初は国家戦略局長で予算を編成する主役ではないかと考えたし、その可能性は残っているが、8/17の鳩山由紀夫の説明を聞いて、なるほど財務相が岡田克也だなと直感した。これも本人の希望がベースだ。財務相はＧ８会合で海外で活躍する機会が多い。そして、欧州では政権Ｎｏ．２の実力者が閣僚を務め、外国のプレスに頻繁に取材を受ける。岡田克也は民主党政権の二代目のプリンスであり、政局騒動に巻き込まれず海外で顔を売れる財務相ポストこそ適任だろう。本人も自身の「二代目」の立場を意識した上で花形ポストの財務相を希望するはずだ。基本的に、新政権のポストはトロイカの合議と了解で決まるのであり、小沢一郎と菅直人が首を縦に振らない人事はあり得ない。
国家戦略局長に海江田万里を挙げたのは、この重要ポストは（鳩山由紀夫は）鳩山Ｇの中から側近を選任したいからである。この組織と役職は菅直人がデザインしたものだが、場合によっては官房長官の菅直人と思惑が衝突する場面も生じるだろう。鳩山由紀夫が兼務しないのであれば、菅直人と対立しても意見を通せる大物でなくてはならない。鳩山Ｇの中で看板になる側近議員は海江田万里くらいしかいない。その場合は枝野幸男は法務大臣に回る。防衛相を前原誠司にした理由は、前原誠司を内閣の外に出してしまうと政権内で離反組（反主流派）ができるからであり、野田佳彦と玄葉光一郎を入れたのも同じ理由による。基本的に、民主党内で政調等の要職を歴任して国会質問に立ってきた主要メンバーは漏れなく入れ、派閥や左右のバランスをとり、可能なかぎり女性閣僚を増やす人事をシミュレーションしてみた。それでも女性閣僚は５人に止まる。寺島実郎の入閣は確実で、経産相か環境相かどちらかのポストに就くだろう。本人の希望を経産相と推し量ったが、環境相を選択する可能性もある。その場合は松本剛明が経産相に回る。国土交通相は田中康夫。田中康夫は総務相も考えられるが、総務相は片山善博の方が適役だろう。国家戦略局に入って道州制を吠えて暴れる橋下徹や中田宏を押さえる役割も期待できる。総務相は厚生労働相と並んで次の政権のキーとなる役職で、多忙な役職でもあり、人選にも特に注意を要する。閣僚人事を予想する上でのポイントは３点。第一に民主党はトロイカがすべてを決める党であるという点であり、第二に４年間変えない民主党オールスターズのキャビネットが編成されるという点、第三に来年の参院選を勝利するための国民からの高支持率の調達という点である。
