2009年01月16日
妖星伝
前回の放送では半村良の「産霊山秘録」を紹介したのだが、
半村良を語るに当たって絶対落とせないのが「妖星伝」である。
どちらにするか非常に迷った。
迷った末、「妖星伝」は番組の中に収まらないと判断したので
「産霊山秘録」にした。
「妖星伝」は73年に連載が始まったのだが、
第一巻の「鬼道の巻」が出版されたのが77年。
最終巻の7巻「魔道の巻」が出たのが93年である。
81年の第六巻までは順調に出版されたのだが、
それからうんともすんともいわなくなった。
もう、これは完結しないと思っていたら92年に
いきなり連載を再開して、何とか終わらせている。
最初に手にとったときは驚いたのなんのって、
何しろ小説自体の印刷文字が黒でなくて
各巻、赤だの緑だのになっているのである。
そのおどろおどろしさ、読みにくさといったらなかった。
慣れればそんなに不自然には感じないのだが、
それくらい変わった小説であった。
ただし、完結巻は黒になっている。
残念ながら文庫はみんな黒のはずである。
基本的には江戸時代を舞台にしている伝奇小説なのだが、
最初はどえらく面白い、半村良、本領発揮の渾身の作、
珍しく激しい性描写なんかもあって、サービス満点、
と思って読み進んでいくと、
単純に喜んでいる場合じゃないことに気が付く。
神道とともに発生した設定となっている鬼道衆が
いわば狂言回しの役を背負っているのだが、
実は恐ろしいほど考えられた仏教思想が根底にある。
それが進化論、宇宙論にまで広がり、空(くう)となってしまう。
小説の中身は是非ご自身で
体験(読むというより体験である)していただきたいので
解説は差し控えるが、これを知らずに死ぬのはもったいない。
「妖星伝を読んで死ね」である。
それで思い出したが、いつのことだったか、
20年以上前のこと、映画を見に行ったらいきなり
「妖星伝、いよいよ映画化!」
と文字だけで、
いつ完成かもわからない不思議な予告が流れたことがある。
後にも先にもそれ一回きり。
雑誌にも、なんにもそんなことは書かれなかったので
夢を見たかと思ったが、違う。
絶対にこの目で見た。
一体どういういきさつであんな中途半端な予告が出されたのか
いまだに謎である。
ただ、無理やり作ったとしても、大失敗していたに違いないので
いまでは流れてよかったと思っている。
内容につき、ひとつだけヒントのようなものを書き添えるとすれば
妖星とは地球のことである。
単純な進化論だけでは説明できない過剰な生命、
多様性に溢れたこの星のことである。
具体的には知らないが、影響を受けた学者も多いのではなかろうか。
くらげだけの星ならこんなややこしいことにはなっていないはずだが、
それでは「妖星伝」を読むことはできなかった。
大倉眞一郎