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社説

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新型インフル―大流行に備えた態勢を

 新型の豚インフルエンザの感染が、急速な広がりを見せている。

 国内の各地で集団感染が増え、推計では1週間に約6万人が新たに感染した。重症になる例も目立ち、先週末以来、死者の報告も相次ぐ。脳症を起こした子どもの入院も続いている。

 インフルエンザが夏にこれだけ広がるのは異例だ。新型で、私たちの身体に免疫がないこともあろう。

 舛添厚生労働相は「本格的な流行」を宣言したが、大流行となれば規模は今とは比較にならない。4人に1人が感染して、その1〜2%が入院するともいわれている。

 多くの地域でまもなく夏休みが終わり、新型インフルの感染が多い年代の中高生が学校に戻ってくる。秋冬を前に、備えを急がなければならない。

 課題はいくつもある。

 まず、新型用のワクチンをどう使うか、方針を決めておくことだ。

 年内に用意できるのは、予定より少ない1500万人分ほどに限られる。厚生労働省は9月中に、どんな人から使うかの優先順位を決め、早ければ10月に接種を始める考えという。

 ワクチンへの期待は高いが、どこまで有効か、実ははっきりしない。流行がこのまま広がれば、供給が追いつかない可能性もある。そうした限界も考えに入れたうえで、納得のいく方針を急いで示す必要がある。

 待ったなしなのは、患者の急増に備えて医療態勢を整えておくことだ。

 新型のインフルエンザは、ぜんそくなど呼吸器の慢性病、糖尿病、心臓や腎臓などの病気の人は、免疫力が下がっているので、重症になりやすいことがわかっている。国内で亡くなった人にも、こうした病気が見られた。

 妊娠している女性や乳幼児なども、重症化するおそれがあるとされる。

 生命に危険が及びそうな人たちは、早めの診断と治療で重症化を防がなければならない。幸い、抗ウイルス薬のタミフルなどを早く飲めば効果があるようだ。ウイルスの診断はすぐにつかないことがあるので、疑わしい場合にはすぐに治療するという姿勢も必要だろう。

 感染がさらに広がれば、病院や診療所が患者であふれ、入院が必要な重症患者も急増することが予想される。

 厚労省は6月、発熱外来だけでなくすべての医療機関で患者を診るように方針を改めたが、重症患者に対する診療態勢は、まだ不十分だ。

 入院が必要になった患者の受け入れ態勢はどうか、人工呼吸器などの設備は足りているか、至急点検して対策を講じる必要がある。

 健康な人は軽症ですむことが多いが、肺炎を起こす心配もある。油断せず、引きつづき感染防止と健康管理を心がけたい。

09総選挙・脱温暖化―「痛み」をどう説得する

 世界はいま地球温暖化を食い止めようと、低炭素時代への転換点にある。日本は、どう取り組んでいくのか。この総選挙で論点となるべき課題だ。

 にもかかわらず、各党のマニフェストでは必ずしも優先度が高くはない。いまの暮らしもむろん大事だが、危機感が乏しくないか。

 この秋には、京都議定書に続く温暖化防止の枠組みをめぐる国際交渉が、12月の合意をめざして大詰めを迎える。選挙後の政権が最初に取り組む大きな外交課題の一つとなろう。

 そこで先進国に求められるのは中期目標の設定だ。2020年までに温室効果ガスの排出をどれだけ減らすか。交渉の場では、先進国全体で「90年比25〜40%削減」を求める声がある。

 自民党は麻生政権の決めた「05年比15%削減」を踏襲した。90年比に換算すると「8%削減」となり、交渉のなかで強い批判を受けかねない。民主党の「90年比25%削減」という目標は、それを回避できそうな数字ではある。

 両党の違いの背景には、温暖化対策についての根本的な考え方の相違があるようだ。

 いまの社会や産業構造の下で可能な範囲で努力するという自民党。これに対して民主党は、高い目標を掲げることで社会や産業の構造を低炭素型に変えようという意図がうかがえる。そのための具体的な政策も掲げた。

 たとえば、家庭の太陽光発電で余った電気を電力会社に高値で買い取らせる制度を、風力やバイオマスなど自然エネルギー全体に広げ、かつ発電した全量を対象とするという。また、二酸化炭素(CO2)の排出上限を設定して排出量取引制度を始めるほか、地球温暖化対策税も検討するとしている。

 こうした政策を総動員しても「90年比25%削減」の達成は容易ではない。経済界は大幅な削減に反対だし、自民党も「経営や家計への負担が大きくなる」と民主党案を批判している。

 世論をどう説得し、合意をつくっていくか。理念や構想だけでなく、行程表をつくって実行可能であることを粘り強く示さなくてはならない。

 高速道路の無料化やガソリン税などの暫定税率の廃止のように、低炭素化と逆行しかねない政策もマニフェストには並ぶ。どう整合性をとるのか。これもきちんと説明してもらいたい。

 忘れてならないのは、低炭素化の変革には「痛み」が伴うことだ。自然エネルギーの買い取り制度では、電気料金の値上げが避けられまい。排出量取引のせいで企業の経営が圧迫される恐れもある。

 だが、この痛みは気候変動で人類が被る損失を回避するために必要なコストであり、新たな成長の糧をつかむチャンスでもある。産業界や国民を説得する力が政治に問われている。

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