経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

このページを印刷

バックナンバー一覧

ドコモが3年ぶりに月間純増数で首位
auとの明暗を分けたMVNOとは

 少し長めのレンジで振り返ると、auにドコモが1位の座を譲ったのは、2006年8月のことだ。auは、1位の座をその後9ヵ月間守ったが、2007年5月にその座をソフトバンクに譲り渡していた。

 一方のドコモは、しばらく低迷した後、昨2008年6月ごろから、イー・モバイルと熾烈な2位争いを繰り広げるところまで盛り返していた。細かくみると、2009年6月までの13ヵ月間に、ドコモが2位の座を8回獲得したのに対し、イー・モバイルの側も5回にわたって2位の座を抑え、両社が競って1位の座を伺っていたと言える。

 対照的に不調を囲っているauは4ヵ月連続の最下位の後、今年3月に3位に浮上したものの、再び翌4月からこの7月まで4ヵ月連続で最下位に甘んじている。

 こうした好調の理由について、ドコモは、前述のように、夏モデルの新商品の販売の好調と、データ通信の定額料金プランの実質的な値下げによってデータ通信の専用端末が人気となっていることの2点を強調している。だが、好調の理由は、本当にその2点だけなのだろうか。執拗に卸売りについて問い質すと、ようやく「他社さんの数字そのものなので、当社としてはコメントしていない」と前置きしたうえで、「一定数の増加があることは否定しない」と渋々認めるコメントを引き出せた。

 それでも、業界関係者の間では、「むしろ、原動力が卸売りのはずだ」「ドコモの純増件数の14万3600件のうちの相当の部分、例えば3割以上を占めていてもおかしくない」と見る向きもある。

KDDI社長も率直に
敗因はMVNOと反省の弁

 そうした中で、公式の記者会見の席で注目すべき発言をしたのが、最下位に甘んじるauを持つ小野寺正KDDI社長だ。小野寺氏は、通信業界きっての理論派経営者として知られているが、7月に開いた四半期(4~6月期)決算発表の席上、auの不振の理由を問われて、まず、「通常の携帯電話の端末では、純増シェアについて、他社に大きく劣っているということはない」と説明。そのうえで、「我々としてはいろいろな分析をしていますが、遅れているのは2つです。1つは、データカードの問題です。そして、もう1つがMVNOのお客様の数です」と率直に“反省の弁”を語ったからである。

 ちなみに、このうち前者のデータカードについて、小野寺社長は収益につながりにくいとの分析を披露した。つまり、今後についても、あまり関心がなく、力を入れる必要がないと示唆したのだ。

 ところが、MVNOについては、対照的に、きっぱりと重要であると是認した。後述するが、この発言は小野寺社長の大変な変身を意味する発言である。そして、この「MVNO」(モバイル・バーチャル・ネットワーク・オペレーター、仮想移動通信会社)こそ、本稿で冒頭から指摘してきた「卸売り」なのである。

おすすめ関連記事

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

Special Topics

バックナンバー

Pick Up

経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

ドコモが3年ぶりに月間純増数で首位 auとの明暗を分けたMVNOとは

NTTドコモが7月の月間純増数で3年ぶりにトップの座を奪還す‥

NEWS MAKER

日産はなぜ中国で後れを取り戻せたのか? ~東風日産 中村公泰総裁に聞く

日産自動車の中国での乗用車販売が、日系ライバルメーカーを上回‥

公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略

キリン‐サントリー経営統合で、零細流通企業が追い込まれる飲料業界の経営事情

業界に激震が走ったキリン-サントリーの経営統合。この統合によ‥

「婚迷時代」の男たち

データマッチングで検証!婚活成功率は、「飲酒、喫煙」をやめれば上がる?

いまださかんな婚活だが、成功率は「今ひとつ」とそれだけ空回り‥

最新の連載一覧

すべての連載

特集を見る

Diamond Premium 最新記事 無料会員登録すると全文が読めます

NEWS MAKER
日産はなぜ中国で後れを取り戻せたのか? ~東風日産 中村公泰総裁に聞く
計数感覚を磨けば経営力はアップする
サービス業の規模拡大によるコスト削減効果と、その限界
福井エドワードのINSIDEグリーン革命
日本でも本格化するか?経営の品質を問う “サステイナブル金融”の新常識
短答直入
小さなことの積み重ねで「日本品質」を築き上げる その上で世界を“つなぐ” NTTコミュニケーションズ社長 和才博美
China Report 中国は今
中国一人っ子政策の落とし子 劣化する新人類“80后”蔓延の深刻
News&Analysis
減り続ける採用枠に希望者が殺到! 底打ち見えぬ転職市場の出口はいつか
News&Analysis
国産アニメ初の大成功「喜羊羊」で勢いづく中国の大望
景気は底打ち、しかし実感は…。「逆境を克服する企業力」
コスト削減と収益確保、人材の育成や環境整備と、たえず忙しい中小企業に成長のヒントを提供中。

著者プロフィール

町田徹
(ジャーナリスト)

1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。

この連載について

硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!

Recommend 話題の記事

週刊・上杉隆
早く陛下が参拝できる環境を 靖国問題を長年放置してきた政治の罪
News&Analysis
減り続ける採用枠に希望者が殺到! 底打ち見えぬ転職市場の出口はいつか
「会社のワガママちゃん」対処法
「きっと上手くいくに違いない」と思える感覚が、ワガママちゃんを成長させる
China Report 中国は今
中国一人っ子政策の落とし子 劣化する新人類“80后”蔓延の深刻
これが気になる!
気分を変えて自然の中で会議や研修を行う 「緑陰滞在型」施設の絶大な効力
8人に1人が苦しんでいる!「うつ」にまつわる24の誤解
「努力」に価値を置く危険性――「ウツ」を生み出す精神的母体
計数感覚を磨けば経営力はアップする
サービス業の規模拡大によるコスト削減効果と、その限界
山崎元のマルチスコープ
金融危機の真の原因を振り返る
辻広雅文 プリズム+one
国内初の死者!新型インフルエンザはなぜ真夏に流行するのか――医師・木村盛世氏に聞く
これが気になる!
“健康の敵”日焼けを侮るなかれ 中年男性向け日焼け止めが注目される理由

雑誌定期購読のご案内


詳しくはこちら

特大号・特別定価号を含め、1年間(50冊)市価概算34,500円が、定期購読サービスをご利用いただくと25,000円(送料込み)。9,500円、約13冊分お得です。さらに3年購読なら最大49%OFF。


詳しくはこちら

1冊2,000円が、通常3年購読で1,333円(送料込み)。割引率約33%、およそ12冊分もお得です。
特集によっては、品切れも発生します。定期購読なら買い逃しがありません。


詳しくはこちら

「ザイ」は年間12冊を予約購読すると、市販価格 7,200円→6,600円(税・送料込み)で、1冊分お得。
※別冊・臨時増刊号は含みません。


詳しくはこちら

偶数月の1日発売(隔月刊)。1年購読(6冊)すると、市販価格 5,880円→4,700円(税・送料込)で、20%の割引!
※別冊・臨時増刊号は含みません。

お知らせ・ご案内

会員専用ページ開始のお知らせ
7月より一部の記事で、無料会員登録した方だけが全文を読める形に変わりました。詳細はこちらをご覧ください。