きょうの社説 2009年8月21日

◎能登沖の沈没船調査 「地域おこし」に連動させたい
 能登沖に眠る沈没船から、意外な「お宝」が見つかるかもしれない。日本海域水中考古 学会が今月から珠洲市沿岸海域で始めた水中調査は、北前船などの沈没船の記録が数多く残る能登沿岸海域の「水中文化財」に学術の光を当てる試みである。この壮大な夢を「地域おこし」に結びつける発想がほしい。

 能登沿岸では海底に沈んだ船の積み荷が網などに掛かって引き揚げられることがあり、 たとえば「海揚がり」の珠洲焼は、これまで十数点が見つかっている。これら水中文化財は、三大古窯の一つに数えられる珠洲焼の一大産地として、また海上交通の要衝として多くの港町が栄えた能登の繁栄をしのばせる貴重な財産である。

 特に多くの沈没船が眠る珠洲沖は、カリブ海賊の黄金伝説のような物語性があり、地域 挙げて日本海域水中考古学会の調査を支援する意味はあるのではないか。工夫次第で新たな観光資源として活用できるだろう。研究成果を全国に発信したり、ふるさと教育に反映させることも求めたい。

 日本海域水中考古学会は、金沢大学考古学研究室が中心となって昨年11月に発足した 。海底の文化財は条件次第で陸地より残りやすい場合があり、特に能登半島周辺は多くの水中文化財が眠る「宝の海」だという。積み荷を調べれば、どのような商品がどこで作られ、どこに運ばれようとしていたかが分かる。沈没船とともに、ふるさとの歴史も沈んでいるのである。

 日本海域水中考古学会が珠洲市沖で行ったシュノーケルによる潜水調査では、海底に珠 洲焼などの陶磁器が散乱している状況が確認された。また、珠洲焼資料館所蔵の海揚がりの珠洲焼資料や個人の海岸で採集した陶片などを調査したところ、古墳時代から近代まで多岐にわたる時代の土器や陶磁器片が多数あった。

 74年に北海道江差沖で行われた徳川幕府の戦艦「開陽丸」の調査では、砲弾や襟章な どが海底から引き揚げられた。これらの遺物は現在、復元された開陽丸内に展示されており、観光名所になっている。水中文化財をふるさとの財産として生かす方法を考えたい。

◎大麻摘発が最多 薬物汚染「入り口」の恐れも
 今年上半期の大麻事件の摘発人数が前年同期を2割上回る1446人を数え、過去最多 となったことが警察庁のまとめで分かった。大麻は他の薬物使用のきっかけになりやすい「ゲートウエイドラッグ(入門薬物)」との指摘もあり、芸能人らが覚せい剤や合成麻薬事件などで相次いで逮捕される現状を重ね合わせれば、大麻汚染の急速な広がりはさらに深刻度を増す。

 海外では規制の緩い国もあるとはいえ、大麻は日本では明らかに違法である。摘発人数 の63%は20代以下であり、法律を無視して安易に手を出す風潮が若者を中心に広がっているとすれば、社会秩序を乱す憂慮すべき状況である。法律の効果的な運用を含め、歯止めをかける方策を総合的に考える必要がある。犯罪抑止という点では厳罰化も検討課題となろう。

 警察庁によると、大麻は栽培の摘発人数が急増し、前年同期より40%増の104人と なった。インターネットで大麻の種子や製造情報が手軽に入手できるようになり、マンション居室などで栽培するケースが目立つ。ドラッグへの抵抗感や警戒心が薄れ、より刺激の強い薬物に手を出す恐れのあるのが大麻の怖さである。ネット取引の監視強化とともに、違法行為を助長するサイト運営者らに対しては栽培ほう助の適用も辞さない強い姿勢を示す必要がある。

 今年上半期の覚せい剤の摘発人数は13%減の5384人だったが、押収量は前年同期 の約41キロから約263キロと大幅に増えた。警察庁によると、末端価格は昨夏をピークに下がっており、実際の供給量は増えている可能性があるという。

 逮捕された人気タレントの酒井法子容疑者が覚せい剤を火であぶったり、パイプで吸っ たと供述したように、たばこのような感覚で使用していることが罪悪感を薄れさせているようだ。安易に復帰を認めるテレビなど芸能界の甘さも指摘されている。芸能人による薬物事件は社会、とりわけ若者に与える影響が極めて大きい。芸能界も薬物汚染一掃へ具体的な取り組みに踏み出すときである。