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【社会】

GHQ 対北朝鮮 偽札作戦 都内男性が原版保管

2009年8月20日 朝刊

未完成に終わった北朝鮮紙幣の偽造用原版(上)。下段(右)は北朝鮮中央銀行の刻印部分。下段(左)はハングルで100ウォンとある

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 連合国軍総司令部(GHQ)傘下の工作機関が、朝鮮戦争(一九五〇〜五三年)中の一九五一年、日本国内で北朝鮮紙幣の偽造作戦を進めていたことが十九日、分かった。作戦にかかわった在日韓国人の男性が偽造紙幣の原版を保管していた。作戦は戦況の変化で数カ月後には中止となり、偽造紙幣は印刷されずに終わった。 

 北朝鮮による米ドル紙幣偽造が問題視されている中、六十年近く前に、米国主導で北朝鮮紙幣が偽造されていた事実は興味深い。

 原版を保管していたのは東京都在住の会社役員延祥(ヨンサン)氏(81)。GHQ直属の機関「キャノン機関」で幹部だった延禎(ヨンジョン)氏(二〇〇二年死去)の実弟で、兄とともに作戦にかかわった。

 延禎氏は一九七三年に出版した著書「キャノン機関からの証言」(番町書房)の中で、「某国の経済攪乱(かくらん)をおこなおうというプラン」とし国名を伏せたまま作戦に触れている。偽札を北朝鮮で流通させ、経済を混乱させる目的だったとみられる。

 原版は「北朝鮮中央銀行」が五一年当時発行していた最高額面の百ウォン紙幣を偽造するためのもので、縦百八十五ミリ、横二百四十ミリの銅版。同行の刻印があり、朝鮮語で「本銀行券は銀行所有の金貴金属およびその他財産または北朝鮮人民委員会の保証書としてこれを保障する」と刻まれている。

 延祥氏や「キャノン機関からの証言」によると、作戦は「アイスボックス・オペレーション」と呼ばれ、五一年初め、GHQで命令が下りた。

 大阪で偽札作りの罪で公判中だった日本人の男性を連れ出し、東京都大田区内にアジトとして借りた一軒家に住まわせ、原版をつくらせた。高額の報酬を提供する条件で専念させ、キャノン機関で活動する韓国人四人が男性を監視した。

 朝鮮戦争は五一年三月半ばから、南北朝鮮を分かつ三八度線付近で膠着(こうちゃく)状態に陥った。北進を主張していたマッカーサーGHQ最高司令官は、戦局拡大を恐れた米政府によって四月に解任。作戦中止命令が出たのは同最高司令官が解任されて間もなくだったという。

 作戦が中止になると、監視役の四人は男性が外出中に原版や工具を携えて撤収。その結果、原版は未完成に終わっている。

 

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