大転換期の政権の行方を決める第45回衆院選がきょう公示される。
自民、民主の二大政党が選挙で政権選択を懸ける事実上初のケース。自民、公明両党の連立政権が継続されるのか、民主党を中心とする新政権が樹立されるのかが最大の焦点となる。日本の針路、将来の国のかたちを問う、歴史的に極めて重要な意義を持つ選挙である。
30日の投開票に向け論戦は一段と激しさを増しそうだ。
2005年9月の郵政選挙以来、衆院選はほぼ4年ぶりだ。小泉純一郎元首相の後、安倍晋三元首相、福田康夫前首相、麻生太郎首相と3代にわたり、民意を問わないまま政権がたらい回しにされた。小泉改革は格差拡大や地方の疲弊など多くの「負の遺産」も残した。改革路線の総括を放置したまま迷走を続けた自民党にとっては、かつてない逆風下での選挙戦である。
統治システム
昨秋の米国の金融危機に端を発した経済失速、機能不全に陥っている政治の混乱。日本社会には閉塞(へいそく)感が充満している。国家衰退の危機が叫ばれる中、今求められているのは日本再生にかける政治の力強いメッセージだ。
その意味で今回の選挙で特に注目したいのは、自民、民主両党が考える政権運営、統治システムの在り方だ。
各種業界の意向を踏まえ、霞が関に影響力を行使してきたのが自民党の統治スタイルだったが、予算の硬直化や税金の「無駄遣い」を招いたとの批判があるのも確かだ。
これに対し、政権交代を目指す民主党は、「脱官僚」をキーワードに政治主導の政権運営を訴える。内閣のもとに政策決定が一元化できれば、「官僚主導」の予算や政策づくりのシステムは大きく様変わりするだろう。
構造変化に対応し切れない官僚主導による政治の弊害が指摘されて久しい。官僚をうまく使いこなせるかどうか、民主党の力量は未知数だが、政と官の関係見直しは重要な争点の一つとなろう。
競うマニフェスト
今回は各党のマニフェスト(政権公約)がこれまで以上に徹底的に吟味される「マニフェスト選挙」の様相が濃く、公示前から論戦も熱を帯びている。
自民党は景気回復を最優先し、集中的な経済対策で10年度後半には年率2%の成長実現を掲げる。一定の経済成長を達成すれば消費税率を引き上げる意向も表明している。
民主党は、まずは行政の無駄排除を進め、消費増税は4年間封印。子ども手当や農業の戸別所得補償制度、高速道路無料化などで家計を直接底上げし、内需拡大につなげるとしている。「生活再建」を前面に打ち出しているが、財源の裏付けに懸念が残る。
地方分権にも光が当たっている。自民党は「17年までに道州制を導入」と踏み込んだ。民主党は基礎自治体である市町村の強化を優先させるが「国と地方の協議機関設置の法制化」も盛り込んだ。地方にとっては国のかたちを変えるチャンスだ。
一方、外交・安全保障政策では山積する課題に対し具体的な処方せんが示されているとは言い難い。平和戦略の理念をもっと語るべきだ。
将来ビジョン
17日開かれた日本記者クラブ主催の6党党首による討論会で、麻生首相(自民党総裁)は「経済を必ず回復させる。戦略なきばらまきでは経済は成長しない」と民主党政策を批判。民主党の鳩山由紀夫代表は「官僚任せの政治に終止符を打つ」と強調した。
少子高齢化の進展で不安を抱える将来の社会保障、膨大な財政赤字、不安定化する国際情勢、解消されない地域間格差。今ほど国の将来像を競い合う政党力が試されているときはなかろう。
しかし、各党のマニフェストを見る限り、日本をどのような国にしていくのかという将来ビジョン、国家像はまだ見えてこない。日本経済の成長戦略も踏み込み不足だ。「国のかたち」のあるべき姿をめぐって、さらなる骨太の論争を期待したい。
有権者にとっては、現実味を帯びる形でやっと訪れた政権選択の機会である。大変革期のかじ取りを託すに足るのはどの党なのか。各党の政策をしっかり吟味し、眼力を養わなければならない。