act.18 ごんぎつね 再考のすすめ
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☆先の日曜日に買った『ごんぎつね』を読みきかせながら 何十年ぶりかに再会した名作に こんなに凄い内容だったかと改めて感動しました。
要約しますと･･･物語は村の老人からの聞いた話という形式になっています。が 物語りの文章は 大半はごんぎつねの目線で綴られています。
両親のいない小狐ごんは村へ出てきては悪戯ばかりして村人を困らせていた。ある日ごんは兵十が川で魚を捕っているのを見つけ、兵十が捕った魚や鰻を逃すという悪戯をする。それから十日ほど後、兵十の母親の葬列を見たごんは、あのとき逃がした鰻は兵十が病気の母親のために用意していたものだと悟る。
「悪戯好きの狐の罪滅ぼし でも 報われずに死んじゃった」お伽噺程度にしか読み解けなかった子供時代の追憶とは 全く異なる深い感銘を受けました。作者・新美南吉は 権狐の内心の変化と権狐の目を通して描く心象風景を通して 人と人とが‘思いやることのすばらしさ’と‘わかりあうことのむずかしさ’とを緻密な表現を駆使して語りかけていると思いました。この作品は教科書の題材になってから約５０年を数え いまや小学校の教科書全部に普く収められています。ここまで全国民的に浸透する作品となると 気になるのが‘改訂’です。そこで‘原文’を確認したくなりＮＥＴで検索し読みました。案の定幾許かの修正が施されています。改訂が気になったきっかけは別にもあります。ブログやＮＥＴでも多く取り上げられているこのごんぎつねについて 作中は‘狐’‘ちいさい狐’とあるにも関わらず 多くの人が（中にはファン倶楽部的サイトも含めて）‘子狐’‘子供の狐’と理解し表記しているのを散見したからです。 なんだ細かいことを･･･と思われるでしょうか？いやいや待ってください！‘小狐’と‘子狐’では作品の趣旨を大きく違えてしまいます。私の思うところ これは‘小狐’であって‘子狐’では断じてありません。こういうことに無頓着なセンスが幅をきかすと 日本語の文章や表現の持つ豊かさが損なわれてしまうと危惧します。 ある方のブログに「もっと早く兵十に自分のやったことだと知らせておけば 死なずに済んだのに」という解釈がされており 多くの方が支持するコメントを寄せておられました。それは 失礼ながら違います。‘狐から人間に知らせる’ことができないからこその 空しさ・切なさがこの物語の底流にしっかりと存在します。それがたやすいなら そもそもこの物語は主題を失います。 ‘原文’にあって削除された文章にこうあります。「みつかっては大変なので･･･」ごんぎつねはかくれるのです。そもそも 狐の自分の姿を見られること それさえも人間は良しとしてはくれないのです。 しかし その人間が 権狐は大好きなのです。村人一人ひとりの顔・名前・特徴は言うにおよばず 村の祭りの様子から葬儀の運びに至るまで熟知しています。仲良しになれたらどんなにすばらしいだろうと夢見ているのです。 ひとりぼっちの狐は 無理とはわかっていても 嫌われ疎まれている現実には抗えないながらも 人間たちが大好きなのです。いくら奉仕し思いやっても決して越えられない相互理解の高い壁。疎まれる側にいる狐には どうすることもできない それが現実なのです。 互いを異質なものであると固定観念で縛られている同士では いかに一方が努力し歩み寄っても理解し合う事はできません。疎んじる側・攻撃する側・拒否する側こそが ひろく相手を受け入れてあげない限り‘ご互い様’となって理解の壁を乗り越え 友情が結実することはありません。 兵十がごんを撃ってしまった後に栗などをくれていたのは ごんおまえだったのか と語りかけますと･･･『ごんは、ぐつたり目をつぶつたまま、うなづきました。』が修正後の文章ですが‘原文’にはこうあります。『権狐は、ぐつたりなつたまゝ、うれしくなりました。』 撃たれましたが 人間の理解を初めて得られて うれしくなったのです。 最後に蛇足ながら･･･「もっと早く兵十に自分のやったことだと知らせておけば 死なずに済んだのに」に反論です。何らかの方法によって 兵十がその経緯を知ったとします。つまり権狐の陰ながらの援助の事実を知っていたとしたら 結末は変わるのでしょうか？つまり 権狐は火縄銃で打たれずに済んだのでしょうか？そう簡単に断言できますでしょうか･･･ ごんの悪戯のせいで兵十が得られなかった‘鰻の意味’の解釈によって答えは異なると思います。 一つ「死ぬ前にもう一度だけ冥土の土産に好物の鰻を食べたいと望んだ兵十の母親の思いは無に帰した」もう一つ「兵十の母親の病を直す あるいは延命のためには 薬としての効果がある鰻を食べさせてやりたいという 兵十の願いが叶わなかった」です。 私の解釈では後者です。‘兵十の親思いの気持ち’への償い だから作者はごんに兵十へ栗を持って行かせたのです。もし前者の ‘母の無念’だとしたら ごんが栗を持って行く先は 兵十の家の物置ではなく‘母の墓’でなくては辻褄が合いません。 もしも 私ならと考えます。私が兵十で 死んだ兵十の母親が私の息子だったら 鰻を口にしたら死なずにすんだかもしれない と臍を噛めば 狐が栗をくれようが謝罪しようが 私は躊躇なく仇の狐を撃ち殺します。 みなさんは如何でしょうか。大人になっても十分に様々な視座を提供してくれる名作を是非！  にほんブログ村 教育ブログ 幼児教育へ |
こんばんは・・・泣いちゃいました。うまくコメントできません・・・
2009/6/2(火) 午後 8:56 [ attuu0228 ]
大人になって読んでみると違う視点から作品を考えれるんですね。
最後は嬉しくなれたって方が僕は好きですね。
2009/6/2(火) 午後 10:05
＞あつうさん こんばんは
私も泣けそうなものですが この作品に関しては あまりにも関心する箇所が多く そっちが気になって うまく感情移入ができません。それでも私が泣きそうになった箇所をご紹介しますと･･･作中ほとんどが ごんの目線・一人称で語られている文章が続きます。その中で「ひがん花が、赤いきれのようにさき続いていました･･･」につづき「人びとが通ったあとには、ひがん花が、ふみ折られていました。」誰の目にもその美しさを好意をもって受け入れられるであろうひがん花･･･ふみ折った葬列の人びとの悲しみ ふみ折られたひがん花に向けるごんの優しい眼差し 美しいひがん花でさえ人の営みの中では無残にもふみ折られもするというごんの心細さ それらの心象風景を実に巧みに表現しているここで 泣きそうになります。
2009/6/2(火) 午後 10:10
＞りょうまパパさん
同感です。なぜ『うれしくなりました』は削除されたのか？
読後感を限定しすぎる と敢えてぼかしたのでしょうが･･･
しかしこの箇所にも技巧が使われていますね 結末だけに使われている技巧。映像でもよくある‘カットバック’です。兵十とごんの心象が 細かくスイッチします。
兵十「おまいだったのか。いつも栗をくれたのは」
はい！ここでごんにスイッチ『権狐は、ぐつたりなつたまゝ、うれしくなりました。』ですよねー。‘うれしくなりました’を‘目をつぶったまま、うなずきました。’では 弱い。同じ親なしの兵十が 自分のおもいやりに気付いてくれた･･･それだけで うれしい。で いいのになあ と思います。
2009/6/2(火) 午後 10:20
こんなに深い内容だったんですねぇ・・・。
もう一度ちゃんと読んでみたうえで、この記事を読み直してみようかしら。
最後は原文の「うれしくなりました」のが好きです。
「うなずく」じゃぁ何か物足りないような、こんなもんじゃないっ！と少しじれったさを覚えます(ノω・、`)
2009/6/2(火) 午後 11:46
人間同士でさえ、意思の疎通が難しく、あしやさんのおっしゃる通り、拒否する側の受け入れる心が出来ないと拒否された側はいくら頑張ってみても努力のかいなく分かり合えない・・
権狐は、わかってもらえない側の人間の象徴かも。生きる事は修行なのだと思います。
2009/6/3(水) 午前 0:07 [ ねこあし ]
原作から、良かれと思って改定されるんだろうけど、「さるかに合戦」にしろ、残念な改定って多いですね。
人間の汚い部分にも気づかせてあげることのできるごてごてした名作より、
綺麗でスマートな名作が「売れる」からなんでしょうかね・・・。残念。
2009/6/3(水) 午前 2:48
＞ちかさん おはようございます
仰る通り すごーい味わい深いですよ。多分 読み手毎の年齢や性別や生い立ちの個体差によって 感じ方が違うのだと思います。
わが３歳児には まだ難しかったですね･･･でも クライマックスの「ごんを、ドンと、うちました」の箇所では じーっとくいついていました。読む私に 読み聞かせ方の巧拙が問われるなあ と感じました。是非 読んでみてください。そしてお坊ちゃんと。
2009/6/3(水) 午前 5:46
＞ねこあしさん おはようございます
ありがとうございます。只 私の解釈であって 通説としての解釈は 多分別にあるように思います。ある学者の分析では ‘かぐや姫’‘鶴女房（つるの恩返し）’‘浦島太郎’などと同列に括られています。‘人間と人間以外の異型生物との交歓の可能性’として 人間側が相手が人間でなかったと知った瞬間に それまでの交歓は夢などとされ 以降は現実が引き継がれてはいかない という物語の構成上の共通点がある。として括っていますが･･･だから何なの？って感じです。‘わかりにくさ’を残したところに 教科書的要素（皆でそれぞれが感じたままを語り合おう的要素）が魅力でもあるように感じます。
2009/6/3(水) 午前 5:57
＞きらきらたまごさん
わが息子が 保育所の先の生活発表会で演じた‘三匹のこぶた’を見て 本屋で絵本を買ってやろうとして･･･二度とも なんじゃこりゃです。
私の知る‘三匹’はこうです。わらの家を作った長男豚も木の家をつくった次男豚も 家を狼に吹き飛ばされ食べられてしまう。そしてレンガの家の三男豚だけが 吹き飛ばせずに煙突から入った狼を食べる。長男・次男・狼は食べられて三男だけが生き延びる です。
でも書店に並んでいる三匹は 揃って生きていて元気に笑ってます。
レンガの家が狼や災害等の外敵対策には最も効果があるものの それを作るには藁や木の家とは比べ物にならないくらいに骨が折れる。結局 そのレンガ家を作った三男ぶたの労苦が報われ 辛くても地道に努力することは素晴らしい という教訓を意味した因果応報の物語だったのでは。
これが ‘皆で団結して狼を退治した’労働組合のオルグみたいな仲良し崇拝と‘藁と木の失敗を経てレンガが最も効果的であることに気がついた'っていう‘失敗は成功の母’よろしく失敗を恐れずに試行錯誤しよう成功体験話 にすり替わっている･･･うむ〜です。
2009/6/3(水) 午後 0:23
はじめまして。
新美南吉の作品は大好きです。
すごく深く読み込んでいらっしゃって、素晴らしいと思いました。
あしやさんが、おっしゃるとおり不遇な少年時代と、ごんをだぶらせているという解釈をされる方も多いと思います。私もそうでした。
作家としてなかなか認められない新美南吉は、晩年なかなか良い作品を書くことができず、教員として失意のなか亡くなっていきます。
『ごん』そのものですね。
2009/6/3(水) 午後 9:46 [ せりなずな ]
＞せりなずなさん
はじめまして。訪問くださりコメントいただきありがとうございます。先の日曜日に買ってから 毎晩息子に読み聞かせておりますが その都度 新しい発見のある 実に味わい深い作品だと思います。
鈴木三重吉が添削した結果 新美南吉特有の題材の活かし方を損なうことなく かえって‘児童文学’として高い完成度を持つに至ったと思います。原文を殺さず 改訂が奏功した好例ではないかと思います。もっともっと読み込んで 新美南吉独自の世界観と鈴木三重吉の文章作りの天才芸 とを味わってまいりたいと思っています。
2009/6/3(水) 午後 9:58
とても興味のある記事でした。私もごんぎつねは何度か読んだことがあるのですが、貴方の解釈が正しいとおもいます。新美南吉が１８歳のときにこの作品を書いたとか、彼が幼少期に母親と死別し曲折の末８歳の時に実母の実家の継祖母の養子になったことを初めて知りました。木庵
2009/6/3(水) 午後 10:45 [ tak*ona*tou*a ]
＞木庵先生
お褒め頂きありがとうございます。記事本文での言葉足らずを補足させていただきますと。
ごん狐に南吉自身を投影させていると感じる根拠は次の通りです。
この作品の主題は‘立場を異にするもの同士が心を通わせることができるのか･･･できる と信じたい！しかし できないのが現実ではないか’にあると思います。そしてこれが主題となる必然を 私は南吉の特異な生い立ちに求めました。
それは 実母（幼くして死別）・継母・実母の継祖母との養子縁組といった複数の母親の存在があり それらとの関わり方を通じて 人と人との関わりの理想への強い憧れと打ちのめされる日常の現実への悲壮 といった情緒が南吉の内部に深く根を張ったのではないでしょうか。あくまでも想像ですが。
2009/6/4(木) 午前 1:15
あしやさん(*ﾟｰﾟ)vｵﾊﾖ♪
この記事を読ませていただき、この作品をあしやさんが深く読まれて伝えていただいたお陰で私も感動しました。
お互い異質なものと認めた者同士、そうですよね。。。一方が歩み寄って努力を重ねても、理解しあえる仲になるのは簡単ではありません。でも、諦めることなく努力をし続けて、なんとか理解しあえる仲になりたいものです。
あしやさん！今日もハードな一日になりそうですね。
ｶﾞﾝﾊﾞ!(*ﾟｰﾟ)ﾉ"☆/;^-^)ﾉﾍﾞｼｬｯ
ポチです!!!
2009/6/4(木) 午前 7:05
はじめまして！ 記事を読ませて頂き、なるほどな〜 と関心いたしました。ごんぎつねの故郷・新実南吉記念館は近いので再訪し、じっくり味わい直してみたいと思います。ありがとうございました。
2009/6/4(木) 午後 7:26
大人になると、自分の人生と重ね、色々な感情がわいてきますね。大切なその意味が、子供たちにも伝わるといいな・・・と思います。
2009/6/4(木) 午後 7:39
＞寒風さん はじめまして
お褒めくださり ありがとうございます。
新美南吉を再認識し調べだしたのは この日曜からですので･･･
私の偏見や手前勝手な我流の解釈の域を出ません。
何度も読み返して 南吉の思いを汲み取って行きたいものだ と思える 本当に素晴らしい作品に出会えてうれしいです。
2009/6/4(木) 午後 8:52
＞Soraさん
仰るとおりに 子供たちに伝える ことこそ大事だと思います。
そのためにも できる限り作者南吉の伝えようとしたことを 正確に汲み取りたいと考え 繰り返し読んでいます。
いまの私の一日は‘新美南吉童話集’を通勤電車で読むことから始まります。
2009/6/4(木) 午後 8:56
＞カンナさん
ごんぎつね のすばらしさをお伝えすることに一役買えたのでしたら 大変張り合いを感じます。ありがとうございます。
でもこの作品･･･ほんとーーーに 奥が深いのです。そして すごい精緻に作り込まれているのです。読み返すたびに疑問が湧き その疑問を解明したくてまた読み返し･･･買った日曜日からもう１００回以上読んでます。次回更新も また‘ごんぎつね’でいきますから 読んでくださいね。
2009/6/4(木) 午後 9:07
なるほど思いました。でも、もっとやさしい文章が語ってくれればとも感じました。
2009/6/6(土) 午後 7:00 [ you*a*329*a ]
＞you*a*329*aさん
訪問コメントありがとうございます。
2009/6/6(土) 午後 7:23
今の漫画やTVなどでは得られないそんな絵本が好きです。
是非機会があったら読んでみたいと思いました。
2009/6/8(月) 午前 9:17
＞ニコノ屋さん
コメントありがとうございます。
是非 おすすめいたします。
ややもすると受身のままですんでしまう漫画・ＴＶとは違って
自分から作品へ飛び込んでいく主体性を持たないと 作り手の主張が理解できない。そんな思索の格好の機会が得られると思います。
2009/6/9(火) 午前 5:18