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社説:国立追悼施設 今度は議論途切らすな

 64回目の終戦記念日を迎えた15日、麻生太郎首相は事前に表明していた通り、靖国神社を参拝しなかった。毎日新聞は一貫して首相の靖国参拝には反対してきた。麻生首相の対応は当然のものと考える。

 これで小泉純一郎元首相以降、安倍晋三元首相、福田康夫前首相、麻生首相と3人の首相が在任中の参拝を見送り、その流れは定着してきたように見える。ただし、内外の人々がわだかまりなく戦死者をどう追悼するのかという長年の課題が解決したわけではない。

 こうした中、注目されるのは民主党の鳩山由紀夫代表が仮に今度の衆院選で同党が政権を獲得し、首相になった場合には自身だけでなく閣僚にも参拝自粛を求める一方、靖国神社に代わる国立の追悼施設建設を検討する考えを示したことだ。

 これは決して新しい考え方ではない。01年8月13日、靖国に参拝した当時の小泉首相は直後の談話で自ら問題提起し、官房長官の私的懇談会を作って追悼施設建設を検討したことがある。

 報告書は結論として「日本が平和を積極的に求め行動する主体であることを世界に示すため、国を挙げて追悼・平和祈念を行う国立の無宗教の恒久的施設が必要」と提言するものだった。ところが当の小泉氏が、たとえ新施設を建設しても靖国神社に代わるものではないと言い出して靖国参拝を継続した結果、構想は急速にしぼみ、一時検討された予算への調査費計上も見送られた。小泉時代、中国や韓国との関係が険悪になったことは指摘するまでもない。

 私たちが首相の靖国参拝に反対してきたのはアジア諸国への配慮だけでない。靖国問題の本質は極東軍事裁判でA級戦犯となった人々が合祀(ごうし)されている点だ。昭和天皇がA級戦犯合祀に強い不快感を示していたことも近年判明した。国民の間にも先の大戦の正当化につながりかねない靖国神社のあり方に疑問を持っている人は多いだろう。

 靖国神社側はいったん合祀されたA級戦犯の分祀は神道の教義上、困難だという。一方、麻生首相はかつて靖国神社を今の宗教法人から特殊法人に変える案を示したが、政界で支持が広がっているわけではない。自民、民主両党の議員の中にはさまざまな意見があるのも事実だ。

 しかし、国民や外国の人々がわだかまりなく訪れ、追悼できる場をどう作るかは、いずれ結論を出さなくてはならない問題だ。衆院選の結果がどうあろうと、今の千鳥ケ淵戦没者墓苑の拡充案も含め、やはり新たな追悼施設の検討を政界全体で再び始める時期ではないか。今度は議論を途切らせないことだ。

毎日新聞 2009年8月16日 0時16分

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