福留が連載している「靖国・天皇制問題情報センター通信」の<韓国の報道を通して見る日本の過去問題>のシリーズ17と18に、『ヨーコの話』について書きましたので掲載します。 |
韓国の報道を通して見る日本の過去問題
■ 『ヨーコの話』 (2007年1月 NO.55) 最近、韓国のメディアを賑わしている本がある。米国在住の女流作家、ヨーコ・カワシマ・ワトキンスが書いた“So far from the Bamboo
Story”だ。この本は、韓国で『ヨーコの話』という名で翻訳され、出版されている。この本が、論議を呼んでいるのは、主に次の三つの点によっている。
@著者が敗戦直後に目撃したとする韓国人による日本女性への性暴行が記述されている。 Aこの本が、米国で中学校の副読本に採用されている。 B著者の父親が、731部隊の幹部であったという推測がある。 1月17日から24日までの約1週間、多くの韓国メディアが『ヨーコの話』を採り上げた。その報道のあり方や論述は、韓国人の日本の植民統治に対する「記憶」そして現在の対日感情などをかいま見せている。この本は、日本では翻訳・出版されておらず、筆者は原著や韓訳本を読んでいないので、コメントを控え、韓国の関連報道を紹介したい。 ●
日本の敗戦直後、韓国人らが韓国から脱出しようとする日本人の女性や子供を迫害し、性的暴行をほしいままにしたという内容が記された日本人作家の自伝的実話小説が、米国の全地域で中学校の教材として使われていることが分かり、現地の韓国系市民らが強く反発するなど、波紋を呼んでいる。(中略) 1986 年に出版されたこの本は、第2次世界大戦で日本が敗戦した当時、11歳のヨーコと家族らがソウルと釜山を経て、日本に脱出する過程で体験した内容を記している。ヨーコ氏は、脱出の過程で起きた韓国人らの日本人に対する無慈悲な追跡とテロ、脱出過程での苦痛と飢えなどを描写し、人々がばたばたと死に、性的暴行がほしいままに行われるのを目撃したと記述していると伝えられている。[東亜日報 1/18]
● シベリアで6年間服役した日帝戦犯の娘のヨーコ・カワシマ氏が書いたこの本は、大部分の歴史的事実を歪曲し、日帝当時の韓国人たちが善良な日本人たちを虐待し、性暴行を繰り返したように描写しています。これに関してボストン領事館は、この本によって、韓国人学生たちが学級で孤立して困難に陥る状況まで発生しているとし、政府次元の是正活動を積極的に展開すると明らかにしました。[mbn 1/17] ● シベリアで6年間服役した日帝戦犯の娘のヨーコ・カワシマ氏が書いたこの自伝的小説は、特に、大部分の歴史的事実を歪曲し、日帝当時の韓国人が善良な日本人を威嚇して性暴行を繰り返したと描写している。一言で言って、あきれるほかない。加害者と被害者が全く逆になっているからだ。35年間の植民統治で、韓国人たちが受けた苦痛を少しでも理解していれば、このような荒唐無稽な小説は出せないはずだ。歴史的な事件についての解釈や主張は、学者や作家によって異なることもあるが、事実(fact)に根拠を置かない解釈や話の展開は詭弁や捏造に過ぎない。いくら小説が虚構(fiction)としても、事実に基づいていないとすれば、それは「嘘」に過ぎない。[聯合 1/17] ● (著者の)父親は、日帝時代、人間生体実験の蛮行を犯した「731部隊」の最高位級の幹部である可能性が強いという疑惑が提起され、事実かどうかが注目されている。(中略)
抗日独立軍とロシア軍の追跡を受けたヨーコ氏の父親がどうなったのか、以後の経緯は出てこないが、彼は結局逮捕されてシベリアで6年の刑を受け、日本に帰ったと本は明らかにしている。[聯合 1/18] ●
『ヨーコの話』の韓国版を出した出版社のホームページが、今日接続が麻痺しました。日帝高官の娘で咸北清津に住んでいたこの作家が、韓国人の日本女性への性暴行など各種の暴力を目撃したというこの小説が、歴史的事実を歪曲しているというネチズンらの抗議が暴走したためです。しかし、出版社側は、歴史書と小説は区別しなければならないと主張しています。[MBC 1/18] ●
小説『ヨーコの話』をめぐる真実の攻防が始まった。いまだ真実を検証しようとする具体的な努力がないにもかかわらず、少なくとも韓国のマスコミでは、「真実でない」の側に重心が大きく傾いている。(中略)
論争を分析することは重要だ。しかし、今は真実の攻防をめぐる論争をするには、容易でない時点だ。「真実でない」という主張がまっさきに台頭しているが、より慎重になれば、真実を解明するには少なからぬ努力と時間が必要だとまず思われる。
[プロメテウス1/19] ●
『ヨーコの話』を通して、戦争と暴力の属性、そして戦争と女性たちの生という主題について、より深く窺うことができる。被害国の女性と加害国の女性は、誰も戦争という状況の中で、性暴行脅威から自由になれない。歴史の中で、女性たちは侵略国の軍人によって、強姦されてきたし、ベトナム戦で見られるように友好国の軍人によっても強姦された。戦時には、軍人でない民間人による集団的な強姦が横行しもした。 しかし、「性暴行」の問題は、加害国と被害国、戦勝国と敗戦国の構図にだけ注目すると、表面に出ずにたやすく死蔵されてしまう。戦時に起きた性暴行、侵略の道具として、あるいは侵略の報復として強行された強姦は、被害女性たちに大きな傷を与えているが、集団的に沈黙してきたという点を想起する時、『ヨーコの話』は価値がある。[イルダ 1/23] ● 『ヨーコの話』の韓国版の販売が中止される。文学ドンネは、24日「著者の先祖が731部隊高位幹部だったとの疑惑に関して、著者が祖先の行跡について沈黙や歪曲をしているのは、自伝小説に許容される小説的変容の限度を越えるもの」とし、「著者の先祖に関するあらゆる疑惑が解消されるまで、この本を出版と販売を中止することを決定した」と明らかにした。[朝鮮日報 1/24] |
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韓国のマスコミは、その後も『ヨーコの話』(原題 So far from the bamboo grove)に関連した報道を続けている。それらの多くは、客観性に欠け、民族主義的な様相を帯びている。そして、この小説と著者のヨーコ・カワシマ・ワトキンス氏を攻撃する文が韓国のインターネット上にあふれ、「ヨーコ
イヤギ(話)」での韓国版グーグルの検索表示数は百万件を越えている。そのような中、事態を客観的に把握しようとする次のような報道も現れている。 ● 『ヨーコの話』は日帝時代、北朝鮮地域に住んだ12歳の日本人少女が見た戦争の惨状を記録したものだ。1945年7月29日、ヨーコが母と姉と一緒に咸境道の羅南を脱出することから始まる。前半部は辛うじて避難列車に乗り込み、母娘3人がソウルを経て釜山にたどり着くまでに経験した緊張と恐怖を、後半部は日本に到着した後、同胞たちから受けた蔑視と冷遇に屈せず、克服していく過程を描いている。問題の性的暴行シーンは2,3回出てはくるが、短く間接的に描写されていただけだった。「朝鮮人の男たち数人が女性を森に連れて行き、『助けて』という日本語を聞いた」というふうだ。これらを読んで歴史を歪曲し、韓国人を侮辱すると憤慨するのは度が外れた被害意識の発露だというのが率直な心情だ。[中央日報 1/23] しかし一方では、主観的で偏った報道が続き。日本では、多くの右翼志向のネチズン(ネット愛好者)たちが、これらの報道に反発し、攻撃的な文をインターネット上に記している。 ● 『ヨーコの話』は、誤謬や不正確な記述に基づいたもので、「小説」の形態をとっているが、自伝的実話に基づいているとも主張している。このような形態は、韓国人の対日感情や日本人の対する感情を悪化させるだけだ。このような『ヨーコの話』を政治的に利用しようとする人たちに言う。そうした時は、この「竹の話」の竹が「竹槍」となって、あなたの良心と韓国人の熱い胸をねらうことになるだろうと。
[京郷新聞 1/24] 米国で『ヨーコの話』が問題になったのは、この小説が中学の社会科の教材として、使用されてきたことに基因している。米国で、当時の東アジアの歴史的状況を説明することなく、『ヨーコの話』が読まれれば、韓国人に対する偏見が中学生の間に植えつけられることは充分予想される。それゆえ、中学生の保護者たちを中心とした反対運動が、昨年から米国各地で展開されてきた。 ● 率直に私が思ったこの本の深刻な問題は、息子の友人たちが授業後に持つようになる韓国に対するひどく誤った先入観とそのために受けなければならない息子の不利益だった。作家は、本の序文にこれら全ての内容が事実であり、自身の経験だと書いており、子供たちは前後の歴史を全く知らないたかだか11才の子供たちだ。いったい、その子供たちが、あるいはその両親たちが、韓国をどんな国と思うようになるか.... 眠れなかった。特に、私たちが住むウェルスルーは、東洋人の数が少ない。中学校6学年340名のうち、韓国人は私の息子を含めて、たった2人の男子生徒だけだ。[メディア今日 1/25] ● 米国の私立学校に続き、ニューヨークの一公立中学校が、1月30日韓国人を加害者として、日本人を被害者として描写し、歴史歪曲批判を受けている小説『洋子の話』の授業を電撃的に打ち切った。[世界日報 2/1] 保護者たちの運動は、2月14日米国での提訴決定に至った。翌15日、ヨーコ氏は以前から予定していた記者会見を開いた。この記者会を伝える韓国マスコミ報道は、ヨーコ氏の発言の全てを伝えなかった。一連の韓国マスコミの過度に民族主義的な反応は、日韓の市民レベルの友好の根幹をも揺さぶりかねない状態にあると危惧される。“幸い”、日本のマスコミはほとんどこの動きを報じていないが、これが日本にそのまま伝えられれば、日本で韓国に対する民族主義的な大反発が生じかねないからだ。 ● 〈アンカー〉韓国人を加害者に、日本人を被害者に変身させた『ヨーコの話』の歴史歪曲論争は、結局米国法廷で決着がつけられそうです。韓国人が提起した訴訟に、ニューヨークのある有力ローファームが無料弁論を申し出ました。〈記者〉(中略) 訴訟の焦点は歪曲された内容で、幼い生徒たちを欺瞞したということで、訴訟対象は作家のヨーコ・ワトキンス氏と出版社などが含まれると伝えられています。[MBC 2/15] ● 「万一、私が本当にありのままを書いたとしたら、皆が身震いするでしょう。」日帝慰安婦蛮行に苦しんだハルモニたちが米議会の聴聞会で痛恨の記憶を涙で証言した15日午後、ボストンで記者会見を行って、『ヨーコの話』の歴史歪曲批判を釈明したヨーコ・カワシマ・ワトキンスン氏は、韓国人が日本の少女たちを性暴行したという主張を曲げなかった。(中略) しかし、韓国人の性暴行の姿を全ては表現しなかったというヨーコ氏の堂々とした主張には、歴史的事実と異なるという反論が記者会見場で直ちに提起された。[YTN 2/16] 私たちは、このような『ヨーコの話』をめぐる事態を冷静に把握していくべきだと思う。プロメテウスの一記者の次のような指摘とともに。 ● 民族主義は、歴史の流れの中でずっと循環しつつ、加害者を被害者に、被害者を加害者に仕立て上げる。1917年のロシア革命前、ロシア皇帝の圧制からポーランドを解放するために戦ったポーランドの民族主義が、第2次世界大戦当時にはポーランドの解放運動を共にしたポーランドのユダヤ人を弾圧するイデオロギーに変身したように。また第2次大戦当時、ゲルマン民族主義のファシズムによって、莫大な被害を被ったユダヤ人たちが、今日パレスチナ民族に対する苛酷な弾圧者の役割をしているように。日本の第2次世界大戦当時、民族優越主義-大東亜主義に真っ向から戦った韓国の民族主義は、今日仕事を求めて韓国に来た東南アジアの諸民族に対する理由のない差別として、『ヨーコの話』を書いた著者ヨーコに対する非理性的な人格冒涜にまで発現している。韓国人の民族主義は、その瞬間にユダヤ人の民族主義と重なっている。[プロメテウス 2/18] 福留範昭 (強制動員真相究明ネットワーク事務局長) |
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