2005年06月30日
＊「小売業は雑魚」の一言に奮起
卓也は昭和二十九年（一九五一）、四日市商工会議所の商業部会長に就任した。当時、会議所議員は五十五人だった。このうち小売業者は、卓也を含めてわずか二人だった。
昭和三十年（一九五五）の議員改選の際、卓也は、小売業代表者十人を立候補させた。そのとき、古参議員の一人が、
「商業部会で十人を立候補させるなど、無茶な話だ。岡田君、小売業など言ってみれば雑魚じゃないか」
と吐き棄てた。小売業蔑視の考えが根強く巣くっている。この一言に悔しさを噛みしめて奮起した。以後、小売業の向上を目指して奮闘が続く。
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2005年06月29日
＊デフレ、暴落を感じ「大売り出し」
昭和二十五年（一九五〇）一月、卓也は、高田保子と結婚した。千鶴子は、新所帯を構えた卓也に全権を託して、自らも小嶋三郎と結婚した。
昭和二十五年六月二十五日、朝鮮戦争が勃発した。この年から昭和二十六年にかけて、日本はアメリカ軍の朝鮮出動の中心基地となり、戦略物資の調達が始まった。いわゆる朝鮮特需である。特需物資は、戦争用資材から民生用の食料、衣料、さらにサービスの分野まで及んだ。昭和二十八年ごろになると、日本の生産水準は、戦前の水準まで回復した。 昭和二十六年十二月、卓也は、名古屋の大手問屋「瀧定」の荷開きに出向いた。荷開きには、上得意で構成する「名瀧会」のメンバーが招かれて、優先的に仕入れることができた。
ところが、その日は、懇意にしていた瀧定幹部の一人から、「今日は控えめに」と伝えられた。周囲では百貨店、卸問屋のメンバーが開梱されたサージ生地を大量に買い付けていた。
卓也は、その足で愛知、京都、大阪などの主だった産地の情報集めに走った。
このころ、日本は、「ドッジ・ラインによるインフレ抑制対策のため、逆にデフレ状況が現出し、金詰まりによる企業の倒産が続いた。メーカーは、在庫過剰に苦しんでいた。暴落を感じ取った卓也は、「大売出し」を決意し、トラック単位のサージ地を仕入れた。五世・惣右衛門の残した教訓「下げで儲けよ」を生かした。
卓也は昭和二十八年（一九五三）、七〇メートル道路に面した駅前の土地買収に取りかかった。店舗拡大である。
岡田屋の売場面積は、新道移転当時一九九�屬世辰拭�それが、昭和二十七年（一九五二）には、三三〇�屐⊂赦損綾衆貲�（一九五六）には、七六九�屐⊂赦損綾銃麈�には、一〇三四�屬冒�床している。新道移転当時の約五十倍、売上は十倍に伸ばしている。
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13:08
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2005年06月28日
＊開店大売出しが功を奏する
昭和24年（1949）12月17日、岡田屋新道店がオープンした。間口五間半、奥行き20間、売場面積199�屬遼楹雰�築だった。
開店大売出しでは、初日は、174万8926円50銭、二日目は、103万2444円90銭、3日目は、51万4542円95銭、在庫品の半分が売れた。岡田屋自身はもとより、問屋も銀行も驚いた。
新道店は四日市の新しい繁華街に位置していて、この店舗立地の良さが、功を奏した。そのうえ、店は大きく、商品も安い。商いの条件が三拍子揃っていたのだから、売れて当然だったとも言える。
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13:43
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2005年06月27日
●小売業の地位向上に貢献する
＊「衣料品は岡田屋へ」のポスターを貼る
さらに昭和22年（1947）正月には四年間途絶えていた福引景品付きの初売りを復活した。一等は下駄箱、以下、クリーム、檜のまな板、金属製石鹸入れ、鼻緒、クリップなどだった。
一方、深刻な物資不足が続くなかで、配給品の横流しや闇商売が横行した。
闇市の猖獗ぶりに手を焼いた政府は、昭和22年9月、衣料品の切符制を復活し、「配給店登録制」を施行した。
消費者は、自分が登録した配給店で購入するという制度である。
このときは、販売量と配給量がリンクしており、店が販売回収した点数に応じて、翌月の配給量が決定された。
岡田屋は、登録制度発表と同時に、「衣料品は岡田屋へ」というポスターを各所に貼り出した。
卓也も千鶴子も店員と手分けをして、戸別訪問し、登録の勧誘に歩いた。衣料切符の登録が多い農村地区へは、毎月出張して売り出した。配給衣料品と雑貨品をブリキ箱に入れて、それを自転車の荷台に積み上げて鈴鹿山麓の町や村を回った。村の公民館や大きな農家を借りて雨戸を並べて売り台が、即席の店舗だった。
出張販売のリーダーは卓也だった。岡田屋の登録数は、四日市はおろか、三重県下で第一位となった。
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14:20
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2005年06月26日
＊卓也が岡田屋七代目となる
昭和21年（1946）6月、戦前からの岡田屋呉服店は、新たに株式会社岡田屋として発足し、代表取締役には、早稲田大学在学のまま卓也が、就任した。卓也は、週に一度、夜行列車で上京し、勉学を続行し、東京では、大きな風呂敷に仕入れた品物を包んで行商もして商才を発揮して利益を上げた。
昭和21年7月2日と3日、戦後初めての売り出しを行った。広告には、「焦土に開く」というチラシを新聞に折り込んだ。卓也は岡田屋の知名度アップ作戦を徹底的に行ったのである。
売り出しも折り込み広告も四日市では、戦後初めてのことだった。ようやく平和で落ち着いた時代が戻ってきていた。
さらに卓也は、岡田屋のマークの入ったベンチを市内の各所へ寄贈した。通りがかりの人やベンチに座って一休みしたりする人々がに嫌がうえにも岡田屋の名前を目にする。
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13:55
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2005年06月25日
＊日用雑貨、食品、文房具類を販売
昭和21年3月になり、岡田屋は復興開店した。バラック平屋建四十坪足らずながら四日市では最大の規模だった。
販売台は、軍隊払い下げのベッドに戸板を載せたものだった。開店時に取り扱った商品は、霧吹き、杓子（しゃくし）、鍋のフタ、ピンセット、クリップ、クシ、蒲の穂の代用綿、ロープ、文房具、下駄、染料、化粧品、福神漬などだった。二百年間、呉服一筋でやってきた岡田屋が期せずして日用雑貨、食品まで販売することになった。大変身である。 仕入れは、生産者との直接の取引で、ブローカーには頼らなかった。思い切った薄利で売った。とくにノート、鉛筆、草子など文房具類に力を入れた。これは、岡田屋の名前を子どもを通して思い出してもらおうという戦術である。
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12:09
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2005年06月24日
＊次姉・千鶴子が新円切り替えに決断
昭和二十一年（一九四六）二月十七日、幣原内閣は、インフレ抑制策の切札として「金融緊急措置令」を発令した。従来の紙幣の運用を停止し、新円を発行するというものだ。 旧円は、銀行や郵便局に強制封鎖され、新円の引き出しを限度額は、所帯主で一か月三百円、家族は一人当り百円だった。
この金融緊急措置令を前に、岡田屋としては、戦後最大の意思決定を行った。戦時中、千鶴子が目にした書物に、第一次世界大戦後のドイツを襲った狂乱インフレの実施し通貨の改革による収集策が記されていた。
昭和二十一年が明けて早々、日本経済新聞が新円切り替えの近いことをスクープしていた。
千鶴子は、ドイツの事例に想到し、手持ちの現金をすべて商品に換えた。店の再開金が潤沢でないなかで、これは思い切った決断だった。旧円のまま温存していたら、非常な制限を受けることになり、その後の急速な復興は不可能だったに違いない。
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2005年06月23日
徹底した広告宣伝とアイデア商法で知名度を上げる
＊焼け跡から立ち上がる
岡田卓也は昭和13年（1924）、富田中学（現在の四日市高校）に入学、昭和18年（1943）、早稲田第二高等学院へと進み、昭和20年（1945）3月、早稲田大学商学部在学中、1年繰り上げの兵役に徴集される。陸軍初年兵として訓練を受ける。
卓也は昭和20年9月21日、兵役から復員、帰郷した。この間、岡田屋は、父母、上姉が相次いで他界したため、次姉の千鶴子が代表取締役に就任し、「陰の七代目」として店を切り盛りして、卓也の帰郷を待っていた。千鶴子は、神戸高等商業学校の平井泰太郎教授をわざわざ招いて経済学を学ぶほどの才女だった。平井教授から教えられたことが後に経営に大いに役に立つ。
ところが、昭和20年6月18日の空襲で岡田屋本店をはじめ、西町の旧本宅も西町三区の本宅も焼けた。10月初め、本宅の焼け跡の芝生に姉の千鶴子、卓也、母方の祖父・美濃部貞治、加藤徳一、岩田庄七、田木信一の6人が車座になって営業再開の計画を練り、焼け跡からの再起を図った。店が開店するまで間、丸公物の鼻緒やオシメカバーを仕入れて京都、大阪へ運んだ。卓也も店員と一緒に荷物を担いで率先して出かけた。
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11:53
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2005年06月22日
「暴落大売出し」の逆転の発想で巨利を得た五代目・岡田惣右衛門の大英断
岡田屋は、順調に業績を伸ばしていた。だが、さすがの岡田屋も第一次世界大戦後の大正９年（１９２０）３月１５日に世界を襲った恐慌の荒波を避けようがなかった。第一次株価暴落、４月７日に第二次暴落が起きた。 米、綿布、生糸の商品市場は閉鎖され、各地の銀行が取り付け騒ぎにあって休業に追い込まれた。商社の倒産が相次ぎ、全国の紡績工場の大半が、生産停止に追い込まれた。
四日市でも、問屋の投げ売りが始まった。岡田屋の蔵には、冬のうちに仕入れていた春物が大量に詰まっている。在庫を抱えて番頭たちは、
「どうしたらよいか」
と頭を抱えて、うろたえていた。そのころ病床に伏せていた五代目・惣右衛門は、番頭たちを枕元に呼んで、こう言った。
「うろうろすんな。店の蔵の品物は、ぜんぶタダになったんやと思ったたらええ。半値で売んのや。タダみたいになってしもうた品物を、値上がりするまで売り惜しむなんて、小売屋のやることやないわさ。上げでもうけやんでもええ。下げでもうけたらええのや」 五代目・惣右衛門は、惣一郎や番頭たちを大口の得意先に集金に走らせた。これで仕入れ資金をつくり、京都や名古屋の問屋、関東や越後などの産地に出向いて安価で大量に仕入れ、四日市で最大の劇場を借り切って、５月１日から３日間、「暴落大売出し」を行わせた。続いて、桑名、亀山、神戸と出張売出しを展開、本店でも「暴落大売出し」を十数回行い、仕入れ代金、諸経費を差し引いて２５万円に登る利益を得た。五代目・惣右衛門の大英断が、大成功したのである。
その五代目・惣右衛門はこの年の１２月２４日、この世を去り、惣一郎が襲名し、六代目・惣右衛門を名乗るようになった。
大正１０年（１９２１）、岡田屋は個人経営ながら、店の資本金を１０万円と定め、店員にも持分を決めた。同年、岡田織物工場の跡に住宅を建てて移り、店と私宅の混同を廃したのであった。
また、店員の食堂、浴場、病室を建てた。五代目・惣右衛門が経営を引き継いだころ１０人そこそこだった従業員は５０人を超えていた。
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2005年06月21日
＊父・惣一郎がアメリカ仕込みの「百貨店商法」の刺激を受ける
ところで、五代目・惣右衛門夫妻には、子どもがいなかった。
「このままでは、店が亡びてしまう。夫婦養子をもらおう」
惣右衛門の妹・ひさのに婿養子として前田末吉を迎えた。末吉は、西町の紙商「鍵忠」に奉公していて、その勤勉な働きぶりに、惣右衛門の母・うのが目をとめて、見込んだのである。
末吉・ひさの夫妻の間には、長女・とよ、次いで、明治１８年（１８８５）に長男・惣一郎が生まれた。卓也の父である。
惣右衛門は、とよ、惣一郎の二人を自分の子として入籍し、のぶが育てた。末吉は、惣七と名を改めて西町に分家した。
五代目・惣右衛門の長子・惣一郎は明治３５年（１９０２）、四日市商業学校卒業を卒業した。その夏休みに、同級生五人と東京をめざして、東海道徒歩旅行に出かけた。約４００キロの行程である。
「渋沢栄一さんに会おう」
すなわち、目的は、当時、東京商工会議所の会頭を務めていた渋沢栄一に面会することだった。突然、汗まみれの 1６、１７歳の若者六人の訪問を受けた渋沢栄一もびっくりしたらしい。
惣一郎は、この年九月、東京専門学校から大学に昇格したばかりの早稲田大学に進学して、明治３８年（１９０５）７月、大学を卒業する。だが、四日市に帰らなかった。アメリカ留学を決意していたからである。このことを手紙に書いて。父・惣右衛門に送ったところ、父は、激怒して、店員数人を上京させて、強引に四日市に連れ戻した。
落胆した惣一郎は突如、名古屋にあった陸軍の歩兵第六連隊に志願兵として入営する。兵役一年を経て実家に戻り、家業に精を出すようになり、番頭・清水善七から商いの指導を受け、また、父・惣右衛門にも薫陶されて次第に商人としての腕を磨いていった。
明治４３年（１９１０）、名古屋の老舗「いとう呉服店」が東海地方で初めて百貨店を開業した。現在の「松阪屋」である。店主・伊藤次郎左衛門がアメリカで仕込んできた「百貨店商法」が、大衆の目を引き、受け入れられた。これに惣一郎が強い刺激を受けたのは、言うまでもない。
このころ、五代目・惣右衛門は、惣一郎の嫁探しに奔走していた。番頭・加藤久七に茶道を習うよう命じ、茶道師範の家に通ってくる娘たちを物色させた。
この娘たちのなかに、美濃部田鶴がいた。四日市高等女学校を卒業して、鈴鹿から四日市の茶道師範の下に通っていた。加藤久七は田鶴を惣右衛門を推薦したのである。淑やかで芯の強そうな娘を見た惣右衛門は、
「この娘なら申し分ない」
と頷いた。田鶴の父は、美濃部は鏘次郎といい、駒場農学校（東京大学農学部の前身）を卒業し、三重県農林部技師の職にあった。 大正元年（１９１２）１１月、岡田惣一郎と美濃部田鶴はめでたく結婚にこぎつける。
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2005年06月20日
＊大黒柱に車をつけよ
このころの四日市随一の繁華街である「辻」には、老舗の呉服（絹織物）、太物（綿・麻織物）店が集まっており、呉服太物のほか嫁入り道具一切を扱う帯屋、四日市最大の呉服店・川守屋をはじめ、江戸屋、伊勢屋、大阪屋、絹伝などの大店が繁盛していた。
だが、商いの競争も激しく、明治二十年ごろに帯屋が、大正初年には川守屋が、それぞれ廃業している。
岡田屋は、これらの大店に伍して商戦に参加し、明治時代末期には、四日市一番の地位を確立した。
呉服店が多忙になったため、五代目・惣右衛門は、最盛期を迎えていた織物工場を技師長の大塚清七に託して、呉服店の経営に専念することにした。
このころ、岡田屋は、「２つのモットー」を確立している。
一、より良い品をより安く。
一、大黒柱に車をつけよ。
「大黒柱に車をつけよ」というのは、「いつでも立地条件のよいところへ家を動かせるようにしておけ」という意味である。
ひとところにデンを腰を据えて、安住していては、商売は発展しない。停滞し、衰退を招くという教訓が含まれている。
五代目・惣右衛門は明治２０年（１８８７）、住み慣れた久六町から出て、「辻」の南町へ移している。中心部「辻」から東へ二軒目のところである、初代・岡田惣左衛門が、治田郷から四日市に移住して行商を始めてから約１３０年後のことであった。
五代目・惣右衛門の長年の夢だった。五代目・惣右衛門は、これをキッカケに屋号を「岡田屋」に改めている。また移転を記念して同年２月２０日から３日間、「開店大売出し」を行っている。
１０年後には、この店も手狭になり「辻」の北町一番屋敷に店を移した。この行動パターンは、岡田屋が拡大し繁栄するための基本原理となる。
岡田屋は、昭和２４年（１９４９）に、諏訪新道へ、昭和４４年（１９６９）には「ジャスコ」という新しい組織体に移っている。いずれも「大黒柱に車をつけよ」のモットー通りの行動をしていたのである。
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2005年06月19日
＊呉服商から紡績工場の経営へ
五代目・惣右衛門は、店の改革にも意欲的に乗り出す。店の帳簿に独自の「見競（みくらべ）勘定帳」を導入した。近代複式簿記に近い方式で、貸借対照表、損益計算書の形式を備えていた。経費計上部では、「店用」と「奥小遣い」（私用）を区別し、公私混同を避けようとした。
また、正式な店規則を定め、従業員の就業規則と給与規定を明文化した。店員を一等から十等までの「等級」を決め、それぞれに月毎の「ノルマ」を課し、「必達目標」を達成した者には、それ相応の賞与を与え、決算日には純益の二割を店員に分配する。現代で言うところのいわゆる「歩合給」と「ボーナス」である。
さらに五代目・惣右衛門は、四日市で初めて「正札販売」を始めた。日本の小売業は、三越呉服店が「現金正価掛値なし」の新方式を採用した例はあるものの、江戸時代から明治中期まで、小売業は、おおむね商品に値段を表示せず、価格は売手と買手の駆け引きで決められていた。いわゆる「符牒売り」である。こうして五代目・惣右衛門は、近代小売商人として成長して行った。
こればかりではない。五代目・惣右衛門は明治１９年（１８８６）、呉服商を営むかたわら、紡績工場の経営に乗り出した。技師長には、自動織機などの発明で名を上げていた ＊呉服商から紡績工場の経営へ
五代目・惣右衛門は、店の改革にも意欲的に乗り出す。店の帳簿に独自の「見競（みくらべ）勘定帳」を導入した。近代複式簿記に近い方式で、貸借対照表、損益計算書の形式を備えていた。経費計上部では、「店用」と「奥小遣い」（私用）を区別し、公私混同を避けようとした。
また、正式な店規則を定め、従業員の就業規則と給与規定を明文化した。店員を一等から十等までの「等級」を決め、それぞれに月毎の「ノルマ」を課し、「必達目標」を達成した者には、それ相応の賞与を与え、決算日には純益の二割を店員に分配する。現代で言うところのいわゆる「歩合給」と「ボーナス」である。
さらに五代目・惣右衛門は、四日市で初めて「正札販売」を始めた。日本の小売業は、三越呉服店が「現金正価掛値なし」の新方式を採用した例はあるものの、江戸時代から明治中期まで、小売業は、おおむね商品に値段を表示せず、価格は売手と買手の駆け引きで決められていた。いわゆる「符牒売り」である。こうして五代目・惣右衛門は、近代小売商人として成長して行った。
こればかりではない。五代目・惣右衛門は明治１９年（１８８６）、呉服商を営むかたわら、紡績工場の経営に乗り出した。技師長には、自動織機などの発明で名を上げていた豊田佐吉の高弟・大塚清七を招いた。この工場で製造していたのは、木綿織だった。これが後に、「四日市縞」として知られるようになる。
豊田佐吉の高弟・大塚清七を招いた。この工場で製造していたのは、木綿織だった。これが後に、「四日市縞」として知られるようになる。
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2005年06月18日
「大黒柱に車をつけよ」をモットにした五代目・岡田惣右衛門が、日本の近代小売業の先駆けとなる
＊五代目が近代小売業の先駆けとなる
四日市は、東海道五十三次の宿場町の一つである。岡田屋は、幕末まで「篠原屋」を名乗り、代々、絹・麻織物の「太物」や味噌・醤油・油などの「小物」の小売、行商を営んできた。
岡田屋の近代経営の基礎を築いたのは、五代目・惣右衛門だった。明治９年（１８７６）、三重県伊倉村の稲葉のぶと結婚する。２６歳のときだった。のぶは、私財を投げうって四日市港の築港に貢献した稲葉三右衛門の家系の出だった。
五代目・惣右衛門は、販売方法を変えた。太物、小物を天秤棒に担いで一軒一軒訪問する「行商方式」から「出張方式」に転換したのである。出先の村で広い家を借りて、商品を並べ、鈴（りん）を振って村中に知らせて大勢の客を集める。商品の運搬も「天秤棒」から「大八車」（「八人の代わりをする車」の意。大きな荷車の一種）に変えられた。仕入れ先も、尾張・名古屋や伊勢・松阪にまで出かけて大規模に行うようになった。
これは、日本の小売史上における大きな革命を意味していた。天秤棒から大八車へ、少量仕入れから大量仕入れへ、戸別少量販売から集合大量販売へと、「小売業」は、「近代小売業」へ一歩踏み出した。五代目・惣右衛門は、その先駆けの役目を果たしたのであった。
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2005年06月17日
ジャスコ・イオングループの創業者・岡田卓也は、岡田屋の七代目
＊大店の七代目として生まれる
ジャスコ・イオングループの総帥・岡田卓也は、大正１４年（１９２５）９月１９日、三重県四日市市西町で、父・岡田惣右衛門（惣一郎）、母・田鶴の長男として生まれた。上には四人の姉（嘉鶴子、千鶴子、稔子、みどり）がいた。実家は江戸時代の宝暦元年（１７５１）から四日市で続いた大店・岡田屋呉服店で、卓也は始祖より数えて七代目である。
岡田家の発祥地は、鈴鹿山脈と養老山地に挟まれた谷あいの員弁郡治田郷（現在の北勢町）と言われている。治田には、銀や銅を産出する鉱山があった。
岡田家は、この鉱山の管理職を務めていたが、鉱山を掘り尽くし、廃山となった後、初代・惣左衛門が、近くの新町に失業した坑夫たちを引き連れて移り、庄屋となって、荒れ地を開墾し、茶や桑を栽培して、茶は、北陸地方で売り利益を得ていた。
初代・惣左衛門は、商いの「うまみ」を覚えて、一大決心をする。
「ここを出て、四日市に行って、商いをしよう」
一家を引き連れて、四日市に移住し、久六町の横町に住みつく。近くに醤油を扱う篠原屋という店があり、この屋号を使わせてもらい、小売業を始めた。
卓也は、こうした家系に誕生した。このとき、父は、４２歳、厄年だった。この土地の「厄払い」の風習に従い、生まれたばかりの卓也は、近くの三滝川にかかる三滝橋のたもとに捨てられ、直ぐに拾われて岡田家に帰ってきた。
だが、卓也が２歳のとき父が、１０歳のとき母が他界したため、４人の姉と店員たちによって訓育された。
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