第45回衆院選が18日、公示される。前回、2005年9月11日の総選挙から、ほぼ4年ぶり。戦後の衆院選の歴史でも数少ない「事実上の任期満了」選挙である。最大の焦点は、自民、民主両党を軸に攻防が続く「政権交代」が、現実となるのかどうかだ。各政党のマニフェスト(政権公約)をつぶさに点検し、党首や候補者たちの訴えに耳を傾けて、待ちに待たされた審判のときを万全の準備で迎えたい。
●アメに惑わされないで
「バタフライ効果」という、科学理論をもとにした例え話がある。
中国の北京で1匹の美しいチョウが羽ばたくと、それを見た別のチョウも羽ばたき、2匹が4匹と増え続けて、やがて遠く離れた米国ニューヨークでは嵐になるというお話だ。
わが国で、選挙にマニフェスト導入を提唱した草分け的存在、北川正恭・早稲田大大学院教授(元三重県知事)は、マニフェストと地方分権推進によるバタフライ効果を夢見て「この国にハリケーンを起こしたい」と運動を続けてきたという。
その「チョウ」が、今回の総選挙で大きく羽ばたこうとしている。
各党がマニフェストを掲げて衆院選を戦うのは3回目。とくに今回は、政策の財源や政策達成までの「工程表」が重視され、実現可能性に厳しい視線が注がれている。私たち有権者はその中身を厳しく点検し、納得できた政党の候補者に投票するという、本格的なマニフェスト選挙が実現する。逆に言えば、私たち自身の「吟味する能力」も試されるということだ。選挙をめぐる有権者と政党・候補者との関係が、大きく変わり始めたことを実感する。
もちろん、候補者の人柄や年齢、政治経験、職歴や地域での活動ぶりなど、従来の選択基準もあろう。しかし、本来、小選挙区選挙は各政党が1人ずつ候補者を立て、政策を争う選挙だ。その意味では、マニフェストの進化で、ようやく「政党・政策本位の選挙」という15年前の選挙制度改革のスローガンに魂が入ってきたといえる。
ただ、注意しておかねばならないことがある。各党のメニューには、見た目はきれいで甘いが、そのうちに体に悪影響が出かねない危険なアメが潜んでいる可能性もあるからだ。
各党のマニフェストには、子ども手当の支給や幼児教育、高校授業料の無償化、高速道料金の無料化など、家計の負担軽減につながる「約束」も掲げられている。しかし、それらは選挙目当てではなく、本当に少子化対策や景気回復などにつながるのか。また、長年これらの施策を続けたときに、国の台所事情は大丈夫なのか。ここは、じっくり吟味がいるところだろう。
●問われる政権担当能力
政権選択を考えるとき、この4年間を振り返る視点も忘れてはなるまい。
前回の総選挙は、参院で郵政改革関連法案が否決されたことを受け、郵政民営化の是非を最大の争点に戦われた。単一の争点と、自民党の郵政造反組に対する「刺客」騒動などに有権者も目を奪われたまま、投票日になだれ込んで行ったのではなかったか。
その後の4年間、有権者には衆院選で審判の機会がなく、首相は小泉純一郎氏から、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の各氏へと年ごとに代わった。そして、この間、宙に浮いた年金や年金記録の改ざん問題が発覚、後期高齢者医療制度の導入など大きな制度改革も相次いだ。
「美しい国」を掲げた安倍政権では、「愛国心」などを盛り込んだ改正教育基本法や防衛庁を省に昇格させる法律、憲法改正の手続きを定める国民投票法などの重要法案が相次ぎ成立。07年参院選で自民党は惨敗し、安倍首相は退陣した。
その後は衆参ねじれの中で政府与党の苦しい国会運営が続き、与党は全議席の3分の2を超える衆院での圧倒的な数の力で再議決という「奥の手」を連発し、苦境を乗り切ってきた。
一方、野党の民主党も含めて議員の不祥事が続いたのも、この4年間の特徴だ。民主党では偽メール問題の引責で前原誠司氏が代表を辞任。後任の小沢一郎氏は、当時の福田首相との「大連立」騒ぎと西松建設の不正献金問題で2度も代表辞任騒動を起こした。また自民党では、失言や不祥事で組閣のたびに閣僚辞任が続発し、内閣支持率は急坂を転がり落ちて行った。
今回総選挙で有権者は、これら一連の出来事の総括も踏まえて1票を投じることになる。そして、何より重視しなければならないのは、今後4年間を展望してこの国の行く末を託すに足るかどうか、各党の「党首力」と政権担当能力の見極めであろう。
バブル経済の崩壊で財政再建の看板を下ろして以降、歴代政権は赤字国債乱発で借金の山を築いてきた。いまや国の債務残高は、6月末時点で860兆円以上の超巨額にのぼる。
このツケを安易に次の世代に回さないために、政治に何ができるのか。目先のおいしい公約だけでなく、借金地獄から逃れるきちんとした処方せんを描けているのか。
30日の投票日までに、私たちが各党・各候補者の見解を問いたださねばならぬことは、山のようにある。
=2009/08/18付 西日本新聞朝刊=