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くらしと政治:’09衆院選/1 少子化・子育て・教育

 05年衆院選からほぼ4年、やっと選択の機会がめぐってきた。昨年秋からの不況で賃金は減り、雇用もやせ細った。少子高齢化が進むこの国で、年金や医療、介護など暮らしに直結する制度をどう守っていけばいいのだろうか。読者アンケートで浮かび上がった暮らしの課題を掘り下げ、人々がどんな思いを1票に託そうとしているのかを探った。

 ◇出産・進学、心配が山積

 ◇親の雇用危うい中、奨学金通らず/不妊治療、負担重く

 「お母さん、だめだった」。神奈川県の公営団地に住む智子さん(39)=仮名=は今月7日、県立高3年の長女(18)から電話を受けた。アニメーターを目指して来年春から専門学校に通うため申し込んだ無利子貸与の奨学金が通らなかったのだ。子どもは1男3女の4人、夫の年収は約280万円しかない。「学びたい子どもが安心して学べる社会だったらいいのに」。智子さんは家計のやりくりに不安を覚えながらも初めて教育ローンを抱える決心をした。

 「好きで選んだ大家族。貧乏は我慢する」と笑い飛ばす力は残っているが、個人の力ではいかんともしがたい問題が昨年から次々と家族を襲っている。

 はじめは昨年4月に産まれた末っ子の三女の出産だった。産院不足の地元は妊婦健診の3時間待ちが当たり前。つわりがひどくても病院側の配慮はなく、座る椅子すらない。仕方なく電車とバスで1時間かかる県外の産婦人科に通うことにしたが、裏目に出たのか、前期破水や切迫流産で3度も夜間に緊急入院することに。その都度タクシー代1万5000円が消えた。「少子化問題がずっと指摘されてきたのに、長女を産んだころより出産の環境は明らかに後退している。安心して産める時代ではない」と思い知らされた。

 次女(15)とは今春の私立高校進学を機に心ならずも離れて暮らすことになった。きっかけは中学2年の時に転校などが原因で始まった不登校。進路指導で「出席日数が足りない。公立高は無理」と断言された。親子で話し合い、進学を断念しかけた時に「学費も含めて面倒を見る」と救いの手を差し伸べたのが県西部に住む智子さんの実母だった。成績上位の特待生枠で入学し、アルバイト代を食費として祖母に渡す娘の頑張りに、智子さんは「不登校だった子にも門を開く公立高があれば……」と残念がる。

 待機児童だった長男(3)が保育園に入れた今年6月、今度は電機メーカーの工場で働く夫(41)がピンチに立たされた。夫は雇用主が派遣以上に「切りやすい」という孫請けの個人事業者の位置付け。10月に契約が更新されない可能性を告げられた。一家をさらに不安にさせたのが「奨学金なし」の知らせだった。

 今回の衆院選で、各党のマニフェストには子育て世代への経済支援策がずらりと並ぶ。一家にとってありがたい話だが、子ども4人を育ててきた経験から、智子さんは「個人にお金を配るだけで済むものではない」と言い切る。「子育てには、お金だけでは解決できない問題もある。現場の痛みを理解し、血の通った政策を示してほしい。選挙のたびにばらまかれるエサが信用できないことはもう知っているから」

   ◇  ◇

 埼玉県に住む教員、早苗さん(40)=仮名=は「生まれた命には手厚いのに必死で産もうとしている私たちは置き去りのまま」と憤る。

 28歳で結婚し、仕事一筋だった早苗さんの転機は37歳のとき。子宮内膜症で子宮と卵巣を摘出した姉の姿に「出産できるはずの私が何の努力もしなくていいのか」と本格的な不妊治療を決意した。年齢を考慮し、1回3万円ほどかかる人工授精から、半年後には高度な体外受精に進んだ。いずれも保険適用はなく、全額自己負担だ。

 1回約40万円。4週間の治療期間はホルモン剤注射の痛みと副作用の吐き気との闘いだ。連日職場をいったん離れなければならず、女性の同僚からも遠回しに嫌みを言われる。仕事を辞めて治療に専念する選択も頭をよぎるが、夫の収入だけでは高額な治療費がまかなえない。不妊治療に使った費用は既に約400万円にもなる。

 妊娠判定日に職場に戻るのはつらい。こみ上げる涙は帰宅の車のハンドルを握ると、せきを切ったようにあふれ出す。「国は産めよ産めよと号令をかけるだけ。せめて半額でも助成してほしい。声を上げづらい私たちの小さな声に耳を傾けるのが政治ではないのでしょうか」【丹野恒一】=つづく

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 ■私も一言

 ◇大阪府・男性30代

 給与が大幅カット。共働きしたくても保育所が見つからない

 ◇東京都・男性30代

 無認可保育園に入れるほどの収入はないが、認可園は常に10~20人待ち

 ◇奈良県・男性40代

 病気で退職。子どもの授業料は滞納

 ◇福岡県・男性50代

 子どもが減れば国力が低下する。子どもの少ない町は本当に寂しい

 ◇北海道・女性20代

 産んで終わりではなく、成長する時にかかるお金の負担が大き過ぎる

 ◇東京都・女性40代

 本当にお金がかかるのは義務教育の後。大学卒業後に奨学金を返済せねばならぬ娘がふびん

 ◇神奈川県・女性30代

 公立小の空き教室を幼保一元化で使えば、低負担で安心して通わせられるのでは

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 ■少子化・子育て・教育に関する主な動き

06年10月 親の就労に関係なく入所できる「認定こども園」がスタート

07年 5月 事情があって親が育てられない新生児を匿名で預かる全国初の「赤ちゃんポスト」の運用を熊本市の慈恵病院が開始

    6月 06年の合計特殊出生率が6年ぶりに上昇に転じ、過去最低だった前年の1.26から1.32に

08年 1月 中央教育審議会が授業時間数を増やして「ゆとり教育」を見直す学習指導要領の改定方針を文部科学相に答申

   10月 認可保育所の待機児童が4万人を超す。増加傾向が顕著になり、「待機児童ゼロ」達成はより困難に

09年 6月 男性の育児休業取得促進策などを盛り込む改正育児・介護休業法が成立

毎日新聞 2009年8月18日 東京朝刊

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