老いて介護が必要になったとき、どこに住み、安心して余生を過ごせるのか。少子化と核家族化が進む超高齢社会にあって切実な問題だ。特別養護老人ホームなどの公的施設が不足する中、民間施設が急増しているが、抱える課題も多い。
介護が必要な高齢者は昨年3月末で453万人。5年前より約100万人増加した。一方、少子化や共働き家庭の増加で家庭の介護力は低下している。在宅介護ができない場合、まず探すのが安価な公的施設だが、特養は全国で約40万人が入居待ちの状態だ。介護が必要なのに施設に入れない「介護難民」は5年後には200万人に達するとの試算もある。
このため受け皿となる民間の有料老人ホームは急増し、自治体に届け出済みのホーム数は今年3月で4110と、5年間で4倍強になった。無届け施設も600弱あるという。
だが、サービス内容は玉石混交だ。2008年度に全国の消費生活センターに寄せられた民間有料老人ホームに対する苦情は、5年前に比べ2・4倍の368件に達した。集計可能な1999年度以降最多である。
誇大広告や法外な料金請求、サービス内容が事前の説明と違うなどの訴えが目立つ。高齢者の判断力低下で問題が表面化しないケースを含めるとさらに多いだろう。
利用者を守るためには、施設の十分な情報開示と契約内容の分かりやすい説明の義務化や、一方的なサービス内容変更などを防止する法律の整備、国や自治体による監視体制の強化が求められよう。
やはり急増している民間の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)も同様だ。07年度末からの約1年5カ月で倍増し、約3万6千戸に上った。有料老人ホームより割安で人気を集めるが、契約内容の変更や誇大広告などの苦情が増えているという。
あさって公示の衆院選に向けたマニフェストで、自民党は約16万人分の公的施設(特養、老健、グループホーム)整備や介護報酬の3%アップなど、民主党は介護労働者の賃金を月額4万円引き上げることなどを介護対策として掲げている。
だが、財源や具体性に乏しく、先を見通した高齢社会像や福祉のあり方が見えてこない。
長い「老後」を生き生きと暮らし、地域の中の「終(つい)の棲家(すみか)」で必要な介護を受けられる。安心して老いることができる社会をつくるための哲学と構想力が政治には必要だ。
農林水産省が発表した2008年度の食料自給率(カロリー基準)は41%で、2年連続の上昇となった。07、08年度とも1ポイントの改善だが、いずれも農産物の国際価格上昇による輸入減少の影響が大きく、本格的な自給率向上にはほど遠い。
08年度の上昇の中身をみると寄与度2番目の畜産物の場合、価格の上昇によりチーズの輸入が減ったことが大きかった。寄与度トップの砂糖類はサトウキビ産地の沖縄県などで台風被害がたまたま例年より少なく、自給率が高まった。主役であるコメ消費は、不況ですしが減りハンバーガーが増えたことなどでむしろ縮小した。
数字的にもわずかな上昇で、依然自給率は主要先進国中最低の水準にある。数値が浮き彫りにしているのは日本農業の足腰の弱さであり、問題はいかに農業を立て直すかだ。
農業に関し、自民党は総選挙に向けたマニフェストで、自給率を50%に引き上げるとした。だが、具体策についてはあいまいなままだ。一方の民主党は農家への戸別所得補償制度を看板政策として掲げる。米国や欧州の農業政策と同じ方向性だが、一律的な補償ではばらまき批判を免れまい。
農業就業人口は05年に1960年の4分の1に減り、65歳以上が6割を占める。農業の現状に照らす時、各党の主張は表面的、対症療法的な印象がぬぐえない。農産物自由化も難題で、民主党は農業団体などの反発から日米自由貿易協定(FTA)に関する公約を修正した。
抜本的な農業強化策を探らなければならない。もとより困難な課題ではあるが、企業の農業参入など新たな試みが始まり、農地の流動化も議論されつつある。二大政党を軸に真(しん)摯(し)な取り組みが求められる。
(2009年8月16日掲載)