きょうの社説 2009年8月18日

◎政権を懸けての激突 選挙公約の中身を吟味したい
 あらゆるメディアが民主党の圧勝、自民党大敗の観測を伝えるなか、衆院選の公示日を 迎えた。有権者は既に「政権交代」を織り込み、関心は民主党の「勝ちっぷり」と自民党の「負けっぷり」に移っているようにも見える。

 だが、そんな勝ち負けだけに目を奪われてはなるまい。自民、民主をはじめ主要政党の マニフェスト(政権公約)が出そろい、公約を見比べる土俵は既にできている。意中の候補、政党を決めた有権者も、まだ決めていない有権者も、政策の中身をよく吟味し、実行能力に思いを巡らせてほしい。

 有権者が投じる1票で、政権が選択されれば、憲政史上初めてであり、新たな歴史の始 まりである。有権者の1票はこれまで以上に重いといわねばならない。

 政権選択がかかるだけに、今回の選挙は本格的な「マニフェスト対決」の様相を呈して いる。民主党は、子ども手当の創設や高速道路の無料化、公立高校実質無償化、農家への戸別所得補償制度の導入などを訴え、自民党は、3年で幼児教育の完全無償化のほか、高校や大学に関しても新たな給付型奨学金の創設、低所得者の授業料無償化などで対抗した。個々の政策の良しあしを比較する前に、限られた予算を投じる価値がある政策なのか、今一度真剣に考えたい。あれも欲しい、これも欲しいではなく、何を捨て、何を取るかの選択も重要になってくる。

 自民、民主両党のマニフェストで物足りなく思うのは、もっと大きな視点で、この国の かたちをどのような方向に変えようとしているのか、よく分からない点である。日本社会は今、少子高齢化や非正規雇用の拡大、地方の疲弊といったさまざまな問題に直面している。高度成長から低成長へのギアチェンジがうまくいかず、治安の悪化も目立ち始めた。かつては機能していた社会システムが「制度疲労」を起こしているのだろう。

 自民党は民主党のマニフェストを「夢物語」と切り捨て、民主党は自民党に対して、「 10年先の話をされてもマニフェストとはいえない」などと応酬し、激しい火花を散らしている。だが、双方のマニフェストだけでは、旧来型の日本社会のシステムのどこをどう変えていくのか、方向性が見えない。疲弊した日本社会の再構築に知恵を絞り、処方せんを示すためのさらなる努力を求めたい。

■地域の将来像も語れ

 自民党候補が政権交代の強風を受け、厳しい戦いを強いられているのは石川、富山県も 同じである。小選挙区比例代表並立制の狙いは政党本位、政策本位の選挙を促すことだが、政権交代への期待感がその性格を強め、候補者個人の争いという側面を後退させている。自民党が県選挙区で議席を失った2007年夏の参院選に続き、長らく「自民党王国」と呼ばれた両県の政治土壌の地殻変動がさらに進みかねない状況である。

 政権交代が実現した場合、民主党などの政策は地方にも影響を及ぼさずにはいられない 。たとえば岡田克也幹事長は歳出見直しに関して整備新幹線も例外でないとの考えを示したものの、その後、金沢開業については「現実的にかなり進んだものを戻すべきではない」と述べた。

 自民党が開業遅れの懸念などを攻撃材料に利用したため言葉を補足したかたちだが、民 主党の政策で知りたいのは、それらが地域の発展にどのようにつながっていくかである。候補者も党の公約に沿った全国一律の訴えばかりでなく、地域の将来像を具体的に語り、それらを党の政策に反映させていく覚悟を示してもらいたい。

 自民党候補にとってはかつてない逆風だが、仮に政権を失うことがあったとしても、厳 しい選挙を勝ち抜いてこそ新生自民を担う力となろう。真の自力が試されており、これまでの実績や政策などを胸を張って主張してほしい。

 4〜6月期の国内総生産が5期ぶりにプラス成長に転じたとはいえ、地方経済は依然と して厳しく楽観は禁物である。衆院選は地方分権も争点であり、地方の視点からの判断材料はいくつもある。全国版の「政権交代」ムードだけに流されず、どの候補が私たちのふるさとをよりよい方向に導いてくれるのか、各党の主張と合わせて、しっかり見定めたい。