自民党の失敗を助長した陰の犯人 - 松本徹三
2009年08月17日05時03分 / 提供:ニュースブロガー
アゴラ
財政再建の為の明確なビジョンを欠くバラマキ合戦が、日本の将来に暗い影を投げかけている今日この頃ですが、それ以上に問題なのが、「派遣社員の存在を危うくして、雇用の柔軟性をなくしかねない労働政策」であることは、既に多くの識者が指摘している通りです。本来やらなければならなかったのは、「あまりに条件が悪かった非正規労働者の地位を向上させる為の諸法規の整備」だった筈なのですが、「派遣制度」イコール「差別」イコール 「悪」という「短絡思考」だけが一人歩きするようになり、これが民主党のマニフェストの一つの柱にまでなってしまったのは、残念としか言いようがありません。(率直に言わしてもらえれば、政権を握った暁には、具体論で大いに「ブレて」欲しいものです。)
社民党について言うなら、「非現実的な期待」が本来この党のお家芸ですから、「派遣社員を規制すれば、組合にきっちり守られた正規社員が増え、みんなが幸せになる」ということを無邪気に信じているようですが、勿論そんな事には金輪際ならないでしょうし、民主党の中でも、経済の分かっている人達は、心の中ではよく分かっているでしょう。
労働市場が硬直化すれば、経営者は固定経費の増大を恐れて、事業の拡大や新規分野の開拓に躊躇し、或いは、より柔軟で効率的な雇用が可能な海外に仕事を移転する事を考えるでしょう。そうなると、日本における雇用の絶対量は減り、「派遣社員になる道さえも閉ざされた」失業者が巷に溢れる事になるでしょう。
何故こんな事が起ころうとしているかと言えば、私は、昨年末の「派遣村騒動」(各企業の露骨な「派遣切り」と、NPOによるこの犠牲者への炊き出し活動など)に対する一般の人々の反応(派遣切り企業に対する反感とNPOなどに対する共感)に、実はその遠因があると思っています。
ことほど左様に、急激な経済環境の悪化にうろたえた各企業の動きは、派遣社員などに対して酷いもので、これが、庶民感覚を逆なでにし、「自民党の構造改革路線」イコール「野放図な資本主義の助成」イコール「悪」という考えを、多くの人の心の中に植えつけてしまったかのようです。
こうなってしまうと、どんな政党でも、どんな会派でも、選挙を戦う為には、こういう庶民感情の側に立たなければならなくなるのは当然でしょう。(だから、「みんなの党」のような新政党でさえ、この動きに追随してしまったのです。)
派遣社員制度に代表されるような「非正規雇用」というものは、日本に以前からある「二重、三重の下請け制度」と軌を一にするもので、企業の固定リスクを軽減する為の手段の一つなのですから、経済環境が激変すれば、このような形で雇用されていた労働者が真っ先に犠牲になるのは、本来止むを得ない事です。
しかし、私がどうしても理解できないのは、派遣労働者を解雇する事自体は止むを得なかったとしても、何故、経団連の会長まで出しているキャノンのような大会社が、年末を控え住むところもない「かつての社員」を、社宅からまで追い出さなければならなかったのかという事です。
非正規労働者を解雇すれば、その分だけ人件費が圧縮されます。しかし、彼等を社宅から追い出してみたところで、経費の軽減には殆どなりません。(光熱費などは節約できるかもしれませんが、社宅の償却費などはそのままかかってくるからです。)それなのに、彼等は、「会社の経営目標」と「生身の人間の苦痛や不安」のバランスをよく考える事もせず、ただ単純に各社の内規を適用したかのようです。
もしキャノンをはじめとする多くの会社が、あの時に、解雇される非正規社員に対して出来る限りの誠意を尽くし、「社宅に住む事は一定期間許容する」と共に、年越しの餅代として「若干の見舞金」を手渡していたら、「派遣村」のような騒ぎは起こらず、「構造改革路線に対する敵意」もここまでは膨張しなかったでしょう。
要するに、キャノンなどの大会社が、些細な出費を惜しみ、長期的な視点にたった「ちょっとした配慮」すらを怠った為に、日本は、今、「柔軟な労働環境の喪失」という「国際競争力を維持するための重要な条件」を失ってしまいかねないような大事を、引き起こしてしまおうとしているのです。
マルクスの唯物史観では、「資本家はあくまで貪欲で、労働者を極限まで搾取し、これが労働者による暴力革命を引き起こす」事になっていました。しかし、現実には、資本主義体制を維持するべきと考える人達は、それほど愚かではなく、自らの矛盾を或る程度先手を取って正してきました。労働関係の諸法規や独占禁止法の制定がその一例です。
自民党は、折角、「民間活力の利用」や「構造改革路線の遂行」以外に日本の将来はないというメッセージを明快にしながら、「社会保障費削減」や「地方経済の疲弊」がもたらす怨嗟の声や、一部の「勝ち組」への一般大衆の嫉視反感に対する配慮を欠き、「構造改革路線」自身が悪者扱いされるような事態を招いてしまいました。
しかし、本来「構造改革路線」をサポートしていかなければならなかった民間企業の多くも、このような自民党の盲点を補う努力を何ら行ってこなかったのみならず、派遣切りを余儀なくされた状況下で、問題を更に拡大してしまったことを責められて然るべきだと思います。
松本徹三
記事をブログで読む
■関連リンク
「モジュラー化」についての誤解 - 池田信夫
金融立国の覚悟と戦略の不在−−池尾和人
NTT「2010年問題」はどこへ行った? - 池田信夫
「組織防衛本能」の病理 - 松本徹三
既存メディアとインターネットの融合(続き) - 松本徹三
Ads by Google
コメントするにはログインが必要です
関連ニュース:自民党
- 麻生首相 ネット人気の怪しい背景ゲンダイネット 08月17日10時00分(57)
- 元自衛官の美人刺客 民主・小原氏が谷垣氏10連続当選に待ったスポーツ報知 08月17日11時45分(27)
- 自民党の失敗を助長した陰の犯人 - 松本徹三ニュースブロガー 08月17日05時03分(18)
- 舛添氏、東京ブロック1位打診されるも激怒スポーツ報知 08月17日08時15分(14)
- 「日本の政権交代に期待する北朝鮮」 〜チャン・ソンミン氏に聞く〜livedoor 08月17日20時46分(8)
ニュースブロガーアクセスランキング
- 自民党の失敗を助長した陰の犯人 - 松本徹三ニュースブロガー 17日05時03分(18)
- クラ選U15出場チーム紹介ニュースブロガー 17日23時30分
- 一度に20人もの女囚がレイプされる ― ゴマ刑務所からの集団脱獄に失敗した囚人たちの犯行ニュースブロガー 24日19時49分(9)
- プロ野球広島カープ観客動員数倍増に隠された金融商品とは?ニュースブロガー 14日07時24分(1)
- 猫のペロペロ攻撃に身を任せるウサギニュースブロガー 17日18時00分
- デスクトップ上に塔を建てて敵の侵攻を防ぐ防衛ゲーム Desktop TD Proニュースブロガー 30日15時00分
- 中邑真輔 技の名は「ボマイェ」ニュースブロガー 10日01時00分
- そもそもなぜデフレはそんなに悪いのか?ニュースブロガー 17日19時46分
- 戦略的思考と憲法九条 ―中川信博―ニュースブロガー 14日18時18分(19)
- 永田さんの着たWBCイチローユニフォームは本物だったニュースブロガー 18日02時37分
注目の情報
イーバンク銀行のカードローンが期間限定のキャンペーンを実施中!
期間限定で衝撃の≪年利1%!≫ 最大限度額500万円でおまとめ・
借り換えもOKのカードローンです。お申込は8月31日まで!
衝撃のキャンペーンはこちら≫
おすすめ情報
ネットリサーチ
-
998
「国旗を切り刻んで民主マーク」理解できる?
-
1093
テレビの放送内容を信頼している?
-
1241
小泉元首相の人気に陰りが出ていると思う?
-
1652
「禁煙ビーチ」賛成?反対?
-
1404
芸能界も薬物検査が必要だと思う?
特集
ケータイでニュースを見る