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【「改革」あれこれ】JR東海会長・葛西敬之 迷走止まらぬ高速道路政策

2009.8.6 03:58
このニュースのトピックス鉄道マニア

 高速道路料金の引き下げは経済活性化策として有効だったか。政策的合理性を有していたか。何(いず)れも答えは否定的だ。

 地方の高速道路や本四高速、アクアラインなどで顕著な利用増があったとされるが道路会社の収入減は明確だ。そのために5千億円の予算措置がされている。しからば道路会社にとっては収入減でも利用者の増加による波及効果が十分に大きいといえるか。国土交通省は9300億円の効果と言っているが食費、買い物代、宿泊費など掻(か)き集めても僅(わず)かなものだろう。さらに加えて競争関係にある地方の鉄道、フェリー、高速路線バスなどの輸送量減とそれに伴うマイナスの波及効果を相殺すれば純増は殆(ほとん)どなかったのではないか。

 交通政策的にはどうか。これまで北海道、九州、四国など地方の鉄道、高速路線バス、フェリーなどの公共交通機関と自家用車の間には曲がりなりにも一応の競争的均衡が成立していた。今回の政策はその均衡の基盤を破壊し、地方の公共交通機関の路線維持を困難にした。却(かえ)って社会的コストを高めたのである。このような連鎖も視野に入れての政策だったのだろうか。否、交通機関全体としての総合的視野が欠落していただけなのだとしか思えない。

 環境政策的に見たらどうか。温暖化ガスの排出をいかに抑えるかが国の重要課題となっており、交通部門はその20%を排出する。この観点からみてエネルギー効率の高い公共交通機関の輸送量が減少する一方、高速道路利用が顕著に増加し、渋滞回数が倍増した事実は逆行としか言いようがない。

 このような不定見な料金引き下げ政策が大した議論もなくまかり通ってしまう背景は何か。そこには高速道路の費用は原則として受益者である利用者が負担すべきなのか、それとも利用しない者も含めた納税者に遍(あまね)く負担を求めるべきなのかという根本的な問いがある。

 それが曖昧(あいまい)にされ続けたままで来ていることが問題なのだ。高速道路は一般道路に比べ利用者が受ける便益は高い。また受益者に料金を課して費用を回収することが技術的に容易である。建設費を利用料金でまかない、債務を完済したのちは無料とするという道路公団の仕組みはこの特性を利用したものだった。

 しかし高速道路網の整備が進捗(しんちょく)し経年化が進むにつれ、一方では高密度利用路線から利用密度の低い路線への内部補助が拡大し、もう一方では建設された高速道路網を良好な状態に維持更新し続ける経費が増大する。ゆえに新規工事の抑制と利用料金の恒常化が必須となる。

 道路公団民営化論の出発点はここにあった。ところが結果はこれから造る分も含めた建設費を45年で完済した後、高速道路を無料化するという不徹底な民営化に終わった。収入基盤が将来無くなることが法定されている会社などその存在自体が矛盾であり、関係者のモラルダウンにつながらない筈(はず)はない。どうせいいかげんな仕組みなのだから人気取りのために何をやっても構わないという不真面目(まじめ)さを今回の高速道路料金の引き下げは漂わせる。

 建設、維持更新を併せた高速道路費用の利用者負担という根本問題に正面から取り組み、解決しない限り迷走は止まらない。本立而(もとたちて)道生(みちしょうず)である。(かさい よしゆき)

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