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第一回 絵コンテ・作画


MBS・TBS系全国ネットにて毎週土曜夕方6:00から好評放送中のアニメーション『BLOOD+』。そのオープニングでは毎回、一般的なアニメ作品とは一味違った味付けがされている。3rdオープニングでは、テンポのいいUVERworldの楽曲に乗せ、クレヨンと水彩で描かれたような印象的なカットが次々と画面に映し出されて、まるで不思議な絵本の中に『BLOOD+』のキャラクターが入り込んでしまったかのようだ。ステンドグラスの鮮やかでいて、どこか懐かしい風合いや、ビー玉が弾ける3Dカットの新鮮な質感に目を奪われた人も多いはず! では、実際にその映像を制作したスタッフから『BLOOD+』3rdオープニングがどのように作られたのかを聞いてみよう。


《インタビュースタッフ Profile 》

塩谷直義 Profile

Shiotani Naoyoshi/絵コンテ・演出・作画監督/1977年生まれ。主な参加作品は『風人物語』(作画監督)『BLOOD+』(作画監督)『パワフルプロ野球12』(OP、ED作画監督)『DEAD LEAVES』(動画チェック)『劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』『お伽草子』『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(原画)など。28歳にして、少年のようにやんちゃで優しいナイスガイ

広瀬いづみ Profile

Hirose Idumi/色彩設計/1977年生まれ。主な参加作品は劇場『DEAD LEAVES』(色彩設定)『イノセンス』(色指定)テレビ『お伽草子』(色彩設計補佐)『風人物語』(色彩設定)『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(色彩設定)テレビ『xxxHOLiC』(色彩設定)など。I.Gのスーパーアイドル。またの名は“ホッキー”

マティ Profile

Matty/制作進行/1981年生まれ。『BLOOD+』制作日誌でお馴染みのマティ。主な参加作品は『風人物語』(制作進行)。トレードマークのメガネと腰の低さで、みなから愛されている。名だたるアニメーターを差し置いて、I.G内で一番バレンタインのチョコを貰ったという伝説を持つ。最近、髪型を坊主にして爽やかになったと好評



――今回、塩谷さんにとって初演出というということですが、どのような経緯で担当されることになったのですか?

塩谷 : 最初にプロデューサーの大松さんからお話がありました。『BLOOD+』の1st、2ndのオープニングはベテランの大物アニメーターさんが手がけられていて、次はどういうものにしたらいいかと考えたときに、プロダクション I.Gの若手にやらせてみてはどうだろうかという話になったと聞きました。1st、2ndのオープニングとも、いわゆるアニメーションの王道オープニングとも違ったものにしたいということで、それは面白いな、と思って受けさせてもらいました。

――大松プロデューサーの頭の中にそういう構想があったんですね?

マティ : 塩谷さんにお願いした時点で、普通のものは上がってこないのはわかっていたと思います。独特な部分にこだわりがある方だというのは今まで一緒にお仕事をして分かっていたので…。コンテを描きだした時に見て、正直“ここまでやるのか”とは思いましたね。

塩谷 : コンテを描くのと同時に「こういうテイストでできないか」とイメージを描いて相談したんです。線をきれいなものではなく、ガガガッとした手描きの質感を生かした線にして、色も含めてのデザイン的な感じなものを伝えたかったんです。ただ、線が変わるとキャラクターも変わってしまう。キャラクターが似ないで違うものになってしまわないように注意していました。

BLOOD+ オープニング特集

制作開始直後に描かれたイメージ絵


マティ : 専用のキャラ表まで作っていましたね。何度描いても「似てない!似てない!」と。これで本来のキャラクターだと分かってもらえているか、描き直しては周りの色んな人に意見を聞きまわっていました。塩谷さんが自分の中の小夜を決めていく作業でしたね。

BLOOD+ オープニング特集

キャラクターを似せるための試行錯誤


塩谷 : 本編の作画監督をした時に、キャラクターを自分の中でどのような路線にしていったらいいのかと迷って混乱したんです。なので、オープニングは最初に自分が納得するキャラクターに絵柄で決めておきたかったんです。

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オープニング用に起こされたキャラクター設定


――実際の絵コンテ作業はいかがでしたか?


マティ : コンテを描き始める前から、塩谷さんの中でこういうイメージにしたいというのは固まっていましたよね。

塩谷 : どういう場面をやりたいというイメージはいくつか固まっていました。オープニング曲が届いてから、藤咲監督と大松プロデューサーと3人で打ち合わせをして、監督から3クール目の大まかなストーリーの流れ、本編に出てくるキャラクターの具体的な役割などを聞きました。そこで“成長・変化”をイメージして欲しいというオーダーを頂いたんです。変化をするには何故変化するのかを表したかった。それをふまえて自分なりに、“俺の中の『BLOOD+』のストーリー”のイメージを膨らませていきました。始めに、イメージをどんどん描いて、曲を聴きながら描かれたイメージを並べ変えてコンテを起こしていきました。衣装は、箸井さんのイラストを自分風にアレンジしています。

――具体的にはどのように?

塩谷 : 成長として、大きく4つのイメージに分かれています。冒頭に過去なのか現在なのか未来なのか分からない古いフィルム風な加工をした映像をもってきています。そこからの脱皮。風呂場のシーンは、小夜とディーヴァが今はこういう立場だけれど、もしかしたら、逆だったかもしれない…ということを暗喩させたり。実は、作業途中で見えなくなってしまいましたが、ディーヴァは小夜を見ているけど、小夜はディーヴァを見ていないんですよ。最後に、這い上がってきたお姉ちゃん(小夜)と、純粋な妹(ディーヴァ)の対比です。1つのカットの中にも、精神的な位置や距離をイメージしていました。そういう細かな部分に心理描写をもたせています。

BLOOD+ オープニング特集BLOOD+ オープニング特集

小夜とディーヴァのお風呂場のシーン


BLOOD+ オープニング特集

姉妹の心理的描写を表すカット


――コンテに色が付いてますが、珍しいことですよね?

広瀬 : これは私からお願いしたんです。仕事をお願いされた時点でスケジュールがない状態で、塩谷さんからは「お前、どうせやるんだろ?」というお願いで(笑)。それで、この画風、この線のタッチじゃないですか。仕上げのソフトも時間のかかる「animo」というソフトだったんです。最終的な色のイメージが監督の中にないと、判断が遅れてその後の作業にも影響するのがわかっていましたから、コンテの時点で色のイメージも伝えて欲しいと言ったんです。じゃないと終わらないと思ったんです。

――コンテでも本編でも、原色に近い色を多用していますね?

塩谷 : 1カット1カットに、テーマカラーのように塗りたい色を決めました。このカットではこの部分が見せたい、というものがきちんと目立つようにしました。本編のカラーから変えたいのもあって、広瀬さんと相談したところ「ずっと横にいて」といわれて(笑)。

広瀬 : (笑)。初めて一緒にお仕事をするから、塩谷さんの好みの色が分からなかったんです。スケジュールもなかったから“こういうイメージの色をつけたい”と、各セクションに画面のイメージを事前に伝えられるよう、コンテにも色をつけてもらいました。たとえば蝶の色を一番目立たせるために、周りの色を落としてもらうとか。

――作画作業についてはいかがでしたか?

塩谷 : 原画さんには、全体的な雰囲気として描いてもらって、線の統一は自分のところでしました。鉛筆を寝かせるタッチでも、人によって変わってきてしまいますから。

マティ : なので、全部塩谷さんが線だけは描き直しているんです。

――え、全部ですか?

塩谷 : 線のタッチも、ただワサワサ描けばいいっていうわけではなくて、それがきちんと動いて見えなくてはいけない。動きも、アクセントがあってかっこよく動かなくてはいけないんです。それは、動画検査の西村潤子さんが全部の動画を監修してくれていたからこそ、できたことだと思いますね。

広瀬 : 劇場『キル・ビル Vol.1』調の手法を取り入れたのは潤子さんの判断でしたね。今回は、線のガシガシ感を出すために、色を塗るための線、主線と、タッチの線の3種類作られていましたよね?この手法が使われたのは『キル・ビル Vol.1』からでしたっけ?

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左から「色を塗るための線」「主線」「タッチ線」


塩谷 : スタジオジブリの『ホーホケキョとなりの山田くん』でも使ってたね。今回の動画でも、通常の3倍の動画枚数を使っていたわけだから、動画セクションが一番大変だったのかもしれません。こんな冒険ができたのも、3番目のオープニングだからこそでしょうね。1作目が出て、2作目の中澤さんのオープニングが広げてくれた。その分、色んな表現ができる幅を作ってくれていたんです。だからこそ、トコトンやりたかった。

第二回に続く


第二回 美術&色指定


MBS・TBS系全国ネットにて毎週土曜夕方6:00から好評放送中のアニメーション『BLOOD+』。そのオープニングでは毎回、一般的なアニメ作品とは一味違った味付けがされている。3rdオープニングでは、テンポのいいUVERworldの楽曲に乗せ、クレヨンと水彩で描かれたような印象的なカットが次々と画面に映し出されて、まるで不思議な絵本の中に『BLOOD+』のキャラクターが入り込んでしまったかのようだ。ステンドグラスの鮮やかでいて、どこか懐かしい風合いや、ビー玉が弾ける3Dカットの新鮮な質感に目を奪われた人も多いはず! では、実際にその映像を制作したスタッフから『BLOOD+』3rdオープニングがどのように作られたのかを聞いてみよう。


《インタビュースタッフ Profile 》

塩谷直義 Profile

Shiotani Naoyoshi/絵コンテ・演出・作画監督/1977年生まれ。主な参加作品は『風人物語』(作画監督)『BLOOD+』(作画監督)『パワフルプロ野球12』(OP、ED作画監督)『DEAD LEAVES』(動画チェック)『劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』『お伽草子』『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(原画)など。28歳にして、少年のようにやんちゃで優しいナイスガイ

広瀬いづみ Profile

Hirose Idumi/色彩設計/1977年生まれ。主な参加作品は劇場『DEAD LEAVES』(色彩設定)『イノセンス』(色指定)テレビ『お伽草子』(色彩設計補佐)『風人物語』(色彩設定)『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(色彩設定)テレビ『xxxHOLiC』(色彩設定)など。I.Gのスーパーアイドル。またの名は“ホッキー”

マティ Profile

Matty/制作進行/1981年生まれ。『BLOOD+』制作日誌でお馴染みのマティ。主な参加作品は『風人物語』(制作進行)。トレードマークのメガネと腰の低さで、みなから愛されている。名だたるアニメーターを差し置いて、I.G内で一番バレンタインのチョコを貰ったという伝説を持つ。最近、髪型を坊主にして爽やかになったと好評



マティ : 今回は、キャラをよく見せるという方向ではなくて、画面全体を見せていくという方向にしたんですよね。

塩谷 : ジャン=ピエール・ジュネ監督の映画『アメリ』(※1)のように、普通に流れている芝居のシーンでも、一つの色が画面で引き立っているものをイメージしていました。色指定はもちろんのこと、絵のタッチを統一する動画検査さん、仕上げさん、撮影さんなど、各セクションのトップクリエイターがいるI.Gなので、作画の動きだけじゃなく、トータルで見たときにも各セクションが画面にでるような方向でやりたかったんです。そのためには、きちんと線が生きる「animo」という仕上げのソフトでやらせて欲しいとおもったんです。

広瀬 : 実際に「Retas」と「animo」両方のソフトで線をスキャンしたものを見比べて、塩谷さんが誰にでも「animo」を使う必要性を話せるようにしてもらいました。普段よりも、「animo」の方がスキャンでも色塗りでも時間がかかるんですが、そこはあえて、この画風を保つために「animo」に挑戦したかったんです。今やこの「animo」のソフトを使っているのはI.G位になってしまいましたし、「Retas」だとドットのデータになるんですが、「animo」だとグレースケールの柔らかい抑揚のある線が表現できるんです。

塩谷 : ヴィジュアル的なイメージは当初から思っていた通りにできたのは、背景を小林プロにお願いできた事も大きかったと思います。『風人物語』で作画監督をやらせていただいた時に、小林さんの画風に感銘を受けていたのと、本編とは違ったラインを使わせてもらうことで、50カット弱の背景を町並みが描き込まれた密度の高い仕上がりにできたと思っています。キャラクターが“その場にいる”感じで、ストーリを想像させるには、小林さんの力がどうしても必要だと思ったんです。

マティ : 普通にコンピュータでBGを作っては、質感を生かした感じとは合わないと考えていました。小林プロに絵コンテをお送りしたら、とても気に入ってくださって、打ち合わせに盛り上がって4時間かかりましたね。

広瀬 : みんなお腹がすいてグーグーなっても夢中で話し合ってましたね。

塩谷 : そこでイメージが掴めたので、戻って作監作業をした時にも、色決めや作業をする時にも、そのイメージに合わせることができました。

――4時間も何を話し合っていたんですか?

広瀬 : 最初、画材選びから始まって…。

マティ : 最初、小林さんのなかで、このコンテを見た瞬間に「普通の背景にはしない」と決めていたそうなんです。打ち合わせでセルをどんな風にしようかと話し合ううちに、小林さんの中で“デルマ”というクレヨンと色鉛筆の間のような画材をつかって描こうというアイデアがひらめいて、全カットその場で描いてくれました。

広瀬 : 昔使っていた透明のセルにガーッと描きだして。この時代にあえてセルを使うのか! と驚きました。

塩谷 : 背景の一番下の色は絵の具で描かれているものなんですが、その上にセルを一つ重ねて両面使うんですよ。

――セルを両面使うとは?

塩谷 : 要するに、表から描かれている線と、裏から描かれている線ではタッチの雰囲気が違うんですよ。それを上手く使っているんです。

美術&色指定  美術&色指定

『セルの表裏両面から描くことで、色が混ざらず独特な雰囲気に』


広瀬 : それをさらに、削ったり擦ったりして質感を出しているって言っていましたね。塩谷さんは、私が持っていたフンデルトヴァッサー(※2)の建築の写真集を以前から見て気に入っていたので、今回のお風呂のカットに、そのタイルの色遣いを使えないかと考えていたんです。小林さんのところにお持ちして、参考にしてもらいました。

塩谷 : そのイメージをうまく消化して、画面にして下さいました。すべてのカットを小林さんから上がってきた背景にのせて、キャラクターの色を広瀬さんと決めていけた事で、画面全体のバランスを調整できたのが、今回すごくよかったなと思っています。冒頭でもお話した通り、キャラクターをあえて黒のシルエットにしたりして背景の持つ力強さと食い合いにならないように、うまく融合する事ができた気がします。

マティ : 背景をぼかしているように見えますが、これは後からデジタル加工したのではないんです。デルマで引いた線を、消しゴムで消している。後で小林さんに伺ったら、この映像には「しょっかん」があるって言っていましたね。

広瀬 : 「食感」ですか?

マティ : (笑)「触感」です。芸術的な言葉ですけど、見るだけで触った感じがするって。塩谷さんのこと「彼は天才だ」って、言っていましたよ。

広瀬 : コンテを見た瞬間から、小林さんの食いつきが違いましたもんね。こんなに惚れ込んだの初めてだって。

塩谷 : …(恐縮)。

(※1)ジャン=ピエール・ジュネ……1946年生まれの映画監督。CM製作やビデオクリップの監督として活躍した後、81年『Le Manege』でセザール賞短編アニメ賞を受賞。映画『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』『エイリアン4』監督。『アメリ』で世界的な人気を得る。

(※2)フンデルトヴァッサー……フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー。1928年生まれ。オーストリアの芸術家・建築家。渦巻きや曲線を使用した作品や、自然との共生をテーマにした建築を手がける。日本では大阪市環境事業局舞洲工場(ごみ処理施設)が有名。 広瀬はウィーンに“フンデルトヴァッサーハウス”を見に行くほどのファン。


第三回に続く



第三回 3D


MBS・TBS系全国ネットにて毎週土曜夕方6:00から好評放送中のアニメーション『BLOOD+』。そのオープニングでは毎回、一般的なアニメ作品とは一味違った味付けがされている。3rdオープニングでは、テンポのいいUVERworldの楽曲に乗せ、クレヨンと水彩で描かれたような印象的なカットが次々と画面に映し出されて、まるで不思議な絵本の中に『BLOOD+』のキャラクターが入り込んでしまったかのようだ。ステンドグラスの鮮やかでいて、どこか懐かしい風合いや、ビー玉が弾ける3Dカットの新鮮な質感に目を奪われた人も多いはず! では、実際にその映像を制作したスタッフから『BLOOD+』3rdオープニングがどのように作られたのかを聞いてみよう。


《インタビュースタッフ Profile 》

塩谷直義 Profile

Shiotani Naoyoshi/絵コンテ・演出・作画監督/1977年生まれ。主な参加作品は『風人物語』(作画監督)『BLOOD+』(作画監督)『パワフルプロ野球12』(OP、ED作画監督)『DEAD LEAVES』(動画チェック)『劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』『お伽草子』『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(原画)など。28歳にして、少年のようにやんちゃで優しいナイスガイ

佐藤敦 Profile

Satoh Atsushi/3D/1978年生まれ。主な参加作品はテレビ『IGPX』劇場『イノセンス』『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』『劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』『立喰師列伝』など。「仕事が好きなんじゃなくて、3Dが好きなんだ」と語る熱い男



――どのような経緯で佐藤さんに3Dをお願いすることになったんですか?

塩谷 : オープニングをすることになって、すぐに「君しかいない!」と連絡しました。一番自分のイメージに合う3Dをしてくれるのは佐藤さんだった。最初に『IGPX』で一緒に仕事をしたことがあったんです。ロボットのアクション身振り手振りまで一緒にジェスチャーしながら(笑)

佐藤 : 塩谷さんの作画で、背景をカメラマップでグリグリ動かしたいというオーダーでしたね。

――カメラマップって何ですか?

佐藤 : 背景を立体にして、動かして、迫力をだしたりするんです。一枚の絵を平面ではなくプロジェクターで投影してる感じですね。カメラに角度がついても平面を立体的に見せる事ができる。近くの席だったので、夜中まで仕事をしている時に「3Dでこういうのができるんだ」という話をしていたんです。そのうちに仕事で塩谷さんのやりたいことを色々具現化するお手伝いをしてきましたね。

塩谷 : 色々やったね、一緒に。

――今回の『BLOOD+』オープニングでは、どのような指示があったんですか?

佐藤 : 塩谷さんからはこうしたい、という具体的な指示はいつもないんですが(笑)今回はコンテも塩谷さんが描かれていたので、その通りにやった感じですね。

塩谷 : 今回は「土砂降りのなか、トンネルをカメラが地面スレスレを走って抜けていって、霧雨の中、立体的に動物園をナメて見上げる」という感じにしたくて。このカットだけは派手にしたいと言いましたね。ここに、そのカメラマップを使用して、迫力のある絵にしたかったんです。

3D
カメラマップの指示がされた絵コンテ


佐藤 : 普通、カットを作るときは美術さんに背景を描いてくださいとお願いするんですけど、実は今回は、本編で別の話数のために塩谷さんが描いたレイアウトの動物園を、そのまま持ってきています。

塩谷 : ここだけは、本編に出てくる背景だから、小林プロさんにお願いできなかったし、スケジュールも厳しかったですからね。

佐藤 : 本編では晴れのシーンだったのでそのまま使えず、空だけは作り直している。そういうことを『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』でもやっていました。鳥がクルクル飛び回るシーンの背景を4・5カット分ジグソーパズルみたいに組み合わせてつくったんです。アングルがすごく変わるので、全部の背景を発注していたら膨大な量になってしまう。だから、他のカットの背景をうまく繋がるように、動きが決まった後から付け加えたんです。勢いでやる塩谷さんのやりかた(笑)。無理矢理、要望に合わせて形を整える。そういうところは俺も好きなんですね。毎回毎回、面白い事を追加していくことができますから。

塩谷 : トンネルを抜けたところの雨も実は3Dで作られています。

――雨を3Dとは、どういうことなんですか?

佐藤 : 3Dで作った細長い棒を、いくつも落としていくんですよ。見栄えとしては作画でやるのとたいして変わらないんですが、カメラの向きが変わった時にも対応ができるんですね。今までは、雨は作画がやるものだったんです。塩谷さんは「いや、雨も3Dで」と。どんどん新しいことをやれる機会をもらえていますね。

塩谷 : そのカットだけなら作画で雨を作ることもできるんですが、カメラが見上げたときに雨の降る向きに変化があるんですよ。それが欲しかった。

佐藤 : 最初はできるか不安ではあるんですけど、ちょうど工夫すればなんとかできそうな、いい所をついてオーダーしてくる。折角の機会なので、「できない」とはいいたくないですからね。

塩谷 : 忙しくしている中、無理してでもやってくれるのはわかっていたので、佐藤さんがやってくれることを想定して、決め打ちでコンテを描いたんです。普通のオープニングは、パンとか、カメラワークついてるものが多い。今回はそういう風にはあまりしたくなかった。基本、ほとんどFIXの止め絵にして、差をつけて際立たせたい部分は3Dで立体的に動かして迫力を出したかったんです。

――3秒にすごい手間をかけていますね。

塩谷 : でも、本当に大変だったのはビー玉のシーンの方なんです。

佐藤 : ビー玉のシーンの方が最初に形はできていたんだけどね。

塩谷 : レイアウトはコンテの絵で決めていたので、それを拡大したもので最初に作業に入ってもらいました。その後、上がってくる3Dを見ながら自分で原画作業をしていったんです。

3D
絵コンテのレイアウトを元に画面が作られた


佐藤 : 光りものを作業するのが面白くて最初は短時間で形になった。光りものや、ガラスの質感は3Dに有利なのでやってみたかったんです。またやりたいところを塩谷さんは突いてくるんですよ(笑)

塩谷 : ここだけ3Dは、浮いてもいいからビー玉が際立つようなカットにしたかった。そのために、背景もキャラクターも全部色を落としこんであります。

3D
ビー玉が印象的に浮かび上がる


――ビー玉の動きも、とても気持ちよかったですね。

塩谷 : ビー玉の動きと量、広がりやタイミングも意図する形に落とし込むまで時間がかかったね。

佐藤 : 最初から途中でスローモーションにするということは決まっていたんですね。ただ、質感、広がりを意図する形に増やすと動きが全部変わってしまうんですよ。その都度調整しなくてはいけないので、時間がかかりましたね。その合間で、ビー玉の質感を詰めていきました。光の素材など、いくつも重ねてあるんです。

塩谷 : ビー玉の中に背景も、ちゃんと写り込んでいますからね。

佐藤 : でも、テレビだと全然見えない…(涙)

塩谷 : だからこそ鮮やかなのに周りと馴染んでる。

佐藤 : 例えテレビでは見えなくても、作っている側でやりたい部分っていうのがあるんですね。ビー玉の中のリボンも、実は中で回っているんですよ。

塩谷 : 広がってスローモーションになった部分が記憶に残るといわれるのは、もしかしたらそのせいかもしれないね。

佐藤 : ビー玉が上の方にあると、地面に映る影は黒なんですけど、下に落ちてくるとビー玉に光が集まって、影の真ん中部分が白になるんです。本来は3Dでそれを計算させる方法があるんですが、それをしてしまうと時間がかかり過ぎてしまうので上手く嘘をつく。そういうのって、一瞬の中では誰もわからないんだけど(笑)。これをやったら格好いいというのがわかっていたから、やってみたかったんです。

塩谷 : テイクが重なるごとに、どんどん良くなっていくのが分かるんですよ。

佐藤 : 前進している感覚がないと、ストレスになりますからね。やりすぎる位までやるのがいいのかもしれません。

塩谷 : 佐藤君は、どんな注文でも、何も言わなくてもプラスアルファしてきてくれるんですよ。やりたいことを伝えると、佐藤君の頭の中で最終的なイメージが思う浮かべられているのかわかるんですね。作画でもそうですが、最終的なイメージがないと、どんなに描いても良いものにはなりませんから。

――感覚の相性もいいんでしょうね。

塩谷 : 一緒にジェスチャーしながら作業してくれる人はそういないからね。

佐藤 : だって僕ら、「さとう」と「しお」ですから。

――そうですね…(笑)

第四回に続く


第四回 撮影


MBS・TBS系全国ネットにて毎週土曜夕方6:00から好評放送中のアニメーション『BLOOD+』。そのオープニングでは毎回、一般的なアニメ作品とは一味違った味付けがされている。3rdオープニングでは、テンポのいいUVERworldの楽曲に乗せ、クレヨンと水彩で描かれたような印象的なカットが次々と画面に映し出されて、まるで不思議な絵本の中に『BLOOD+』のキャラクターが入り込んでしまったかのようだ。ステンドグラスの鮮やかでいて、どこか懐かしい風合いや、ビー玉が弾ける3Dカットの新鮮な質感に目を奪われた人も多いはず! では、実際にその映像を制作したスタッフから『BLOOD+』3rdオープニングがどのように作られたのかを聞いてみよう。


《インタビュースタッフ Profile 》

塩谷直義 Profile

Shiotani Naoyoshi/絵コンテ・演出・作画監督/1977年生まれ。主な参加作品は『風人物語』(作画監督)『BLOOD+』(作画監督)『パワフルプロ野球12』(OP、ED作画監督)『DEAD LEAVES』(動画チェック)『劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』『お伽草子』『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(原画)など。28歳にして、少年のようにやんちゃで優しいナイスガイ

広瀬いづみ Profile

Hirose Idumi/色彩設計/1977年生まれ。主な参加作品は劇場『DEAD LEAVES』(色彩設定)『イノセンス』(色指定)テレビ『お伽草子』(色彩設計補佐)『風人物語』(色彩設定)『劇場版 ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君』(色彩設定)テレビ『xxxHOLiC』(色彩設定)など。I.Gのスーパーアイドル。またの名は“ホッキー”

マティ Profile

Matty/制作進行/1981年生まれ。『BLOOD+』制作日誌でお馴染みのマティ。主な参加作品は『風人物語』(制作進行)。トレードマークのメガネと腰の低さで、みなから愛されている。名だたるアニメーターを差し置いて、I.G内で一番バレンタインのチョコを貰ったという伝説を持つ。最近、髪型を坊主にして爽やかになったと好評 

江面久 Profile

Ezura Hisashi/撮影監督/1967年生まれ。主な参加作品は劇場版『テニスの王子様』(撮影監督)『イノセンス』(ビジュアルエフェクト)『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(画面設計・エフェクト作画監督)『劇場版 xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢』(撮影監督)など。外身はワイルド・中身はマイルド、なデジタルセクション「江面班」のボス

中田祐美子 Profile

Nakata Yumiko/撮影/主な参加作品は『劇場版 xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢』『劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』『イノセンス』(撮影)など。別名「江面シスター」



――江面さんは撮影監督として参加されていかがでしたか?

江面 : 普通に仕上げられたセルではないという話しか聞いていなかったんですが、実際に素材を見てみたら、線の荒々しさと作品のイメージがとても合っていた。これは“原画マンが描いたものに、そのまま着色したのかな?”という雰囲気や風合いにしないと、素材のアイデアが生きないんじゃないかと思ったので、気をつけてやりましたね。これはペイントデータだとか、スキャンした背景データだ、と観ている人に分からせてしまったら舞台裏が見えてしまうのでアウトだと思うんですね。どうやって最初から描かれたもののように見せられるか、というところですね。

マティ : 具体的には、どのような作業でしたか?

江面 : どうやって素材の差を埋めていくかを考えていくんです。鉛筆で描かれたタッチと、整然と塗られた部分、手で描かれた部分をベタ面の中に入れていくんです。画面に汚しだったり、ノイズだったり、画面のちょっとした“ザザザ”と描かれた曖昧な要素を足していくわけです。でも、あんまりやりすぎると、線画の荒々しい感じがでなくなってしまう。濃くかければかけるだけいいカットになるとは限らないし、考えれば考えるほどドツボにハマってしまうこともありますからね。意外に、さらっとやったカットのほうがいい感じになっていることもありますし、考えたら考えるだけ良いカットになることもある。考えた分量と出来上がりが比例しないと言うのが、この仕事の面白いところでもあるんですね。

塩谷 : 美術的なものにウェイトがかかった時に、タッチやBG部分が浮くのが一番怖かったのですが、出来上がったものを観たときに、「おおっ」と思いましたね。

江面 : 中田さんや斎藤さんにも、突っ込みどころを探ってもらった。オープニングということで、場面も大きく変わりますし、3人の味の差がでることで大丈夫なのではないかと思いました。そこがちょっと不安だったわけなんですね。どこまで突っ込んでいいのか監督のOKがどこで出るかが、最初の関門だったと思います。一回OKが出れば、じゃあ、こんな感じでいいのであれば…っと勢いを失わないように進めていきました。

マティ : 出来上がるたびに全員でチェックしながら進めていましたね。

江面 : 斎藤さんはアクションが得意なので盛り上げてもらいました。中田さんは芝居が得意なので、芝居の部分と、止め絵を中心にお願いしたのですが割り振った効果がよく出たかと思っていました。今回、1つのカットを別々に扱っていると分からないのですが、繋いでみて分かったのは文字が入ることを分かっていて絵をレイアウトしているんですね。さすが作画出身の演出家だな、と思ったんですね。

塩谷 : …(恐縮)

――中田さんは如何でしたか?

中田 : やっていておもしろかったですね。自分のやりたいことを盛り込みやすかったし、自分の中でどうやるのか考えるのが楽しかったです。

――作業していて、思い入れのあるカットはありますか?

中田 : 色が変化していくところですね。

撮影


江面 : 止め絵にしてしまうと印象が薄れてしまいますけど、色の移り変わりがとてもきれいなんですね。映像ならではの、時間軸で流れているからこそ魅せられる絵になるんですね。

広瀬 : 私も、振り向いたらどんな色になったらいいかな? っていう、撮影後の色の変化を中田さんに相談しながらやっていました。日本の女性らしさ、というのをだしたかったんです。

撮影
振り向くにつれて色が変化する


江面 : 中田さんは、日本画出身なんですね。今後は、中田さんの日本画で培った技術も、筆を「AfterEffects」に置き換えてもっと発揮していって欲しいなと思っていますね。私も死角の多い人間ですから、死角の部分をお互いに補完できたら、死角のないワークグループになりますからね。それに、中田さんのような辛抱強さが、僕の辛くなるとドンチャン騒ぎをしてしまう部分を補ってくれているし、斎藤さんは、アクションの派手さで僕のできない部分を補ってくれているんです。3人で背中を合わせながら死角をなくすようにして作業をこなしていければ、一つの作品の中でもカラーが一色にならずに済みます。

マティ : 冒頭のタイトルが浮き上がってくるカットは、江面さんにお任せでしたね

江面 : 中田さんに素材を作ってもらって、私が実際にそれを歴代のネタなどを盛り込みながら組み合わせていきました。「AfterEffects」のレイヤー構造を記憶しながら作業しているんですが、あまりにもレイヤーの積層量が多いと頭の中がプスプスとオーバーヒートしてしまうんですね(笑)。このカットもフワフワっとしていますが、もう、どのレイヤーがどの作用をしているのか自分でもわかりません。塩谷さんにOKを出してもらえなかったら、エンドレスカットになるところでした。

――撮影の作業で、気をつけていることはありますか?

江面 : アニメーターが描いてくれた線をちゃんと生かす。撮影作業は、素材でカレーを煮るようなものなんですよ。煮込む人間としては、煮込んだら全て同じ味にするのではなくて、形は崩れてしまってもちゃんと「線画味のカレー」にならなくちゃね。お客さんが、なんだこれ?って言わないように。

――今回の作品に参加されていかがでしたか?

江面 : 素材のボルテージが低いものを撮影で無理に押し上げるのではなくて、コンテの時点で勢いを感じていたので、その勢いが、原画、動画、仕上げ、背景、と素材に熱さが残ったまま出来ていた。だからエフェクトが空回りしなくてすみました。アニメーションがデジタルに移行することで、色々なプラグインやらデジタルのツールが出来ています。私自身もデジタルセクションを追求する仕事ではあるのですが、元がアニメーターなので今でも絵の力を信じているんです。元になる絵がしっかりしていないまま、デジタルのリソースを接ぎ接ぎでは、絵の力強さには敵わないんですよ。この作品はデジタルでは代わることの出来ない、新たな「絵の強さ」の可能性を示しているのではないかと思います。

――塩谷さんが大好きな先生に誉められた小学生のような顔をしています。

一同 : (笑)

――各作業工程を経ても、最初の熱や勢いが残ったままで出来たのは、どうしてなんでしょうか?

マティ : 普通なら、いっぺんある程度まで出来上がったものをチェックして直しますが、塩谷さんは自分で、各スタッフのところまで出掛けていって話す。密に連携をとっていてくれました。制作が演出の意見を言付かってスタッフに話すよりも、直接本人同士が話したほうが、やりたいことはきちんと伝わるんだな、と実感しました。

塩谷 : アニメーション制作って色々なセクションがあって、その間を素材が行き来するものなんですけど、今回は自分が「コンテ・演出・作監」3つ全部をできたから、自分の手元に素材が長い時間あるおかげで、途中で色々な考えをまとめつつ軌道修正することができました。

マティ : 今回は関わっている人みんなが、主役でしたね。塩谷さんのイメージにみんなが力を合わせて近づけていく。みんな、ブーブー言いながら(笑)楽しんでやってくれました。終わった後に、スタッフみなさんから映像の入ったビデオテープをくださいとか、やってよかったって言ってもらえたことが、本当に嬉しかったです。

塩谷 : 大松プロデューサには感謝しています。撮影は江面さん、BG、色指定、動画をI.G社内でやらせてもらえた。すぐにこしうたい、思ったことをすぐに伝えて生かすことができた。そうじゃなければ、この映像はできなかったんです。それに、スタッフの皆さんが「これをやりたい、試したい!」っていうアイデアを伝えてくれた。関わってくれた人が、やりがいがある、と言って一緒に楽しんでくれたことが本当によかったと思っています。




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