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コラム

2009年4月9日(木曜日)

若者における大麻乱用の実態と予防対策

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(日本学校保健会会報「学校保健」276号記事より)

兵庫教育大学理事・副学長
教育・社会調査研究センター長
勝野 眞吾

一次予防としての学校教育の重要性

 大都市圏にあるいくつかの大学で学生の大麻乱用、売買事件が相次いで報道された。
 大麻を含む違法薬物の乱用は、現代社会の抱えるもっとも深刻な問題のひとつである。依存性のある薬物の乱用は個人の健康を著しく傷つけるばかりでなく、社会全体にも暗い影響を与える。我が国で、実刑判決を受けた犯罪のうち実にその1/3は薬物乱用が絡むものである。
 依存性のある薬物を乱用すると、そこから抜け出すことは困難で、薬物乱用事犯は再犯率が極めて高いのが特徴である。また、薬物乱用者のほとんどは、最初の薬物乱用の経験を青少年期にもっている。従って、薬物乱用に対しては「一次予防」、すなわち危険な薬物に手を染めることそのものを防止することが対策の第一となり、その主な対象は青少年:児童、生徒、学生となる。
 「一次予防」の具体的な働きかけの方法は、教育である。「Drug Free」、薬物のないクリーンな社会を築くために世界各国は共通して教育、特に「学校教育」を通じた予防をもっとも重視している。薬物に手を染める危険が高い年齢は学齢期に重なるので、この観点からも学校における薬物乱用防止教育が重要となるのである。

大麻の特徴と今回の注目点

 今回問題となった大麻は、我が国では大麻取締法で乱用が規制されており、栽培、輸出、輸入した者は、7年以下の懲役、営利目的は10年以下の懲役、所持、譲受、譲渡は、5年以下の懲役、営利目的は7年以下の懲役とされている。
 大麻は、大麻樹脂(ハシシュ)、大麻草の花穂や葉の乾燥物(マリファナ)、大麻オイルなどの形態で、主に喫煙により乱用される。大麻は精神依存を引き起こす。乱用に関係する大麻の主成分は、テトラヒドロカンナビノール(△9 −tetra−hydrocannabinol:THC)である。THCには急性薬理作用としての酩酊作用、空間認知機能障害が特徴的であり、酩酊作用には、気分変容、知覚変容、思考変容等がある。乱用により、大麻精神病と呼ばれる状態に陥ることがあり、急性錯乱状態で発症し、意識変容を伴い、誇大あるいは被害妄想、幻覚、気分変容を呈する。また、慢性使用により、無気力・集中力低下・判断力低下・無為などを特徴とする無動機症候群と呼ばれる状態が惹起される。さらにフラッシュバック現象(自然再燃:ストレスや睡眠不足などの非特異的刺激によって、以前に乱用によって経験した症状と似た異常体験が一過的に再現すること)やテストステロンなどの性ホルモン分泌に対する影響も報告されている。このように大麻には依存性があり、さまざまな有害な作用があるが、単独で乱用されるだけでなく、アルコールや他の薬物と一緒に乱用されることも多く、その場合は、危険はより複雑になり、著しく有害性が増す。大麻乱用は、別の観点からも危険である。大麻を乱用する者は、その後さらに依存性が高く危険な覚せい剤や麻薬類の乱用を行う確率が高い。そのため大麻はより危険な薬物乱用へ門戸を開く薬物、gateway drugあるいはentry drugと呼ばれ、薬物乱用の連鎖で重要な位置を占める薬物である。
 今回のような事件の報道があると、社会の関心が集まり、急に薬物乱用が拡大したように思われるが、最近の調査では、我が国の大麻乱用経験率は中学生では0.5%、高校生では1.0%、大学生を含む18〜22歳の若者では1.4%、これは米国の同世代の経験率、それぞれ15.7%、31.8%、42.3%に比べて極めて低い数字である。我が国は幸いにも世界でも薬物乱用が少ない国なのである。外電(ロイター)が、Marijuana “epidemic” shows Japan’s drugallergyと揶揄して伝えるように、大麻乱用が30%を超える欧米から見れば、今回の日本での大麻に関する騒ぎは理解しがたいもののようである。しかし、薬物に手を染めること、そのものを防止する一次予防がもっとも本質的な対応策である薬物問題に関しては、我が国の状況が正常である。
 我が国で薬物乱用が少ない要因として、学習指導要領に、小学校、中学校、高等学校の各段階で、薬物乱用の危険について指導することが明示され、広く学校で薬物乱用防止教育が行われていること、我が国が薬物問題について厳しい姿勢をとっていることがあげられる。
 昨今の、大学における大麻問題で注目すべきは、(1)従来薬物問題があまりなかった「大学」において、次の世代を担う学生の大麻事件が起こったこと、(2)我が国では、覚せい剤と有機溶剤が乱用される主要な薬物であり、このふたつの薬物と乱用頻度は少ないが極めて危険な、あへん、ヘロイン、コカインなどの麻薬類については関心が高かったのに反し、これまで乱用の少なかった大麻についてはあまり注意が及ばず、高等学校までの薬物乱用防止教育でも取扱われることが少なかったこと、従って、大麻乱用の危険性についての社会全体の認識が低く、新しい乱用薬物として大麻が登場したこと、(3)大麻乱用は、それ自体有害であるが、より危険な薬物乱用のgatewayとなること、このため大麻乱用の広がりは、より危険な薬物乱用の広がりにつながるリスクが高いこと、(4)小学校、中学校、高等学校と系統的に実施されている薬物乱用防止教育が大学ではほとんど行われていないこと、である。

今後の課題

 現代社会では、インターネットなどの直接個人に達する新たな情報手段や容易になった海外渡航などによって、学生の諸外国の状況を知る機会が増えるとともに、大麻の危険性についての誤った情報に晒される頻度が増えている。特に自由で開放的な雰囲気を特徴とする場である大学にあって、学生はこれらに敏感に反応する特性をもっている。
 今回の大麻問題を教訓として、今後、小学校、中学校、高等学校に加えて、大学においても薬物乱用防止に関する指導を徹底する必要がある。また、薬物乱用の実態把握と予防対策の有効性を検証するための継続したモニタリングも不可欠である。そして信頼できるモニタリング結果をもとに、社会全体に対する啓発を行うことが大切である。


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