生態学と進化

記事 : 唐辛子はなぜ辛いのか? 
08年08月12日(火)


Bugs put the heat in chili peppers
EurekAlert! 8/11 要約

問い:唐辛子はなぜ辛い?
答え:果実が虫に囓られた後に、種子が黴びないように守る為


Chili pepper(唐辛子)という植物は、「辛さ」、実際には「痛覚」刺激 を生み出す果実を実らせます。その感覚を生み出しているのは 「capsaicinoid:カプサイシノイド」という化学物質です。

今回、University of Washington(ワシントン大学)の生物学の 助教授のJoshua・Tewksbury氏達が、Bolivia(ボリビア)の1000 平方マイルの広さの領域で行った研究によって、「辛さは防御機構 の副産物」という答えが出されています。

研究者達はその領域に存在していた、同じ種の植物の7つの母集団 を研究対象にしました。彼等はそれぞれの母集団からランダムに果実:唐辛子 を採取し、その外皮に残された傷跡 … hemipteran insects、アブラムシ などと同類の昆虫に囓られた痕跡をカウントしています。

果実を囓る昆虫は、果実の外皮に穴を開けます。そしてその穴から侵入 してくるのが、分類学上「Fusarium(フザリウム)」と呼ばれている 菌類で、それが唐辛子の種子を殺してしまう(黴びさせてしまう)のだ そうです。

今回、昆虫に囓られた痕跡をカウントし、それらの数字を比較した結果、 植物の種類は一つでも、それが実らせた果実が辛いかどうかを決定して いる化学物質のcapsaicinoidの濃度は一定ではなく、実際には昆虫に よる食害の被害が濃度に影響していた、という事が明らかにされています。



採取されたサンプルに残された傷跡の状態によって判断される昆虫の生息 状況と「唐辛子の辛さ」の相関性は見事に出ています。

果実が囓られて内部に菌類が入りこんでくる危険性がより低かった領域では、 唐辛子と呼ばれる植物の果実は、ほとんど辛みを持っていなかったそうです。 それに対して、昆虫が多数生息していた(囓られた痕跡がより多く見られた) 領域では、より高いcapsaicinoid濃度が見られた、と研究者達は報告してい ます。


「capsaicinoid」という化学物質は、辛さをもたらしますが、実は種子を殺し てしまう菌類の成長を劇的に抑制する、殺菌物質として植物が作り出している 物質だそうです。

植物は、自ら移動する事がありませんので、勢力範囲を広げるために 自らを食べる「移動能力を持つ生物」を引きつけ、それらのお腹の中 に種子を入りこませる事によって分布域を広げています。

そして菌類によって殺されてしまう種は、絶対に勢力範囲を広げる事には 貢献しませんので、植物は対抗上「菌類の成長を抑え込む」化学物質を生成 する防衛機構を発達させていて、実際に化学物質によって種子を守るという 状況は、植物ではさほど珍しい事ではないそうです。

ですが普通は、「種子が成長している途中では、その種子を包み込んでいる 果実は化学物質によって不味い状態になっているが、熟した頃にはその化学 物質による防御作用は失われる」、そうです。つまり果実を食べてもらう事 によって、種子をより広範囲にばらまく事を目指している為に、最後の段階 では化学物質の防御を外している事になります。

それに対して、唐辛子では「果実が熟すに従って、より化学物質の濃度が 高くなり、より菌類に対する防御が強固になる」 … 人間の言葉で言う と、「熟すとより辛くなる」状態が作り出されているのだそうです。

生存戦略としてそれを見る場合、非常に興味深いと研究者は語っています。


その戦略は、「鳥類は、カプサイシンを摂取してもその化学物質による痛覚 を感じない」、という事実によって可能になっているそうです。 … 鳥に とっては唐辛子を食べる事は「カプサイシンの辛さに涙する」状態をもたら さないわけです。その結果、鳥類は唐辛子を物ともせずに食べ続け、種子を あちこちに散布する役を担っています。

一方、人間にとっては「カプサイシンをたっぷり入れたシチューは、 より安全な食物」という状況をもたらしていたかもしれないそうです。

唐辛子の原産地は「南米」で、そこからヨーロッパに入りこんだのだそう ですが、その領域では唐辛子を使用した料理はさほど普及していません。 それは気候風土によって菌類がより繁殖しにくかった事と、より低い温度 で料理が保存できた為に、「殺菌の為の唐辛子」が切実に必要とされなか ったからかもしれない、とTewksbury氏は語っています。

その後に唐辛子はアジアとアフリカにもたらされ、温度と湿度が高く、 菌類がふんだんに存在し、容易に繁殖する赤道・熱帯領域では、料理に 欠かせないスパイスになったのだろう、と記事は伝えています。

論文は、Proceedings of the National Academy of Sciencesで発表されました。

カプサイシン

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