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大崎市民病院建て替え大揺れ 医療現場、計画に「NO」

伊藤市長(右)に市民病院建て替えの見直しを求める医療スタッフ=4日、大崎市役所

 宮城県北の地域医療を支える大崎市民病院本院(大崎市古川)の建て替え計画が揺れている。現在地での建設を目指す市に対し、本院の医療スタッフが郊外の市有地への移転を検討するよう求めているからだ。病院建設をめぐり医療現場が行政の方針に異を唱え、代替案まで出す異例の事態。一度は決着したはずの建設地のどこに問題があるのか、経緯を探った。(大崎総局・藤田杏奴)

<郊外移転を提案>
 「現在地と(郊外の)市有地、それぞれの長所、短所を比べ、より良い場所に建ててほしい」
 医療スタッフを代表して、放射線科長の壷井匡浩医師ら3人が4日、要望書とスタッフ124人分の署名簿を伊藤康志市長に提出し、見直しを求めた。伊藤市長は「本院建設は市の最大の事業。皆さんの声は重く受け止めたい」と答えた。

 市は昨年9月、周辺住民の要望を背景に、現在地での建て替え方針を決定。「計画通りの用地確保を前提に」という条件付きだった。

 周辺の約1万平方メートルを買収、敷地を約4万平方メートルに拡張して、2013年度に開院する構想で、全地権者の同意を今年3月末までに得るとしていた。だが、買収は難航し、現在も数軒の未同意者がいる。開院は1年遅れ、事業費も当初予定の160億円から200億円に膨らむ見通しだ。

<環境の悪化懸念>
 要望書は、現在地建設の問題点として(1)駐車場が不足(2)買収できない土地があり、設計や建設が制限される(2)工事の騒音や振動で環境が悪化する―などと指摘。市有地の事業費は180億円で、現在地より少ないとする積算書も盛り込んだ。

 本院では現在も、患者が集中する午前中の駐車場不足と交通渋滞が慢性化。署名に名を連ねた脳神経外科の吉田昌弘科長は「駐車場が満車で、予約時間に間に合わないケースも日常的だ。工事車両が入れば、もっとひどくなる」と心配する。

 医療現場が代替案に推す市有地は、古川稲葉の新興住宅地「穂波の郷(さと)」内の約3万平方メートル。1999年に旧古川市が社会教育施設用地として購入したが、塩漬けになっている。医師らは「直ちに建設可能で、交通の便もいい。周辺用地も整地済みで、容易に買収できる」と主張する。

<「なぜ今」困惑も>
 住宅密集地にある現在地と比べ、周辺の日照を妨げる恐れは少なく、医療機能を優先した建築が可能とみられる。半面、高層の病棟を建てる際は軟弱な地盤を強化し、都市計画法の用途変更手続きも必要となる。

 加えて現在地で買収に同意した地権者への配慮も問題になる。ある市幹部は「市有地に建てる方が制約が少ない」と認めた上で「契約に至っていないとはいえ、同意してくれた地権者に理解してもらえるかどうかが悩ましい」と漏らす。

 病院近くに住む無職男性(68)は「どこに建てるにしても、医療スタッフの協力がなければいい病院はできない。なぜ今ごろこんな話になるのか」と戸惑いを隠さない。

 市は8月いっぱいは用地買収の交渉を続け、現在地に建てる上での課題を精査する。本院は大崎地域だけでなく、栗原、登米両市からも患者が通う拠点病院。「誰のため、何のための医療施設か」という原点に立った検証が求められる。


2009年08月16日日曜日

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