戦争の記憶が年々遠ざかる中、当時の体験をつづった回想録や証言集などの出版が相次いでいる。70代、80代の人たちの「今、書き残しておかなければ」という強い思いの表れのようだ。
昨年上梓(じょうし)された「中学生の満州敗戦日記」(今井和也著、岩波ジュニア新書)も、その一つだ。旧満州(中国東北部)で敗戦を迎え、日本に引き揚げるまでの苦難の1年2カ月を、著者は「はるかに遠ざかっても、この原色の記憶はいささかも色褪(あ)せていない」と記す。
「長い遠足にいくような気分で、みんな汽車の中ではしゃいでいた」。戦争も終わりに近い1945年6月初め、学徒動員でハルビンから北東約250キロの開拓団に向かう場面だ。悲壮感はみられない。
しかし、ソ連の宣戦布告で状況は一変する。ハルビンに戻る途中の8月15日、玉音放送を聞いたが、理解できず、先生から「日本降伏」を知らされた。信じられなかったという。
無事、家族の元に戻れたが、食べ物が尽き、家にあった着物や日用品、さらに手作りの花札などを街頭で売った。大人が外出するのは危険だったからだ。多感な十代の見た戦争は、大人とはまた感じ方が異なっていたに違いない。
きょうは64回目の終戦記念日。子どもたちに戦争を体験させるようなことが二度とあってはならない。