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不況に克つ:売り込め新幹線 エコな鉄道、再評価 各国で大規模計画、受注合戦強まる

 <不況に克(か)つ>

 日本の鉄道車両メーカーが海外での受注拡大に力を入れている。環境問題への対応で世界的に鉄道再評価の機運が高まっており、米オバマ政権が大規模な高速鉄道建設計画を打ち出すなど、鉄道が「ビッグビジネス」(メーカー幹部)に浮上しているためだ。日本勢は、新幹線などで築いた高い技術力を武器に、海外メーカーとの受注合戦に挑む。【高橋昌紀】

 米国が打ち出した高速鉄道計画は、サンフランシスコとサンディエゴ(総延長1300キロ)を最高速350キロで結ぶなど、全米11地域に延長550~3720キロの路線を新設するとの内容だ。既に80億ドルの予算が確保されており、「世界の高速鉄道計画の中でも最大級のプロジェクト。実現性は高い」(国土交通省)と言われている。

 米国の前哨戦と言われるのが、年度内にも入札があるブラジルの高速鉄道計画(全長約500キロ)の受注競争だ。サッカー・ワールドカップが開催される14年開業を目指す計画で、総事業費は1・7兆円。日本勢は三井物産を幹事社に、車両の川崎重工と、信号・通信設備の三菱重工、東芝が組んで新幹線の売り込みを目指している。

 「日本とブラジルは歴史的につながりが強く、台湾に次いでブラジルの受注も可能」と関係者は言う。対抗馬は時速300キロ超のTGVを擁する仏アルストム。同じ南米のアルゼンチンで受注に成功し、サルコジ大統領を先頭に官民一体のセールスを推進している。

 海外への新幹線売り込みに向けて、JR東日本、東海は今年に入り、相次いで海外事業を担当する部署を新設した。JR東海の葛西敬之会長は6月末、ワシントンを訪れ、オバマ政権のラフード運輸長官らと面会。「世界の高速鉄道の中で、米国に一番ふさわしいのは(日本の新幹線で最新鋭の)N700系だ」とトップセールスを展開した。

 ◇企業連合で安全強調

 日本勢の中で、海外事業で先行しているのは川崎重工だ。07年開業の台湾新幹線では、日本の700系新幹線をモデルとした車両を納入。現地工場がある米国では、ニューヨーク地下鉄など08年度までに計3000両以上を納入した実績があり、08年度の鉄道事業の売り上げ(1503億円)の半分は海外で稼いだ。10年度には時速350キロで走行できる「efSET(イーエフセット)」の生産と走行実験に乗り出す予定だ。

 また、JR東海傘下で新幹線車両製造トップの日本車輛製造は、米国向けに800両以上の納入実績があり、今後の受注を有利に進めるため米国現地に自前の工場を建設することを検討中だ。日立製作所は今年2月、納入実績のある英国から、新たに長距離高速鉄道の受注に向けた優先交渉権を獲得。年内に正式受注が決まれば、リチウムイオン電池を搭載した環境対応型車両も含めて最大1400両を納入する予定だ。

 ただ、米高速鉄道などビッグプロジェクトの受注競争では海外のライバル勢も手ごわい。仏アルストム、独シーメンス、カナダのボンバルディアの「世界3強」は、車両製造に加え、信号・通信など運用管理も含めた総合的な鉄道システムを単独で提供できるからだ。

 このため国交省は、国家プロジェクトの受注競争では「得意分野を持つ日本企業が連合を組み、新幹線で培った鉄道システムの安全性をアピールする必要がある」とする。

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 ■ことば

 ◇高速鉄道

 営業運転速度が時速200キロ以上の鉄道。国内の最高速はJR西日本の新幹線500系とN700系の時速300キロ。海外では仏TGVが時速320キロで運行している。米国、ブラジル、ロシア、インドなどが導入を計画中だ。

毎日新聞 2009年8月15日 東京朝刊

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