再生に懸ける銚子病院(下) 盆明けに“暫定開業宣言”へ
千葉県の銚子市立総合病院の診療再開をめぐり、銚子市は7月23日、医師や弁護士らでつくる「銚子市立病院再生準備機構」(以下、機構)と委任契約を締結し、病院再生事業は新たな局面を迎えた。来年4月の暫定再開に向け、現在、機構側が再開に必要な医療資源(医師、看護師、医療法人など)の確保を目指している。市立高校の看護学生を新病院に呼び込むため、野平匡邦市長は盆明けにも、事実上の「暫定開業宣言」をしたい考えだ。来年度の暫定再開は実現できるのか。そして、機構は病院再生への青写真を描けるか―。野平市長がキャリアブレインの単独インタビューに応じた。
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―岡野俊昭前市長のもとで進められていた「市立病院指定管理者選定委員会」(以下、選定委)は昨年6月26日、公募で名乗りを上げた医療法人を「不適切」とし、再生事業は事実上白紙に戻りました。
市長候補者になる前の段階で、わたしは「こういうやり方で医師は集められない」とはっきり申し上げてきました。昨年秋に「銚子市病院事業あり方検討委員会」が組織され、委員ほか数人で選定審査を行うこととなりました。これは前市長のもとで始まったことなので、わたしは結論が出るまで表立った行動を控えていましたが、公募した法人が「不適切」となった26日夜、東京都内で機構と非公式の初顔合わせを行いました。
―7月23日、市は機構と委任契約を結び、再生事業は野平市長のもとで新たに動き出しました。
市議会や職員に民法上の委任契約の意味を理解してもらえ、大きなハードルを超えたと思っています。機構のメンバーは、私が個人的に信頼関係を結んできた超一流の人たちの集まりで、法人格もありません。そのため、かなり大きな議論になりました。市議会の人たちがそれを受け入れたということに、大きな意味があると思っています。
今回の委任契約は、医療組織、指定管理者になり得る後方医療集団、法人を連れてくる方に委任しています。着手金、実費、そして成功報酬を払うという、いわばビジネスの原理なんですね。わたしたち地方公務員や地方議員は、相手の経営収支の苦労というものが全く見えていない。仕事を受注して事務費や人件費を払っている集団を、何もアウトプットしなくても給料が自動的に振り込まれる自分たちと同様に見てしまうのは、基本的な間違いです。これまでのやり方は、それが問題だったのではないでしょうか。
―専門家への委任契約という形態を選んだのはなぜですか。
選挙戦に向けてわたしが動き出したのは3月ですが、その頃、社団法人地域医療振興協会を訪問し、非常に大きな手応えを感じました。協会側は、「野平市長個人との過去の信頼関係を基に協力する」と言ってくれましたが、一方で「全面的に頼られても困る」とクギを刺されました。この時、こちら側も自分で医師を集める努力をしなければならないことがはっきり分かり、機構という発想にたどり着いた訳です。
機構のメンバーは、さまざまな分野の専門家で、この人たちが病院の医師や院長になるという話ではありません。いろいろな人脈や過去の信頼関係を通して、複数のルートから医師を集めようという考え方です。地域医療振興協会以外にも、4、5の医療集団が見え始めています。まだ公表できませんが、これまでの進行状況や手応えから言って、来年4月の暫定開業はあり得ると考えています。
―病床数や診療科など、新病院に求める医療体制はどのようなものでしょうか。
昨年11月に「銚子市病院事業あり方検討委員会」がまとめた報告書では、最低限必要な診療科として、内科、外科、整形外科、小児科、そして24時間の救急がありました。4診療科、100−150床、そして救急という3つの条件が付いたのですが、何が本来あるべき姿なのか分からないので、機構にはそこから検討するようお願いしています。当然、経営が成り立つバランスもある訳ですから。既に市民の中にある考え方の一つなので、もちろん尊重はしますが、「経営ベースで一番合わない数字だ」と批判する方もいるので、これだけにとらわれないつもりです。
―国保旭中央病院とは、今後どのように連携していくのでしょう。
病院休止後、銚子市民が結果として、旭中央病院を崩壊させるほどの圧力とご迷惑を掛けている側面も否定できません。病院側は「三次救急は引き受ける」と言っていますが、一次と二次については、銚子市内の病院で受け持つよう求めています。そうでないと、三次も受けられない状況になってしまう、と。だから、二次救急は銚子でやるという意思表示を早くしたいと思っています。来年4月の再開には少し不安も残りますが、二次については、銚子市立病院と他の大病院で担うことが前提だと思っています。各地域の周辺病院と基幹病院でない中核病院とが、県全域で二次救急まで行うということです。
―旧病院では医業収入に占める人件費の割合が高く、それが経営を圧迫していました。 機構が集める病院長想定者、医療法人ならば医療法人の理事長想定者たちが、「こういう姿であればやらせていただきます」というものがあれば、基本的にそれに従います。たとえ公立病院でも、ペイしないものを作ってはいけないと思います。旧病院では、医師の確保が困難になった結果、累積赤字が少しずつ膨らみ、人件費も異常な高さとなりました。
ただ、25年前に「総合病院」となった時点で、既に問題があったのではないか、というのが私の意見です。2004年に始まった新医師臨床研修制度の影響で、確かに致命傷を受けましたが、始まった当時から大きな問題を抱えていたと思います。経営度外視で、ただただ日大にお願いしてしまった。当時から、「30年ぐらいたてば、たぶん駄目になる」という声があったそうです。
今回、医師や看護師を雇う体制をつくると同時に、経営的にペイする仕組みが必要だと思います。非常に厳しいことを言うと、仮に建物を新築した場合、その減価償却費を賃料として払ってくれる。赤字への経常費補助金は、国の制度的な支援以外は出さないという条件をのんでくれるようなところを探したいんです。市の一般会計が、病院次第で分からなくなるのではなく、明確に責任を分ける必要があります。病院の中で経営ライン、診療ラインが、それ相応に一つの医療法人としてやっていけないと、市の財政力では今後も赤字は補てんできませんから。もちろん、理想通りには進まないと思うので、例えば、5年ぐらいの間は、地方交付税措置と同額を上乗せして市単独で助成するというような覚悟も必要です。途中から赤字になって、それを市が無原則に負担する仕組みはもうないと考えるべきでしょう。
―機構は、年度内に医療資源を確保できるのでしょうか。
銚子市内には、市立高校の5年制の看護科がありますが、経営が厳しいため、2年前に生徒の募集を停止しました。現在、3年生から5年生の学生が残っており、来年から毎年35人くらいずつ、3回にわたって卒業します。わたしも機構側も来年の暫定開業時の戦力として、彼女らを当てにしています。そこで、盆が明ける17日以降に、来年4月から正看護師として就職する学生たちに対し、わたしの方から「ぜひ銚子市立病院で働いてほしい」と声を掛けるつもりです。直前までの機構の情報を持って、「来年には、確実に暫定開業するので来てほしい」と。
これは「暫定開業宣言」に近い訳ですよ。万が一、開業できなかった場合は、市の一般会計で看護師として雇うつもりです。4月が駄目でも、来年度のできるだけ早い時期に間に合わせる、と。病院が始まる前に人件費を払うということは、市としても背水の陣となりますが、それぐらいの覚悟で意思表示するつもりです。場合によっては、暫定開業時の院長、もしくは名誉院長想定者も呼び、こういう先生が来るという安心感を与えなければならない。魅力的な病院をつくるという意思表示をして、ぜひ新病院に入ってほしいと願っています。
―院長想定者と言われましたが、既に見通しは立っているのですか。
院長想定者だけでは駄目なので、常勤医師5、6人に加えて非常勤を含めた最低10人の医師が必要だと思っています。それは、選定委の人たちもイメージしていたことでしょう。少なくとも、当時の選定委に出していれば、文句なしに合格していたような人数は集めたい。最終的には、医師数30、40人というイメージを描けるかが重要です。それも同時に示さなければ、医師が安心して働けませんから。志の高い熟年医師が来てくれても、くたびれてしまいますよ。だから、若い医師が来る仕組みとセットにしないと、30、40人の構想は描けないと思います。機構がそれをどのように描くのか期待しています。
9月から定例市議会が始まります。医療法上の病院休止を延期してもらうため、県に対し9月30日までに病院再生の工程表を出さなければなりません。地域医療再生臨時特例交付金の100億円をこちら側に引き寄せるには、ベッド数を留保する以上の内容を示す必要があるので、市議会との論戦でそのことを詰めていくつもりです。
■ ■ ■
「来年4月の暫定開業はあり得る」と自信をのぞかせる野平市長。医療者と患者にとって、本当に望ましい医療が提供できるのか。今、その手腕が問われている。(終わり。この連載は編集部の敦賀陽平と白石雄貴が担当しました)
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