再生に懸ける銚子病院(中) 旭中央病院の“悲鳴”
「総武本線の沿線はほとんど焼け野原状態。夜は救急病棟がない」。千葉県銚子市に隣接する旭市の国保旭中央病院(956床)で救命救急センター長を務める伊良部徳次副院長は、そう言って危機感をあらわにする。銚子市立総合病院が救急患者の受け入れを休止した昨年7月時点で、銚子からの救急搬送は対前年比で10%増加。病院全体では1.4%減少している点を考慮すると、銚子からの受け入れ患者数の増加は際立っている。一方、地理的な条件などから、患者が旭中央病院に流れていると考える向きもある。銚子市医師会の間山春樹会長は、一次救急から三次救急まで、年間6万人以上の患者を受け入れる同病院の機能分化を求めている。銚子病院の休診後、現場で何が起こっているのか―。この1年の医療体制の変化を追った。
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旭市は人口約7万人。その数は銚子市とほとんど変わらない。駅前は閑散とした雰囲気だが、バスで少し南へ向かうと風景は一変する。敷地面積17万2402平方メートル。県内有数の病床数を誇る旭中央病院の周辺は、まるで一つの街のようだ。現在、常勤職員数1917人、このうち常勤医師だけでも249人(ほか非常勤34人)を抱える。診療科は内科、外科、小児科など37科。救命救急センターを持つ県東部で唯一の病院で、診療圏は県東部と茨城県鹿島地区を含む東南部までの12市8町に及ぶ。
■昨年7月以降、救急搬送が月20−30台増加
昨年9月末の診療休止に先立ち、銚子病院では7月上旬から新規入院と救急業務を停止。その直後から、旭中央病院への救急搬送は急増する。それまで、銚子市からの救急車の搬送台数は月平均40台前後で推移していたが、停止を境に月20−30台も増えたという。伊良部副院長は、「銚子病院に行っていた60台前後の救急車のうち、30−50%がうちに来たことになる」と分析する。また、昨年度の千葉県内からの新規患者のうち、銚子市民の占める割合は7月19.8%、8月20.3%、9月24.8%と、多い時には県内の患者の約4分の1に上った。
病院側が最も頭を悩ませているのが、ベッドと手術室の確保だ。昨年度の病床利用率は平均94−98%で、平均在院日数を下げて稼働率を上げなければ、救急患者が入らない状態だったという。
銚子病院が一切の手術を休止した昨年6月以降に、手術件数は急増した。5月には598件だったが、6月657件、7月758件と上昇。特に銚子病院で行われていた外科と脳外科の手術件数が増えた。伊良部副院長は、「過去5年間の平均と比べると、話にならないぐらい増えた。銚子だけの影響ではないが、時期的にかなり一致している」と見る。
千葉県は今年4月、救急コーディネート事業をスタート。これに伴い、旭中央病院では5月ごろから、30床ある救命救急センターの病床のうち4床を同事業のために使用し、これらのベッドについては、夕方まで必ず空けるようにしている。「翌日に出てもらわなければならない急患もいるので、毎日夕方には当直医、空床、そして受けられる診療科の一覧表を作って、救急隊と地元の病院に送っています」と伊良部副院長。これらのベッドを空けるため、まさに自転車操業の日々だという。
■夜間の小児診療所開設も、利用は伸びず 9月末の病院休止後、精神科と小児科については、千葉大や銚子市医師会などの協力で、10月から施設の一部を活用した診療所が開設された。精神科は今年7月1日に移転し、「銚子こころクリニック」として、市街地で新たに診療をスタートさせたが、小児科は現在も院内で診療を続けている。だが、銚子市医師会によると、現在の1日の平均患者数は3人程度。患者が少ない理由について、間山会長は「患者の親側が小児科医に診てもらうことを望んでいるため」と説明する。
小児科の診療所は、平日夜のみ診療を行う「夜間小児急病診療所」で、診察を担当する医師は、市内の病院やクリニックから交代で派遣されている。現在、医師数は約15人で、このうち専門の小児科医は2人のみ。その他は小児専門ではない内科医らが担当しているのが現状だ。一方、民設民営のこころクリニックも、千葉大出身の医師の善意で診療が行われており、中には高齢の医師もいるため、市では「将来的な見直しを検討する必要がある」としている。
■患者側が旭中央病院を選んでいた?
病院の診療休止をめぐる問題について、フリーアクセスの観点から、患者自身が旭中央病院を選んでいたとする声もある。銚子から旭までは車で30分ほど。旭駅からは無料送迎バスも出ており、居住地によっては銚子病院よりも利便性が高い。それに比べて、銚子市は無料送迎バスを出しておらず、車がなければ、銚子電鉄か有料バスを利用するより術はなかった。銚子電鉄を利用した場合は駅から歩かなければならないが、道中は坂道になっており、高齢者が利用するのは難しかった可能性も考えられる。 これについて伊良部副院長は、「それは順序が逆だと思う。病院がなくなったから患者がいなくなったと考えるのが正しい。なぜなら、病院がなくなった後に(銚子からの)患者の流入が顕著になった」との考えだ。一方の間山会長は、「今の時代、車ならば距離的な問題は関係ないと思う」としながらも、銚子病院の無料送迎バスについては、市議会や医師会の間で意見がまとまらず、実現に至らなかったことを説明した。
間山会長は一方で、旭中央病院の機能が巨大になりすぎた点を懸念している。「診療所が底辺にあって、そこでできない医療を二次、三次へと分化させる。二次は銚子病院が担い、三次を旭中央病院が引き受けるという住み分けがなければ、病院の再生は不可能だ」と強調した。(続く)
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