地球存亡の危機に、4世代にわたる一族総勢30人が立ち向かう--。痛快なアクションが展開するアニメーション映画「サマーウォーズ」が公開されている。監督の細田守は、アニメ版「時をかける少女」も高く評価された。世界に通じる日本アニメの新たな旗手となりそうな俊英だ。【勝田友巳】
細田監督は結婚して長野県上田市の妻の実家を訪ねたとき、「サマーウォーズ」の着想を得たという。
「親戚(しんせき)付き合いは面倒と思っていたので、こんなに仲のいい家族が存在するのかと感動した。家族を描く日本映画は多いけれど、関係が難しくなったという内容が多い。でも、そんな現実を映画で見せてもしようがない。むしろ、肯定的に描くことに意味があるのではないかと思った」
そこに、娯楽映画志向がくっついた。「アクション映画を作りたいと考えていて、主人公が一族郎党だったら、世界でも類のない作品になるだろうと」
映画で活躍するのは陣内家。上田市で室町時代から続く武将の家柄だ。間もなく90歳になる当主の栄を中心に固い結束を誇る。社会全体を統御するようになったネットの反乱に対し、一族が一致団結して挑む。
「ネットのコミュニケーションはかりそめで良くないもので、家族のつながりこそホンモノとなりがち。でも、それは批判のための言い回し。現実には、僕の嫁と彼女の母親がミクシィでドラマの感想を話し合っている。ネットを利用しているのは孤立した寂しい人ではなく、生活も日常もあり、コミュニケーションの楽しさを求めている人たち。ネットと家族を二項対立でなく、どちらも必要でそばにあるもの、大事にしたいもの、と描きたかった」
陣内家が団結する一方で、ネットを通して世界各地の人々が協力を申し出る。物語はあくまでも前向きだ。
細田監督は1967年生まれ。子供向けのテレビアニメを制作する東映動画で腕を磨いた。「東映動画で、大人社会のしんどいことを子供に語ってもしようがない、という精神を培った。映画は公共のもので、肯定的な世界を描きたい」
東映動画の大先輩の宮崎駿監督にも一脈通じる姿勢といえる。しかし、「アニメと言えば、スタジオジブリ作品かマニア向け」という現状には不満だ。「アニメ表現の幅はもっとあるはず。多様な作品が作られてしかるべきだと思う」
2009年8月12日