麻生太郎首相(自民党総裁)と民主党の鳩山由紀夫代表による党首討論が、学者や経済人らでつくる民間団体「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)の主催で行われた。衆院解散後初の一対一の党首対決だったが、聞く側にもどかしさや欲求不満を残す結果に終わったと言わざるを得ない。
各種世論調査で不利が伝えられる首相は、なりふり構わず民主党公約の弱点を攻めたてた。子ども手当や農業者戸別所得補償、高速道路無料化などについて「財源のないばらまきは無責任」と断じ、安全保障政策でも「一貫性のない党に日本の安全は任せられない」とした。
一方、優位に立つ鳩山氏はまず防戦に意を払った感がある。その上で、与党の政策が「天下り天国の無駄遣いの多い国にした。こういう国を誰がつくったのか」「官僚任せの政治では現状は打破できない」などと切り返し、前回衆院選から4年間の与党の「失政」を突いた。
議論がすれ違った印象しか残らなかったのは、双方が批判合戦に終始したからだろう。公約の弱点への対応策は有権者も知りたいところだ。両党首には、相手の問いかけにいま少し率直に応じる姿勢がほしかった。
自民党では幼児教育の無償化や大胆な行政改革といった文言が公約に並ぶ。だが、なぜ政権の座にあった今までそれらができなかったのか。首相が今後、信頼回復のために自民党を体質的にどう変えようとしているのか、みえてこない。
民主党に欠けていると攻撃材料にした成長戦略も、2%成長とか経済のパイを大きくするというものの、成長の具体策はやはりよく分からない。
民主党は、やはり財源問題だろう。鳩山氏は子ども手当の財源に関し、65歳未満の子どものいない専業主婦の家庭で月1400円程度の増税になると「痛み」にも言及したが、財源面で信頼を得るにはまだまだ説明が不足している。
安保政策でもインド洋給油活動に関し「すぐにすべてを変えるわけではない」と述べるなど相変わらず不明確だった。
聞き心地のよい政策を並べるだけでなく、弱点とされる部分も率直に語ることで説得力が高まり、信頼がはぐくまれるのではないか。討論では年金、介護など社会保障や将来の財政問題などの議論は深まらなかった。これらも詳しく聞きたいところだ。総選挙本番に向け、有権者がうなずくに足る訴えが、両党首に求められる。
台風9号に伴う豪雨や東海地方を襲った地震は、日本が「災害列島」であることをまざまざと見せつけた。岡山県内でも被害が相次ぎ、貴重な文化財にも影響が出た。総社市の古代山城・鬼ノ城(国指定史跡)だ。
城を巡る土塁の一部が大雨で崩れているのが同市教委の調べで分かった。詳しい崩落規模は不明だが、風雨対策のため土塁を覆っていたシート内側に幅1・5メートルにわたって崩れた土砂がたまっていた。
大規模でないとはいえ、ショックなのは、この個所が約1400年前の築城当時のオリジナルな土塁だったことだ。
鬼ノ城では2004年5月、復元工事で残存土塁を覆った再現土塁が長雨のため長さ約15メートルにわたって崩れ、昨年春、新手法で修復作業を終えていた。今回の雨で被害がなかったのは工事の効果を実証したともいえるが、築城当時の土塁の被害は新たな不安といえる。
石垣の堅固なイメージを持つ鬼ノ城だが、全長約2・8キロの城壁のうち9割を土塁が占める。実は「土の城」だ。地球温暖化の影響もいわれる最近のゲリラ的集中豪雨は、従来の予想を超える。自然災害から遺跡をどう守るかという観点からの対策が、これまでにも増して求められるだろう。
史跡の整備事業は近年、各地で盛んだ。発掘して記録し、埋め戻し保存するというやり方から、積極的に整備して広く一般市民に公開し、活用する方向に関心が高まってきた。鬼ノ城は古代山城整備では、そのパイオニア的存在といえる。
古代東アジアの激動の歴史を体感できる鬼ノ城は、吉備最大の歴史モニュメントであり、未来へ渡すかけがえのない文化遺産だ。調査、整備とともに保存のあり方に知恵を絞りたい。
(2009年8月14日掲載)