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清水義範のなごやキーワード事典:観覧車 どうせなら楽しいものを

 愛知万博がもうじき開幕するという2005年のことだが、某新聞社からコメントを求められた。名古屋の出来事についてご意見をきかせてほしい、というのだ。

 そういうことが多々あるのである。名古屋で何か珍しいことがおこると、どうしてそうなるのか解説してくれと、新聞社は私に電話してくるのだ。そしてそのほとんどが、解説のしようもないような、おかしな事態についてである。つまり最初から、名古屋は変なところで、あきれて笑っちゃいますね、という内容のコメントを求めているのだ。

 たとえば、かなり前のことだが、愛知県の県の魚が海老(えび)に決まったのだが、それについてご意見を、ときかれた。そんなことにどう答えればいいのか。愛知県人は海老フライさえあれば生きていけるのだ、とでも言ってほしいのか。

 またある時は、中日ドラゴンズが優勝したからといってコメントを求めてきた。私は今はもうプロ野球には関心がないので、と断ろうとすると、そのことではなく、優勝を喜ぶあまり球場のネットに登って、手の指を失う大怪我(けが)をしたファンがいる、それをどう思うかときいた。お気の毒としか言いようがないではないか。

 その他、ナゴヤドームに雨がもったとか、駅ビルが新しくなったとか言っては私にコメントを求めてくるのだ。いちばん面くらったのは、大相撲の名古屋場所に限って見られることだが、千秋楽に、お客が土俵の俵を掘り出して持っていってしまうのだ、なんてことをきいた。相撲協会は別に構わないとしているのだが、そんなことがおこるのは名古屋だけである、どうしてなんでしょう、ときかれても答えようがない。名古屋人は、今そこにある持っていっていいものを見てしまえば、持っていかずにはおれないのだ、とでも言わせたいのだろうか。

 話を2005年の万博の前に戻そう。その時の記者が言ったのはこういうことだった。

 「名古屋人というのは観覧車が好きなんでしょうか」

 ◇各地で流行…でもフフフ

 言われて、質問の意味がよくわからなかった。名古屋に観覧車が多いなんてきいたこともなかったのだ。それが多いんですか、ときいてみたら、このところ急に増えているんです、という答えだった。なんでも、万博会場に二つあり、市街地のビルに観覧車がついているものがあり、そのほかにもまだいくつかある、という。つまり、やけに観覧車ブームなのだが、それはなぜか、というのだ。

 私がそれにどう答えたのかは忘れてしまった。おそらく、万博があればそういう楽しいものを造りたくなるもので、たまたま今多いだけなんじゃないですか、なんて言ったのだろう。

 今、あらためて考えてみて、名古屋に観覧車が特に多いということはないと思う。あれはなんだかこの頃(ごろ)人気もので、あちこちでいっぱい見るようになった。東京でも大阪でも、観覧車がイルミネーションで飾られている光景が見られる。

 名古屋の栄という繁華街の、サンシャインサカエというビルの側面にスカイボートという観覧車があって、あれは少し珍しい景観だが、あれとよく似た物がつい先日長崎へ行ったらそこにもあった。つまり日本中で観覧車が流行しているのである。だから、名古屋は観覧車の名所、という説は立てないほうがいいと思う。

 しかし、それとは別に私は、名古屋と観覧車か、と考えて少し笑うのである。確かに、名古屋の人はああいう楽しげなものが好きではあるなあ、と思って。

 ◇ちょっと工夫する伝統が

 名古屋は豊かで古くから楽しいものが好き、ということをこのコラムで何回も指摘してきたが、名古屋人はちょっと工夫して楽しくしたものを喜ぶのだ。たとえば愛知県岐阜県のあたりには、江戸時代からからくり人形の伝統がある。ああいう遊びにはつい熱心になってしまうのだ。

 そういう意識があるせいで、何かを工夫したり、発明したりして楽しむ伝統があるのだ。その一例が、大正元年に、名古屋の大須の人森田吾郎が発明した大正琴である。彼は欧米へ行ってタイプライターを見てそれをヒントに大正琴を作ったのだそうだ。

 もともと名古屋にはもの造りの技術があるのだ。その技術をもとに、ちょっとした工夫をほどこして、楽しいものを造り出してしまうのが名古屋だと言ってもいいかもしれない。

 ◇笑える珍メニューも文化

 たとえば、名古屋には面白食文化とでもいうものがある。笑いながら話題にしてしまう珍メニューの伝統と言ったほうがわかりやすいかも。小倉トーストとか、あんかけスパゲティとか、天むすとか、八丁味噌(みそ)のソフトクリームとか。

 それらは、食文化に革命をおこすほど斬新ではなく、もともとあるものに、ちょっと工夫を加えて面白くしたものである。そういうふうに、名古屋人は、どうせなら楽しいもののほうがええがや、と発想する。そのせいで、案外発明が多くて、その一方で観覧車が好きだったりするのだ。

毎日新聞 2009年8月14日 地方版

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