きょうの社説 2009年8月14日

◎エコカー・ブーム 補助金支給期間の延長を
 ハイブリッド車に代表される燃費性能のよい「エコカー」が売れている。国交省北陸信 越運輸局によると、石川、富山両県で販売された減税対象車の比率は4月以降急速に高まり、6月は石川、富山ともに68%に達した。地元で売れる新車の3台に2台の割合であり、空前のエコカー・ブームの到来と言ってよい。

 ただ、一部の人気車種に注文が殺到して納車が来年4月以降にずれ込み、今年度内で終 了する新車購入補助金が受けられないケースが出始めているのが気がかりだ。経産省は「延長は考えていない」としているが、エコカー助成と省エネ家電のエコポイント制度は今、低迷する個人消費のけん引役になっている。エコカー・ブームを短命に終わらせぬよう補助金支給期間の延長を考えてほしい。

 衆院選挙で政権交代が実現した場合、民主党はマニフェスト(政権公約)の実現を優先 し、麻生政権の実績であるエコカー助成の延長には、そう簡単に首を縦に振らぬだろう。しかし、エコカーと省エネ家電の支援は、消費をじかに刺激し、生産を拡大する絶大な効果が出ている。北陸でもハイブリッド車と省エネ家電の「特需」で、電子部品・デバイス分野の生産回復が著しい。エコカー人気は、自動車や電子部品メーカーなどが次世代技術の開発で世界に差をつける絶好の機会であり、低炭素社会の実現という時代の要求をも満たしている。

 特定の業界に利益が偏るとの批判もあるが、自動車や電子産業のすそ野は広く、雇用創 出効果もい。米下院は先月末、総額10億ドル(約950億円)の低燃費車の購入支援制度に、20億ドルを上乗せする法案を可決した。日本のメーカーが最大の受益者となる制度ではあっても、景気浮揚の効果が極めて高い点が評価されたからである。

 オバマ大統領は同時に、ビッグスリー(米自動車3大メーカー)とリチウムイオン電池 開発で提携した企業などに総額24億ドル(2280億円)の無償供与を発表した。次世代エコカーをめぐる世界競争で日本から主導権を奪還する狙いである。技術で優位に立つ日本勢も、うかうかとしていられない。

◎取り調べ可視化 捜査力を高める手立てに
 裁判員裁判や足利事件の再審決定などで、取り調べの全面可視化を求める声が強まって いる。検察、警視庁や大規模な4府県警に続き、石川県警でも裁判員裁判対象事件で取り調べの一部録音・録画が始まったが、まだ手探りの段階であり、現場では可視化の拡大に慎重論も根強い。

 だが、足利事件や氷見市の冤罪事件をみても、取り調べ段階で虚偽の自白に至る状況が 生じないとは言い切れない。これらは特異なケースとはいえ、取り調べに潜む危うさを端的に物語っている。裁判員裁判が増えれば、証拠の客観性を重視する傾向はますます強まるだろう。自白の信頼性や任意性を担保するうえでも捜査機関にとって可視化は避けられない。試行を重ねて功罪を見極め、捜査力を高める手立てにしてほしい。

 取り調べの可視化は裁判員制度へ向け、検察が2006年、警察も08年から試行を始 めた。日弁連などが「都合のいい部分だけ収録される恐れがある」として全面可視化を求めているのに対し、警察庁は「真相解明に必要な容疑者との信頼関係が築けなくなる」として、収録は取調官が自白調書を容疑者に示し、内容について質問する場面などに限定している。

 確かに、可視化が真相解明を妨げては導入の意味は薄れる。録音のタイミングや時間な ど、実例を重ねて望ましい運用の在り方を探るのは現場の考え方として理解できる。一方で、裁判員裁判では今後、被告が否認したり、公判廷で供述を覆すケースも想定され、捜査のチェックを容易にする仕組みが求められるだろう。

 虚偽の自白に至らなくても、取調官の誘導などで供述内容とは一致しない調書が作成さ れやすいことは以前から指摘されていた。相次ぐ冤罪事件を教訓に、警察庁は取り調べ適正化指針に基づき捜査部門以外の警察官による監督制度や透視鏡設置などを進めている。それらと合わせ、可視化を捜査力向上に生かす視点があっていい。

 供述が変遷する容疑者など、公判で調書の任意性が争われる可能性のある事件では、可 視化を積極的に検討する必要がある。