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社説

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09総選挙に問う―成熟日本に新産業革命を

■成長アジアの市場を共有する仕組みを作ろう

■低炭素社会、超高齢化時代のリーダー目指せ

 世界が「奇跡」と目を見張った戦後日本のスピード復興と高度成長。その成果に国民が自信を深めたのは1969年だった。日本の国民総生産(GNP)が西ドイツを抜き、米国に次いで自由世界2位となった。

 だが、急成長を続ける中国の猛追で、「2位」は風前のともしびだ。

 経済大国の階段を駆け上がった40年前とは対照的な悲観論が漂う。未曽有の経済危機、低成長のわなから抜け出せない焦り、人口減少時代の不安。

 人口増加とともに容易に成長できる時代は去った。ならば成熟経済の果実をゆっくり味わえばいい、との考え方もあろう。だが、所得の合計でもある国内総生産(GDP)を増やさなければ、生活水準を保つことも難しい。

 経済全体のパイを効果的に増やし、閉塞(へいそく)感をぬぐい去るには、新たな国家的成長モデルが必要とされている。

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 それには、直面する三つの課題に取り組む必要がある。中国など新興国との競争と共生。超高齢社会の克服。そして低炭素社会への改革だ。いずれも大きな関門だが、悲観する必要はない。見方を変えれば、どれも日本にプラスに転じられるものだ。

 たとえば世界同時不況に打ち勝つ原動力の一つとして世界が注視する中国の成長は、手ごわいライバルの台頭であると同時に、日本に隣接する市場が豊かになることも意味する。

 インドや東南アジアも含むアジア域内の潜在成長力は米欧よりずっと大きい。この地域の中間層人口はすでに9億人近くに膨らんでいる。

 多極化という新段階を迎えたグローバリゼーションの渦中に打って出る戦略が必要だ。成長するアジア市場を域内各国が共有する「共通市場」化を、世界貿易の拡大と両立させつつ推進すべきである。そうすれば、日本企業に巨大な事業機会が広がる。

 低炭素社会への対応はどうか。国際的な枠組みのなかで、温室効果ガスの大幅削減に取り組む。ものづくり国家の新たな試練だが、これも新しい技術や製品を育てるチャンスだ。

 たとえば太陽光発電。「日本の太陽電池工場はいわば『油田』。中東産油国からの誘致もある」とシャープの町田勝彦会長は言う。こうした世界最高水準の環境技術に磨きをかければ、低炭素社会の勝者になれる。

 一方、超高齢化が進むと、労働力確保や年金・医療保険制度の維持が難しくなる。その不安がいま消費を萎縮(いしゅく)させていることを考えれば、社会的な安全網を強化して国民不安を解消することは重要な経済政策でもある。

 イタリア、韓国など高齢化が進む国は少なくない。人口13億人の中国もやがて高齢化が急速に進む。世界で最初に超高齢化を経験する日本はモデル社会づくりの先行例となる。規制緩和や投資減税などの政策誘導で、いち早く介護ロボットや先端的な医療福祉サービスを開発し、世界をリードする有力産業に育てることも夢ではない。

 それが新たな雇用を生み、サービス利用者が家族の介護で働くことを制約されないような世の中にすることができるなら、超高齢化への挑戦そのものが成長の新しい柱となる。

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 日本はこれからどうやって食べていくのか。政権選択をかけたこの総選挙では、そこが根底から問われている。だが残念なことに自民党も民主党も政権公約には大きな処方箋(せん)がない。

 自民党は「10年度後半には年率2%の経済成長を実現」「今後3年間で40兆〜60兆円の需要創出」と数値目標を掲げた。民主党も成長戦略が不備との批判を受けて「内需主導型経済への転換」などの公約を追加した。しかし、いずれも実現の道筋を示してはおらず、戦略の全体像が不明確だ。

 経済成長のための戦略は、内外でもっと民間活力を引き出すとともに、政策の相乗効果を発揮できる総合設計とすることが必要だ。また、国民の受益だけでなく、産業構造の転換に伴う痛みや負担増についても積極的に説明し、理解を求めなければならない。

 アジアを「共通市場」として繁栄させるには、日中韓を中心とする自由貿易圏づくりが課題となる。東アジア共同体や、アジア共通通貨構想も真剣に検討する時期を迎えている。

 一方、日米間での自由貿易協定(FTA)の推進も、避けて通れないテーマである。農産物の輸入自由化の試練を乗り越えるために、減反廃止や戸別所得補償の導入など抜本的な農政改革が求められるだろう。

 日本とアジア諸国との物流もさらに太く便利なものにしなければならない。それには政府の途上国援助(ODA)も活用して、アジアの幹線道路や鉄道、港湾の整備などに計画段階から協力するのが効果的だ。

 試練を好機ととらえ、成熟時代の日本をつくり直す。新たな産業革命のための広い視野と構想力が、今ほど政治に問われている時はない。

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