温泉道のスタンプ帳「スパポート」。88カ所の温泉を制覇すると「名人」となる
温泉巡りのスタンプラリー「別府八湯温泉道」が、着々とファンを増やしている。街の隅々まで温泉があり、泉質も多種多様―。全国有数の温泉都市・別府ならではの試みは、身近な”財産”の再評価につながり、観光にも新たな切り口をもたらした。
「温泉道は予想外のヒット」と関係者は口をそろえる。88カ所を巡るというハードルの高さから、当初は一部の愛好家向けと考えていたからだ。それが、口コミで広がり、88湯をクリアした「名人」は8年余りで延べ2千人超。スタンプ帳「スパポート」は増刷を重ね、発行数は9万冊に達する。
温泉道の魅力は何か―。「お湯の種類、ひなびた建物。どこも個性的で飽きない」「宝探しのような達成感」「スタンプ集めにハマる」と参加者。
「庶民に密着した生活文化、温泉文化を感じることができる」と話すのは、名人を11回達成した永世名人の土谷雄一さん(43)=別府市。市民も知らない温泉を訪ね歩き、より深く街を知ることができる。
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地元では、当たり前すぎて気付かなかった「温泉の価値」を見直すきっかけにもなった。素朴な共同温泉がその一つ。温泉道ファンが泉質の良さをほめ、住民の誇りにつながった。七ツ石温泉の田原康行組合長(68)は初めて来る人のために、手作りの案内板を置いた。「1日数人でも収入が増えるので助かります」
「宿泊客用だった旅館・ホテルの温泉は“一般開放”が進んだ」と指摘するのは市旅館ホテル組合連合会事務局。データを網羅した温泉道のガイドブック「温泉本」の登場で、「効能や泉質で探すお客さんにも、ぴったりの温泉を紹介できるようになった」という。
別府八湯は全国トップの泉源数に加え、11種類中10種類の泉質をカバーする。ライバルを圧倒する“温泉力”を、いかに観光振興につなげるか。「それは別府の永遠のテーマ」と、市観光協会の大塚直登総務部長(32)は力を込める。
温泉の有無は旅先を選ぶ際の“必須条件”だが、ほとんどの人は宿泊施設で入浴するだけ。「湧出(ゆうしゅつ)量や泉質の豊かさは、お客さんの判断材料になりにくかった。『温泉がたくさんあるから別府に』となれば、別府観光はがぜん強くなる」
別府八湯の「規模」と「バラエティー」を、目に見える形にした温泉道。別府観光の針路に一つの“答え”を示したといえそうだ。
(別府支社・田尻雅彦)
観光の新たなコンテンツ
別府八湯温泉道初代実行委員長 斉藤雅樹さん(42) =別府市=
黒川温泉(熊本県)のような「湯巡り手形」を作りたかったが、入浴可能な温泉が400カ所ともされる別府は広すぎて向かない。そこで、思い付いたのが壮大なスタンプラリー。「来るのはマニアか物好きぐらい」と思っていた。こんなに広く愛されるようになって驚いている。
「泉質」にこだわるのは一部の人だけだったが、ここ10年で一般化した。インターネットの登場で情報が得やすくなったためだ。
地元の日常は観光客の非日常。別府の温泉は以前からファンの評価が高かったが“張本人”が気付いていなかった。今の観光客はお仕着せの情報に飽き飽きしており、ネット上の口コミ情報を信用する。温泉道は新時代の観光コンテンツになろうとしている。
<ポイント>
別府八湯温泉道 2001年3月にスタート。温泉8カ所を巡るごとに段位が上がる。携帯電話を使う参加方法もある。段位に応じたタオルが手に入るなど、コレクター心理もくすぐる。対象は共同温泉、宿泊施設の大浴場、温泉施設など137カ所(10日現在)。
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