ジャポニカ種の短粒米をクラスノダール地方で栽培する試みも定着して、中国産米とブレンドして使用しているレストランもあると聞く。清酒も中国産、だから日本酒というには無理がある。もっとも、ロシアで清酒は人気がなくて、これに代わるものが梅酒だ。チョーヤが一世を風靡したが、最近はこれも中国産の進出が目覚ましい。
醤油は日本のキッコーマンの壜がテーブルに乗っていることが多かったが、最近では中身に中国産醤油を使用する店がほとんどである。そのうえ、テーブルには醤油が置かれていない店も多い。スシを頼むと店員のお姉さんが醤油とともに現れて、取り皿になみなみと醤油を入れてくれる。
親切だと思うのは日本人だけで、ロシア人なら瓶ごと置いていってくれればよいのに、となる。なにせロシア人は小皿があふれるほど醤油を入れ、そこにスシを漬け込むようにして食べる。あっという間に小皿の醤油はなくなる。そんなわけで、低価格が売りのスシレストランでは水で割った醤油まで準備されている。
以上のようにメニューも、そして食材も、寿司は日本人の思いを超えて、今や国際的なスシという食カテゴリーが誕生したと考えている。そして人的な面でもしかり。
400店舗ある日本食レストランに日本人の調理師はわずか20人
これだけスシ屋の多いモスクワに、スシを握る日本人の調理師は20人ちょっとしかいないことを見ると、もうスシは日本人によって調理される料理ではなくなっているのだ。
最近オープンしたショッピングモール「メトロポリス」では、英国から進出した回転スシ「YO SUSHI」が1階の入り口横の最高の場所に店を構えている。店の中では中央アジア系の青年がスシを握り、カルミキア共和国のお嬢さんがテーブルをサービスする。私がテーブルに着くなり、そのお嬢さんが私に、回転スシの取り方、お茶の入れ方を教えてくれたのは、ご愛嬌だった。
日本の食品関係者は、このモスクワのスシシーンを見て、ここに日本製食材の宝の山があるとほくそ笑む。そして私はおもむろに「寿司はスシになったのです」という説明を始め、誤解に基づく期待を打ち消すのである。
では本当にこの場に臨んで日本の出番はないのであろうか。そんなことはない。今後、中央アジアからロシアに出稼ぎに来る単純労働者の入国が厳しくなり、労働力が減っていく時、日本の回転すしシステムは大きな可能性を持つ。
中国に出現しているように、回転すしのコンベアにスシ以外の料理、そして家族向けには子供用のおもちゃまで流す、そんなアイデアが必ずこの地でも実現すると思う。スシを中心にしたエンターテインメント、そんなアイデアが日本から出てきた時、日本は初めてスシを日本に取り戻し、新しい寿司ビジネスを創造できるのではなかろうか。
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