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ガンダムに学ぶ、コンテンツビジネス成功の“仕掛け”!

文●ロビンソン・岡崎勝己

2007年2月2日

「ガンダム」はなぜファンから飽きられないのか?

 「機動戦士ガンダム」――ほとんどの人がこの作品名を耳にしたことがあるだろう。1979年に初放映された同作品は、登場するロボット(モビルスーツ)をかたどったプラモデル、いわゆる「ガンプラ」ブームを巻き起こし、その人気はいまだに衰える様子はない。実際に、玩具メーカー大手であるバンダイのガンダム関連製品の売り上げは、2003年度から2005年度まで、321億円、251億円、276億円と極めて高い水準で推移。多くのヒット作がいずれは飽きられ、関連商品が市場から姿を消すなかで、ガンダムはきわめて稀な存在だ。

 では、数あるアニメ作品の中で、なぜガンダムは30年近くも人気を保てているのか。その理由としてまず挙げられるのは、言うまでもなく作品自体の質の高さにある。バンダイで全社的な視点でガンダムにまつわる商品戦略の立案に携わるメディア戦略チームのチーフプロデューサー、岡崎聖氏は、「登場するキャラクターやストーリーの魅力が非常に高く、作品の世界観にも奥行きがあった。作品中に描かれていないことを想像できる余地が大きかったことが、ファンを維持できた大きな要因の1つ」と、その魅力を分析する。

 ただし、作品の魅力がいくら高くても、ファンに飽きられてしまうことを避けては通れない。にも関わらず、ガンダムが今なお魅力的なコンテンツとしてファンから支持されているのには、1つの大きな理由がある。それは、ガンダムビジネスに携わっている各社が、ガンダムという資産の価値を高めるために不断の努力を続けているのだ。

“ウィン・ウィン”の関係を築く仕掛け

 ここで改めて、著作権の観点からガンダムビジネスを概観してみよう。アニメーションの著作権を管理する手法は作品によりさまざまだが、ガンダムは商品化の許諾はコンテンツのプロデュースを手掛ける創通エージェンシーが、ビデオ化や番組販売、出版、ネット・モバイル関連の許諾は、これまで多数のアニメーションの製作実績を誇るサンライズがそれぞれ窓口を担当している。バンダイをはじめ、ガンダムを何らかのかたちでビジネスに利用したい企業は、その目的に応じてそれぞれの窓口へ申請して利用許諾を得る一方で、契約によって決められたライセンス料を支払う仕組みになっている。

 このようなモデルでは作品の人気が高まるほど、関連商品の売り上げなどを期待できる。そこで、ガンダムにおいてはライセンス保有者である創通エージェンシーとサンライズが「ライセンサー」として各種の施策を展開するとともに、バンダイに代表される「ライセンシー」各社も、ガンダムの人気を高めるという共通の目的の下、これまで連携してさまざまな活動を展開してきた。

 創通エージェンシーライツ部プロデューサーの田村烈氏は、「ガンダムビジネスの特徴は、作品の魅力を言わば“育てて”きたこと。そのために、ガンダムという作品を飽きさせないためのさまざまな仕掛けを、バンダイやサンライズなどとともに編み出してきた」と振り返る。

 その1つといえるのが、シリーズ展開を通じた新規ファンの獲得だ。“ガンダム”と名のつく作品は、これまでオリジナルビデオ作品を含めると約20以上も製作されてきたが、実はそれらは単なる続編ではない。一連のガンダム作品の企画・製作を手掛けてきたサンライズで、ガンダム事業部ゼネラルマネージャーを務める佐々木新氏は「時代の空気を作品に取り込みつつ、ガンダムとして守るべきところは守り、変えられる部分には徹底的に手を加えることで、続編を作り上げてきた。人気を維持し続けるためには、このような取り組みによって継続的に新たなファンを開拓することが不可欠」と断言する。

 実際に、シリーズ展開の初期に製作された2作品「機動戦士Zガンダム」(1985年放映開始)や「機動戦士ガンダムZZ」(1986年放映開始)などはガンダムのストーリーが色濃く受け継がれているものの、佐々木氏が「作品に手を加えたことで、新たなファンの発掘に成功した好例」と語る「機動戦士ガンダムSEED」(2002年放映開始)は、従来の作品とは異なるものに仕上げられている。

作品では対応しきれないファンを関連商品でカバー

 一方で、作品の人気を維持するために、昔からのファンが離れてしまわないための配慮も不可欠。そのために編み出されたのが、作品を製作するにあたって、戦略的にターゲットとなるファンを変えるという手法だ。

「かつてはあらゆる層をターゲットに1つの作品を製作することもあったが、ファンの年齢層がここまで広がったことで、それも困難になっている。そこで今では、個々のファンに満足してもらえるよう作品ごとにターゲットを明確にしている」(佐々木氏)

 もっとも、「ひと口に“ガンダム”といっても、テレビシリーズだけで10作品以上。それぞれの作品ごとにファン層が微妙に異なる」(田村氏)ことを考えれば、すべてのファンに対して作品を作り続けることは、そのための労力を考えると現実的には極めて困難。こうした課題を解決する上でのガンダムという作品の強みが、「ファンの方が映像だけでなく、キャラクター商品にも連動して強い思い入れがある」(田村氏)ことだ。つまり、映像作品だけではカバーしきれないファンには、ライセンシーとの協力の下、関連グッズによって密な関心を維持しようというわけだ。

 たとえば、バンダイは古くからのガンダムファンをターゲットに2006年9月からガンダムの世界観を再解釈したガンプラの新シリーズ「U.C.HARD GRAPH」の販売を開始。その製品化にあたっては、サンライズが新たに設定作業を行ない情報を付加することで、ファンに新たな満足感を感じられるよう仕上げられている。

「ガンダムという作品の成果物はアニメだけにとどまらない。映像以外の小説やイベントにおいても1つの作品として捉えて企画するようにしている」(佐々木氏)

 各社の話を総合すると、ガンダムファンの年齢層は、下は7歳前後から上は40歳代の前半までと幅広く、また、年齢によるファン数の偏りもそれほどない。このようなファン分布から、「カミソリやクレジットカードなどの、成人をターゲットとした製品やサービスのPRにガンダムを使いたいとの要望が最近になり増え始めている」(佐々木氏)。このようなファン構成を可能にしているのも、映像作品はもちろん、多彩な関連製品よっても、常にあらゆるファンの好奇心を刺激し続けているからこそと言えるだろう。

「U.C.HARD GRAPH」シリーズ第一弾、「ジオン公国軍 機動偵察セット」
「U.C.HARD GRAPH」シリーズ第一弾、「ジオン公国軍 機動偵察セット」
ジオン公国軍機動偵察セットのパッケージ
ジオン公国軍 機動偵察セットのパッケージ

マスターグレードで新たなファン層の存在を確認

 さて、ガンダムビジネスに携わるライセンシーの中でもひときわ目を惹く存在がバンダイだ。同社はシリーズ2作品目からスポンサーとして作品製作を支援するとともに、ガンダムビジネスを機動的に展開するため、現在、社長直轄の組織「ガンダムプロジェクト」を組織。サンライズや創通エージェンシーとの協業によって得た情報を各事業部やグループ各社に伝達したり、ガンダムに関連したグループの横断的な事業戦略を立案したりといった役割を果たすことで、ガンダムビジネスを推進してきた。ちなみに、ガンダムプロジェクトの責任者であるCGO(Chief Gundum Officer)は、同社代表取締役社長の上野和典氏だ。

 このような体制の下、バンダイではガンダムビジネスの売り上げ向上に向け、さまざまな取り組みを展開している。たとえばサンライズとの現場レベルでの情報交換もその1つ。

「プラモデルやフィギュアなどの形状再現技術は日々進化している。そこで、新たな素材や可動の仕組みといった技術情報を制作現場に適時提供している。また、厳しい品質チェック体制を社内外に設けることでクオリティを維持し、製品化した場合にユーザーが期待するガンダムの世界観を壊さないよう細心の注意を払っている」(岡崎氏)

 そんな同社が、20歳代や30歳代の、いわゆる「ハイターゲットユーザー」向けの商品企画に力を入れ始めたのは、1990年代初頭から。当時、ガンダムの初放映から10年以上を経て、同様に年齢を重ねた当時の視聴者に向けて、劇場映画やオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)作品などで、高年齢層を意識した映像作品が登場。それを踏まえ、「ガンダム15周年企画」として1995年、従来のプラモデルよりもパーツ点数、可動部分などを大幅にグレードアップし、ガンダムをより精巧に再現した“マスターグレード”を市場に投入した。価格設定は内容に応じて、従来商品より高額に設定された。そして、「この商品が市場に受け入れられたことを機に、ハイターゲット層の存在を意識した商品企画が各事業部で積極的に行なわれるようになった」(岡崎氏)わけだ。

ハイターゲット層の存在を意識することになったきっかけというマスターグレードシリーズ
ハイターゲット層の存在を意識することになったきっかけというマスターグレードシリーズ

 一方で、新しくガンダムのファンになってもらうべき小中学生向けの商品は、手軽に購入できる程度に値段を抑え、かつ魅力的でなくてはならない。高年齢層へのターゲット拡大と、新規ユーザーの取り込み。大きく広がった個々のファン層に向けた商品戦略を緻密に組み立てることが、キャラクター人気の維持に繋がっている。

旧作も活用してファンと接する機会を増やす

 さらにバンダイは、ライセンシーの立場からメディア戦略も展開している。

「作品の魅力に気づいてもらい、関連商品を購入してもらうためには、旧作を含め、視聴者に繰り返し見てもらう機会を増やすことが大切。最初の『機動戦士ガンダム』も再放送から人気が高まっていった。だが、現在の地上波テレビ局では、往時ほどアニメ再放送枠を確保することが難しくなってきている。そのため、地上波だけではなく、インターネットやBS・CS局、DVDなど、作品を視聴してもらうメディアを確保していくことも我々の役目になる」(岡崎氏)

 こうした活動が、ガンダム作品とファンとの関係をさらに強固なものとしている。実際にバンダイは2006年度の下期に入り、バンダイチャンネルで「機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER(STARGAZER)」を期間限定のインターネット配信という形で実施したほか、テレビ地上波の深夜帯にて、「ガンダムSEED DESTINT」のスペシャル番組を毎四半期に編成。加えて、BSデジタル局に放送枠を新設し、過去のOVA作品である「ガンダム0080 ポケットの中の戦争」、「ガンダム0083」などのテレビ放送をスタートさせた。

 岡崎氏によると、これらの番組の組み合わせには、確固とした意図があるという。

「ガンダム作品は、その内容によって“SEEDシリーズ”や“宇宙世紀シリーズ”などに分類できる。それらのどれをどのタイミングで露出させるのかは、当社にとっても商品戦略上、重要な意味を持っている」(岡崎氏)

 先述の「STARGAZER」は、インターネット配信のタイミングに合わせてプラモデルを始めとした関連商材が発売され、期間限定の配信後にバンダイビジュアルよりDVDを発売。さらに新作ゲームソフトにSTARGAZERの新型ガンダムが登場する。これもバンダイのメディア戦略に沿ったものだ。また、新たなメディアとして商品でもあるゲーム映像にも注目している。

 「バンダイナムコゲームスが誕生したことで、ゲームの制作にさらに強みが加わった。たとえばこの夏稼働を始めた大型アミューズメントゲーム筐体「戦場の絆」では、ゲームオリジナルのモビルスーツが登場し、そのプラモデル化をバンダイで行なう。インパクトの強いゲーム映像はメディアとしての可能性が非常に大きい」(岡崎氏)

新市場を開拓する次の“一手”とは?

 作品と関連商品による“相乗効果”で、これほど大きな市場を創出したガンダムだが、その一方で課題もある。中でも各社が口を揃えて指摘するのが、「新市場の開拓」に関するものだ。

 サンライズによると、日本で非常に高い人気を誇るガンダムだが、北米ではファンの獲得に苦労しているという。その大きな理由が、国民性の違いだ。

「いわゆる“阿吽の呼吸”を海外、特に北米では理解してもらいにくく、ガンダムのストーリーの良さを伝え切れていない。そこで、メカデザインやキャラクターの魅力など異なる側面から、ファンの開拓を進めたい」(佐々木氏)

 また、創通エージェンシーの田村氏は、「海外展開を進めるにあたっては、偽造品への対策をバンダイやサンライズと共同で進める必要があるだろう。また、ガンダムはまだまだ2世代キャラクターになっているとは言い難い。さらに高い年齢までファンとして取り込み、親子でガンダムキャラクターについて熱く語ってもらうことが今後の目標」と述べる。

 さらにバンダイは女性層の発掘を今後の課題に挙げる。

「ガンダムの声優やアーティストが行なうイベントでは、来場者の大半は女性。しかし、その層に訴求できる製品を我々自身、揃えられていない。その層にリーチするための商品開発を積極的に進める必要がある」(岡崎氏)

 ともあれ、これらの課題を解決するために、各社は独自に、あるいは共同でさまざまな施策を今後も展開するはずだ。それがひいては、ガンダムの価値をさらに高める――この好循環は当分の間、途切れることがないだろう。

(C)創通エージェンシー・サンライズ

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