〔1988(63)−18〕 X V 国

 山口地方裁判所 1988(昭和63)年7月7日

(日本国籍保有確認、損害賠償、謝罪請求事件、昭61(行ウ)6)

(補遺として、国際法外交雑誌93巻1号97頁以下に収録)

 平和条約と朝鮮人の国籍――平和条約二条(a)項、日本国憲法一〇条・二二条二項・三一条、国家賠償法一条

 事実 原告Xは、一九四四年福岡県において、朝鮮人である両親から出生し、日本国籍を取得したが、戸籍上は朝鮮の戸籍に登載されていた。出生以来日本に居住していたXは、一九五二年四月以降、日本国と連合国との間の平和条約(以下「平和条約」という)二条(a)項の解釈にもとづく、法務府民事局長通達(昭和二七〔一九五二〕年四月一九日付民事甲第四三八号「平和条約の発効に伴う朝鮮人台湾人等に関する国籍及び戸籍の処理について」。以下「通達」という)により、外国人とて取り扱われてきた。Xは、〈この取り扱いは国籍をみだりに奪われない自由を保障する憲法二二条二項に反し、通達によって国籍を奪うことは憲法三一条にも反する〉と主張し、日本国籍を有することの確認を求めて提訴した。

 原告はまた、〈原告を含む在日朝鮮人は、日本政府が右の通達によって本人の意思を無視して一方的にその日本国籍を剥奪し、外国人とみなしたことにより、日本で生活していくうえで必要な諸権利を失い、種々の不利益を被ってきた。その結果、原告の人格権は侵害され、多大の精神的苦痛をも被った〉と主張して、国家賠償法一条一項にもとづき、被告・日本政府に対して一千万円の慰謝料の支払いを求めた。原告の主張によれば、種々の不利益には以下のようなものがあるとされた。すなわち、〈@出入国管理及び難民認定法の適用を受けるため、同法二四条の退去強制制度により権利としての居住権を拒否されており、また同法二六条によって再入国の自由が保障されていないために、海外旅行の自由を享受しえないこと。A原告が成人して以降に実施された各種の選挙における投票権を奪われたこと。B国民年金の加入を拒否されているため、老後の生活保障がなく、老後の生活の不安にさらされていること。C外国人登録法によって指紋押捺を強制されるという犯罪者同様の待遇を受け、登録証の常時携帯、登録証の記載事項変更の登録およびその更新申請を義務づけられるなど、生活上の不便と不利益を被っていること〉である。

 原告はさらに、次のように主張し、被告に対して謝罪を行うように求めた。〈@一九一〇年の日韓併合以来、日本国は朝鮮に対する苛酷な植民地支配を行い、敗戦までに約二一万人もの朝鮮人を軍人として、約一五万五千人を軍属として徴用し、各地の戦線に連行し、さらには二〇万人ともいわれる朝鮮人女性を欺き、従軍慰安婦にするというきわめて非人道的行為を行った。A敗戦後、朝鮮人の軍人・軍属の中にB・C級戦犯に問われた者がいるが、日本軍捕虜収容所で生じた連合軍兵士に対する虐待については、朝鮮人の軍人・軍属を戦場に駆り出した日本国が責任を負うべきであるにもかかわらず、日本国は朝鮮人戦犯に対する補償を拒否し、その責任を全うしようとしていない。Bさらに、広島・長崎への原爆投下により朝鮮人も被爆し、現在でも約二万人を超える朝鮮人被爆者が病苦にあえいでいるにもかかわらず、日本政府はこれらの者に対する十分な救済措置をとっていない。C日本政府は、朝鮮および朝鮮人に対して加えた不当な圧迫、侮辱および朝鮮に対する戦争責任ならびに現在の在日朝鮮人に対する不当差別につき、現在まで全く陳謝したことがなく、したがって、日本政府の代表が国会において、朝鮮と朝鮮人民に対する過去の非を陳謝し、非を二度とくりかえさないことを誓約する意思の表明を行うことを願うのは、一人原告のみならず朝鮮人の総意というべきである。〉

 以上のような原告の主張に対して、被告は、平和条約の発効にともない原告が従前の日本国籍を喪失したことを、次のように主張した。〈@朝鮮は、一九一〇年の日韓併合条約によりその全領土が日本国に帰属することとなり、その構成員たる朝鮮人に併合当時の住所地のいかんを問わず日本国籍が付与された。しかし、その戸籍関係については、一九二二年に定められた朝鮮戸籍令によって、日韓併合以前から適用されていた民籍法により民籍に登載されていた朝鮮人はすべて、日本内地とは区別された外地たる朝鮮の戸籍に登載されることになった。A平和条約二条(a)項は、「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島および欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」旨規定し、右条項は、日本は朝鮮の独立を承認して朝鮮に属すべき領土に対する主権を放棄すると同時に、朝鮮に属すべき者に対する主権をも放棄したものであり、朝鮮に属すべき者、換言すれば、朝鮮戸籍令の適用を受けて朝鮮戸籍に登載されていたか、あるいは登載されるべき事由の生じていたことにより、日本の国内法上、朝鮮人としての法的地位をもつに至った者について、日本国籍を喪失させることを意味する。B原告は出生当時、朝鮮戸籍令の適用を受け、朝鮮戸籍に登載されていたか、あるいは登載されるべき事由の生じていたことにより日本国内法上、朝鮮人としての法的地位を有していた者であって、右地位は平和条約の発効により失われた。〉

 これに対して原告は、次のように述べて反論した。〈@平和条約二条(a)項は、条約全体における右条項の位置、内容、同条(b)、(c)項との対比などに照らすと、日本国の朝鮮に対する領土主権の放棄のみを規定したものであって、在日朝鮮人の国籍処理については、日本と朝鮮との直接の取決めに委ねられることが明らかである。すなわち、領土変更にともない、変更された領域の出身者で旧領有国内に居住する者の国籍が当然に変更されるとする国際法上の原則はなく、領土主権の帰属の変更にともない、どの範囲の領土関係者が国籍を変更するか、あるいは国籍の変更が法上当然に生じるかなどの問題は、各個別に当事国間の条約によって決められるべき問題であって、朝鮮が当事国になっていない平和条約によって在日朝鮮人の国籍に変動が生じることばありえない。A何人も専断的に国籍を奪われない自由は、国際法上もっとも基本的な人権として認められ、世界人権宣言一五条にもその旨規定されている。近代以降、領土割譲を取決めた条約の多くは、右の権利を踏まえたうえ、国籍変更を受ける人々に国籍選択の機会を付与しており、それが先例となっている。日本国は平和条約前文で世界人権宣言の目的を実現するため努力すると誓っていること、ならびに、在日朝鮮人が日本に定住するに至った経緯を考え合わせると、平和条約二条(a)項について、在日朝鮮人に対し、その主体的選択を無視して一方的に日本国籍を喪失させるような解釈は認められない。〉

 判決 一 裁判所は原告の請求をいずれもしりぞけたが、原告の日本国籍保有確認請求を棄却する理由については、次のように述べた。

 「明治四三〔一九一〇〕年八月二二日に締結され、同月二九日公布された日韓併合条約により、従前韓国(国号を明治三〇年に大韓と改称したが、日韓併合に伴い朝鮮となり、日本内地とは区別された異法地域として、台湾、南洋諸島、関東州とともに外地を形成していた。以下『朝鮮』という。)の統治権に服していた朝鮮人(その範囲については、後にみるように民籍法による民籍に登載されていた者である。)は、右併合当時朝鮮国内に居住の場所を有するか否かを問わず一律に日本国籍を付与されることとなった。そして、明治四三年八月二九日に勅令三二四号『朝鮮ニ施行スヘキ法令ニ関スル件』が、さらに明治四四〔一九一一〕年三月二五日に法律三〇号『朝鮮ニ施行スヘキ法令ニ関スル法律』が公布され即日施行されたが、右法律には朝鮮における立法事項は朝鮮総督府の発する制令により規定しうる旨及び日本内地に施行されている法律の全部又は一部を朝鮮に施行する必要がある場合には勅令をもってこれを定める旨規定され、右法律に基づいて明治四五〔一九一二〕年三月一八日には制令七号『朝鮮民事令』が公布され、同年四月一日から施行されて内地に施行されていた多くの法律が朝鮮においても施行されることとなったが、旧国籍法(明治三二〔一八九九〕年法六六号)については朝鮮においては施行されず、また内地人と朝鮮人間の婚姻届出の手続を定めた『朝鮮人ト内地人トノ婚姻ノ民籍手続ニ関スル件』(大正一〇〔一九二一〕年府令九九号)も、朝鮮は内地とその風俗、習慣を異にするため、朝鮮民事令一一条において朝鮮人の親族、相続に関する事項については同条所定の事項及び別段の定めのある場合以外は朝鮮の慣習によるものとされ、朝鮮に本籍を有する朝鮮人については朝鮮民族本来の慣習の適用が認められていた。

 そして、戸籍関係についても、日韓併合前に朝鮮人について適用されていた民籍法を廃止し、同法にかえて『朝鮮戸籍令』(大正一一〔一九二二〕年府令一五四号)が定められ、従前民籍に登載されていた朝鮮人はすべて外地たる朝鮮の戸籍に登載されることとなったが、内地に本籍を有する日本人は旧戸籍法(大正三〔一九一四〕年法律二六号)の適用を受けて内地の戸籍に登載されることとその取扱いを異にし、内地、朝鮮、台湾に各別の戸籍制度を併立し、各戸籍は内地人、朝鮮人、台湾人の各身分籍としての性格を有し、右各戸籍に登載されていた者は、身分行為によりその身分に変動が生じない限り、他の地域に本籍を移転したり定めたりし得ないものとされ、国籍上は、朝鮮人も日本国籍を有する者ではあったが、戸籍上は、固有の意味の日本人とは明らかに区別され、その居住地が朝鮮であるか内地であるかを問わず、日本人に対し特別な地位に置かれた。

今次大戦における日本国と連合国間の戦争状態の終了とその戦後処理を目的として、昭和二六〔一九五一〕年九月八日に締結され昭和二七年四月二八日午後一〇時三〇分をもって発効した平和条約二条(a)項は『日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。』と規定しているが、右条項が平和条約第二章領域中の規定であって、同条約中、他に領土変更に伴う朝鮮人の国籍変更に関する明文の規定は存しないところ、領土変更に伴って割譲地住民の国籍に変動のあることは国際法上通例のことであり、しかもその場合にどの範囲の領土関係者が国籍変更の対象となるのか、そしてどのような手続を経て或いは手続を経ずして法上当然に国籍の変更を生じさせるのかという国籍処理の問題については、現在国際法上確立された普遍的な原則は存在しないから、国籍の得喪については各国の国内法によるほか国際条約によっても定めることができるものというべきであるが、在日朝鮮人に関し、その国籍の得喪を定めた国内法或いは当事国間の条約はなく、この点に関し、平和条約は、昭和二〇〔一九四五〕年八月日本国が受諾したポツダム宣言八項の『日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし。』との趣旨と同項により履行せらるべきものとされているカイロ宣言における連合国たる英・米・中国の『朝鮮の人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自由独立のものにする決意を有する。』旨の表明をうけて、ポツダム宣言の受諾により日本国の主権が事実上及ばなくなっていた朝鮮の領有権につき、日本国がこれを放棄して、その独立を承認したものであるから、平和条約二条(a)項の『朝鮮の独立を承認』するとは、朝鮮の領土及び住民の日本国からの分離独立を承認することを意味し、また、『朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。』とは朝鮮の領土及び住民に対する日本国の主権による支配の放棄を含み、対人主権に基づく支配権の放棄は、日本国が朝鮮人に付与していた日本国籍の喪失、いいかえれば朝鮮人民を日本国籍のもとにある桎梏から脱せしめることも含むと解され、前記条項は、領土条項であるとともに朝鮮人の日本国籍喪失に関する規定とみるべきである。

そして、平和条約の発効により日本国籍を喪失した朝鮮人の範囲は、右の経緯に国籍を有するか否かの問題は一義的に明確であることを要することを考えると、日韓併合後の日本国内法制上朝鮮人としての法的地位を取得した者、具体的には、その居住地の如何を問わず朝鮮戸籍令に基づく朝鮮の戸籍に登載されていた者をいうと解すべきである。

 原告は、右判示のとおり、平和条約二条(a)項の効力によって日本国籍を喪失するに至ったものであり、その国籍の喪失が民事局長の通達によるものではないから、右通達による国籍喪失手続が憲法三一条に反する旨の原告の主張は理由がなく、また原告は……平和条約二条(b)及び(c)項との解釈上の不整合をいうが、右(b)項に関しては平和条約発効後、当時の日本が台湾政府を中国の正統政府と認めて中華民国との間に平和条約(昭和二七〔一九五二〕年条約一〇号)を締結した結果、台湾人の旧日本国籍喪失の時期が朝鮮人のそれと別異に解されることとなったとしても、そのために平和条約二条(a)項に国籍喪失に関する規定は含まれていないとしなければならないものではなく、また同条(c)項に関しても、その前提となるポーツマス条約や千島樺太交換条約においてその地域の住民の国籍の変更を生じない扱いが当時なされたことを受けて規定されているので、住民の国籍の喪失が重要な問題となる余地はさほどないと解されるから、この点においても前記判示を左右しうるものではない。

 さらに原告は、(1)在日朝鮮人が、朝鮮が当事国となっていない平和条約の発効によって当然には日本国籍を喪失することはない。(2)また日本に定住するに至った経緯及びその定着度から、在日朝鮮人の主体的選択を無視して一方的に国籍を喪失させることはできない旨主張する。しかしながら、(1)については平和条約二一条において、『朝鮮はこの条約の第二条、第四条、第九条及び第一二条の利益を受ける権利を有する。』旨規定し、朝鮮は平和条約の当事国ではないものの、その利益を享受すべき立場にあるところ、平和条約発効後において、日本図と朝鮮半島に成立した国家との間で在日朝鮮人の国籍変更の問題について直接取り決めたことはなく、その間、日本国と大韓民国との間に締結された『日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条件(ママ)』(昭和四〇〔一九六五〕年条約二五号)及び『日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定』(昭和四〇年条約二八号)においても右の点について触れられていないものではあるが、平和条約の発効によって日本国籍を喪失した在日朝鮮人が多数存在する事実をふまえ、後者の条約では、在日韓国人が大韓民国国民であること及び永住許可を与えられても、日本法令の適用においては外国人とされることが明定されていることをみればむしろ少なくとも大韓民国は平和条約二条(a)項につき前記……の解釈を黙示的に承認しているとも考えられ、仮に、そうでないとしても、北朝鮮を含め、統一的に在日朝鮮人の国籍変更を取り決めることは極めて困難な情況にあると認められるから、在日朝鮮人の国籍変更を将来長きにわたって未確定の状態とすることは妥当でなく、朝鮮人全体を日本国籍のもとから解放し、自由独立なものにしようとする平和条約二条(a)項の趣旨に則り、同条項の合理的解釈により在日朝鮮人の国籍を決めるほかないというべきである。また(2)についても、たしかに先例として領土の帰属関係に変更を生じた場合に旧領有国内に居住する者について国籍選択権を付与した事例(一九一九年ベルサイユ条約によって新しく独立国となったポーランド、チェコスロヴァキア、ユーゴースラビアの領土地域の住民に認めた事例一九四七年英国がビルマの独立を承諾するにあたって認めた事例及びドイツのオーストリア合邦無効に伴う国籍処理に関し認められた事例等)が存し、世界人権宣言一五条二項は『何人も、ほしいままに、その国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。』旨規定し、日本国も平和条約前文において世界人権宣言の目的実現のため努力する旨誓っているものではあるが、世界人権宣言自体、同宣言の遵守を誓う各国に対し法的拘束力を科しているとは解されないし、又、国籍選択の権利が当事国間の条約の締結をまつまでもなく、国際法上本来的権利として認められているともいえないうえ、前記のとおり、平和条約二条(a)項の眼目は、朝鮮人民を解放し、朝鮮を自由独立のものにすることであったこと、日本国内に在住する者がいかなる国籍を有するかは一義的に明確であることが必要であることなどを併せ考えると、前記のとおり、国内法あるいは当事国間の条約において、在日朝鮮人に関し、国籍選択を認める法的措置が定められていない以上、在日朝鮮人も朝鮮に属すべき人として、平和条約二条(a)項により、一律に日本国籍を喪失したものと解せざるを得ないのであって、このような法的措置が定められていないことを理由に、在日朝鮮人がすべてなお日本国籍を保有し、或いは各人の意思に従って日本国籍又は朝鮮(韓国)国籍を選択し得るものと解する見解は採用しえない。」

二 次に裁判所は、原告の慰謝料請求のうち、「原告が日本国籍を有するにもかかわらず、多年にわたり日本政府から外国人として取扱われたことによって精神的苦痛を受けたことに基づく請求は、前記……判示のとおり、原告の日本国籍保有の事実が認められないから、その余の点について判断するまでもなく理由がな」いとし、「また、原告が朝鮮人同胞が今次大戦遂行のため強制連行されたり、軍人、軍属として戦場に駆出されるなどして受けた被害について補償を怠っている等日本政府の対応を見聞することによって精神的苦痛を被ったとして慰謝料を請求する点は、それが他人の受けた被害について原告が独自に慰謝料の支払を求めるものであるとするならば、このような請求は、……被害者の近親者等被害者と特別の身分関係、地位にある者であってはじめて認められるものであるところ、この点について原告の主張、立証がない」ため、認められないとした。そして、「本請求を同胞が受けた被害を見聞したことによって原告自身の民族意識を侵害されたことによる慰謝料と善解しても、右意識に対する被告の加害行為が存在しないことば明らかであるから、結局原告の慰謝料請求は理由がない」とした。

 最後に、原告の謝罪請求については、裁判所は次のような理由により却下した。「裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法三条にいう『法律上の争訟』すなわち、当事者の具体的権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られるところ、原告の右請求は、単に被告に対し、過去の日本国と朝鮮との歴史的事実、或いは日本政府の対朝鮮政策、さらには在日朝鮮人が受けている差別という一般的な問題について、その評価と認識を求め、それに基づく意思表示を求めるものであって、原、被告間に存する具体的権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争を問題とするものではなく、かつ、法令の適用によって終局的な解決の不可能なものであって裁判所法三条にいう法律上の争訟にあたらないものといわざるを得ない。したがって、本請求にかかる訴えは、その訴えの利益を欠く不適法なものといわざるを得ず、却下を免れない。」

(判タ七六一号一六九頁)

(田中則夫)