2009年08月13日

「ディズニー爆破予告容疑で逮捕」記事を疑う

東京ディズニーリゾート(TDR)の案内センターに爆破を予告する脅迫電話をかけ、運営するオリエンタルランド(千葉県浦安市)の業務を妨害したとして、千葉県警浦安署は12日、威力業務妨害の疑いで、岐阜県大垣市の35歳の男を逮捕した。

 

多くの新聞がこの事件を報じています。詳しい動機は調査中とのことですが、今後動機が解明されてもニュースとしての価値が低いため報道されることはないでしょう。


 

報道によると、概要は以下のようです。

 

◇ 応対が悪かったのでサービス向上のためにやった。

◇ 電話で「閉園しないと爆発するぞ」と脅迫した。

◇ 20分間にわたり脅迫した。

 

「爆発するぞ」と言っています。「爆破する」とは言っていませんが、被害者側のディズニーランドの受け取り方は一緒ですから、間違いなく「脅迫」であり「威力業務妨害」行為です。ディズニーランド側が警察に通報したのは当然のことと評価します。


 

私は、セキュリティ及びゲストリレーションのスーパーバイザー時代に、何回もこのような爆破予告電話の対応をしてきました。セキュリティ時代は、実際に所轄の警察の刑事から爆発物への対処方法の指導も受けています。

 

ですから、爆破予告電話を受けたディズニーランド側の対応は手に取るように分かります。その私から見ると、この事件報道は果たして正しいのかと疑いたくなります。

 

河北新報や静岡新聞などネットで検索できたいくつかの報道記事には「通報を受けた浦安署員が園内を調べた」と記されています。これは事実とは違う誤報である可能性が高いと思います。

 

私が在籍中は、別な方法でパーク内の安全を確認しました。その理由は簡単です。広大なパークの隅々まで安全を確認することはとても警察官にはできません。さらに大きな問題は、警察官が調べるということは警察官が安全を保証することに結びついてしまいます。

 

つまり、「安全」「危険」の判断の決定権を警察にゆだねることを意味するのです。警察が「危険」と判断したらどうなるでしょうか。警察が陣頭指揮を執ってゲストの避難誘導を行うのでしょうか。

 

そもそもです。新聞社にも爆発物を仕掛けたという電話はかかるでしょう。その時に警察に社内を調べてもらいますか。

 ディズニーランドに限らず、球場でもデパートでも「通報を受けたら警察官が施設内を調べる」ことが、警察の責務や社会的通念になっているでしょうか。 

これは推測ですが、パークの安全管理について何にも知らない新聞記者は、警察官にこのように聞いたのでしょう。

 

「通報を受けた警察は何もしなかったのですか」と・・・

 

警察官は「ディズニーランドに駆けつけた」と答えたと思います。それを記者が「園内を調べた」と作り変えて報道したというのが本当のところだと私は考えています。

 

「ニュースの職人」と言われる鳥越俊太郎氏はこのように語っています。

 

新聞もテレビもニュースを伝えるための商品だとすると、「僕たちが扱っているのは欠陥商品だ」という自覚を持つことが大切だと思います。

 

大前研一氏は著書「『知の衰退』からいかに脱出するか」の254ページに、実に恐ろしいことを書いています。

 

ある「元総理大臣」が、「国民が怒りを覚えて立ち上がる」と心配する大前氏にこのように語ったそうです。

 

「大前さん、我が国は愚民政策を施しているから大丈夫だよ。」

 

そんなことも知らない国民は、新聞の報道を何一つ疑わないでパクッと飲み込んでしまいます。

私は著書「すべてのゲストがVIP」のあとがきにこのように書きました。

 

「楽しい」の「楽」、「楽をする」の「楽」、どちらも人間にとって必要な「楽」です。楽をすることが楽しいかという意地悪な質問はさておき、私たち日本人は、この何十年、この「楽」を得たいがために、何か大切なものを失ってきてしまったのではないでしょうか。景観、安全、信頼、正義、それとも創り出す力、伝える力、疑ってみる力、人を育てる力でしょうか。あるいは、個人や国のアイデンティティでしょうか。

 

自分の頭で考えないで、権力者に従属することは「楽」なことです。「楽」をしないでまず疑ってみることこそが、閉塞感溢れる今の社会を変える、最初の一歩であると私は信じて疑いません。


※大前研一氏はもはや新聞を読んでいないそうです。私のブログをお読みくださっている方に、大前氏のこの著書をお勧めいたします。私の 基本的な社会の見方は、大前氏の見方に近いことが理解いただきたいと思います。


「知の衰退」からいかに脱出するか?書評をご覧ください。