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きょうの社説 2009年8月13日
◎ふるさとと出身者 支え合う場や機会を広げよう
ふだんは商店街の人影もまばらな過疎の町も、急に人口が増え、活気が戻るのが旧盆で
ある。今年は鉄道や空の便に加え、高速道路の料金割引を使って車で帰省した人も多いだろう。つかの間のにぎわいとはいえ、大勢の出身者を含めた、より大きな「ふるさとのかたち」を前にすれば、出身者と地域とのきずなをさらに太くする場や機会を増やしていくことの大切さが分かる。2014年度末までの北陸新幹線開業へ向け、首都圏では「TOKYO金澤CLUB」 や「東京加賀江沼のもん会」など出身者の交流組織が相次いで発足した。昨年秋には「いしかわ県人祭in東京」が初めて都内で開催され、千人を超す出身者らが郷土の支援を誓い合った。拡大する「ふるさと応援団」は地域発展の支えであり、かえがえのない財産といえる。 帰省客にとって旧盆は墓参や同窓会、家族との再会などを通して血縁、地縁を確かめる とともに、地域の変わらぬ良さや新たな変化に触れる機会である。ふるさとの魅力はそこに住んでいる人より、離れて暮らす人の方がよく見える場合もある。思い出話だけでなく、地域の今や将来像についても存分に語り合ってほしい。旧盆で深まったふるさとへの誇りや愛着は、県人ネットワークを全国に広げる力にもなろう。 県内の自治体では出身者との関係を強める取り組みが広がっている。特産品を届ける「 ふるさと便」やファンクラブの結成、「ふるさと納税」の呼びかけも活発化してきた。各自治体で交流人口の拡大が叫ばれるなか、出身者こそ交流の主役になりうる存在である。 出身者のふるさとへ寄せる思いはいつの時代も変わらない。地元に何らかの貢献をした い、あるいは第二の人生をふるさとでと思っている人がいるかもしれない。自治体は役立つ情報を積極的に提供し、発信に一層の工夫を凝らしてほしい。旧盆はその好機でもある。 北陸新幹線開業が近づくにつれ、出身者のふるさと意識はますます高まっていくだろう 。そうした思いを受け止める場をさらに増やし、他の県以上に出身者との一体感を醸成していきたい。
◎北方領土の支援拒否 強硬な大国意識が際立つ
ロシア政府が、北方領土の住民に対する日本の人道支援を今後受け入れないと通告して
きた。改正された日本の法律に「北方領土は日本固有の領土」と明記されたことにロシア側の反発は強い。今回の人道支援拒否の通告は、そうしたロシア国内の世論を踏まえたものとみられるが、親善交流に力を入れてきた日本側にすれば、ロシアの強硬な大国意識だけが強く感じられ、まず表明されてしかるべき人道支援への感謝の念が伝わってこないのは残念である。このようなロシア側の態度は、日本国内の対ロ感情を悪化させるばかりであろう。通告に日本側が情緒的に反発し、対立感情をエスカレートさせるようなことは避けたい が、2月の日ロ首脳会談で一致した北方領土交渉の「独創的なアプローチ」提案を待つだけの外交姿勢は考え直す必要があるかもしれない。 型にはまらない独創的アプローチで領土問題の解決をめざす考えはロシア側から示され 、7月の主要国首脳会議での個別会談で、メドべージェフ大統領から回答が示されるはずだった。しかし、会談では日ソ共同宣言などを柱にした従来の考え方の説明にとどまり、新たな提案は何もなかった。大統領は独創的アプローチの再検討を約束しているが、期待し過ぎてはなるまい。 国後島など4島住民に対する医薬品や食料支援は、ソ連崩壊で経済的に困窮した住民の ために1992年から行われている。ところが今年に入り、国後島に上陸しようした日本外務省職員にロシア側が出入国カードの提出を要求したことで、両国政府が対立し、これを契機にまずサハリン州が「今やロシアは大国の一員になり、領土的要求を行う隣国から人道支援を受ける必要はなくなった」と支援拒否の姿勢に転じていた。 一方、日本側が改正北方領土問題解決促進特別措置法に「固有の領土」と明記したのは 当たり前のことであり、それ自体は法改正の目的ではないが、ロシア側には意図的に政治問題化しようという印象もあり、あらためて領土交渉の多難さを思わされる。
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