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企画特集3

【法曹Today】

京都地検総務部長 原島 肇さん

2009年07月31日

    更正見極め 市民の目で

 無期懲役について、一生刑務所から出られないものだと思われている方がいるかもしれませんが、そうではありません。法律上、10年(少年犯罪は7年)服役すれば、仮出所が可能になります。受刑者に「まじめにすれば社会に出られるんだ。がんばろう」という意欲を持たせ、更生を図るためです。

 しかし、残念なことに、仮出所した人が必ず更生するとは限りません。中には同様の犯罪を繰り返す者がいます。

 私が初めて死刑を求刑したのはそんな男の事件でした。

  ■  □  ■

 男が最初の事件を起こしたのは20歳のときでした。ギャンブルのために借金をして金に困り、家族ぐるみで親しくしていた隣家の主婦を殺して現金などを奪いました。

 男は、無期懲役の判決を受けて15年近く服役し、仮出所しました。家族に温かく迎えられ、親族が経営する工場で働き、結婚をして子供もできました。

 ところが、男はパチンコに熱中して借金をし、仕事もやめてしまいます。金に困った。そこで目を付けたのが、87歳の独り暮らしの女性でした。「どでかいことを一発やろうや。殺して死体を捨ててしまえば、ばれることはない」と刑務所仲間を誘い、女性宅を訪ねて「旅行に連れていく」とだまして車に乗せて連れ出し、山の中で頭を石で殴り、ひもで首を絞めて殺し、現金や通帳を奪いました。それが仮出所してわずか4年後のことでした。

 極悪非道な犯罪でした。同情の余地はありません。強盗殺人をして仮出所中にまた強盗殺人をするとは言語道断です。死刑しか選択の余地はありません。私は、死刑が当然だと思って求刑し、判決宣告にも立ち会いました。

 ところが、驚いたことに、裁判官は、「反省している」などとして無期懲役を言い渡しました。到底納得できませんでした。男は、当時まだ42歳。無期懲役ではまた仮出所する可能性があります。この男なら同じことを繰り返しかねません。そのとき危険にさらされるのは一般市民です。市民の意見も聞かずに裁判官がこのような重大な判断を下してよいのだろうか。そう思いました。

  ■  □  ■

 それが今から15年前のことでした。当時は想像もしていませんでしたが、その後、裁判員制度が導入され、5月21日から実施されることになりました。裁判員は、有罪・無罪だけでなく量刑の判断にも関与します。市民の声を反映できるのです。当時から見れば画期的な制度だと思います。

 ちなみに、この事件は、最終的に最高裁で死刑が確定しました。

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