再生に懸ける銚子病院(上) 波乱の1年
千葉県の銚子市立総合病院の診療休止から間もなく1年―。この間、「病院存続」を公約に掲げていた岡野俊昭市長はリコール(解職請求)で失職。5月の出直し選挙では元市長の野平匡邦市長が返り咲き、前市長のもとで進められていた再生構想は、リコール後に誕生した新市長に引き継がれるという波乱の展開となった。市は7月23日、専門家から成る「銚子市立病院再生準備機構」(以下、機構)と委任契約を締結。来年度の暫定再開に向け、病院再生事業は新たな局面を迎えた。現在、7割以上が赤字といわれる自治体病院。「公設民営」での病院再開は、赤字体質脱却の糸口となるのか。現状を探るため、銚子市に向かった。
銚子電鉄の観音駅から徒歩5分。野球場へ向かう坂を上ると、少し汚れた白地の建物が見えてくる。昨年9月末で診療を休止した銚子病院だ。玄関入口には、「当院は10月1日から休止しています」との張り紙もある。
病院近くにある介護用品店の職員は、「みんなよそへ行ってしまった」と寂しげに話す。施設内は現在、小児科の急病患者を対象とした夜間診療所として利用されているが、昼間でも周囲の人影は少ない。休止前は5件あった調剤薬局も、今年6月の精神科診療所の移転に伴い、市内クリニック周辺などへの移転を余儀なくされたという。
■医師不足で診療体制の維持が困難に
銚子病院は1950年に診療所として開業。51年に病院となり、84年に現在の総合病院となった。ベッド数は393床、診療科は内科、外科、小児科、精神神経科など16科と、県東部の中核病院として十分な機能を備えていた。
昨年7月に岡野市長(当時)が説明した休止理由は、▽関連大学などからの医師派遣が極めて困難であること▽医師の減少で入院受け入れや救急対応が困難となり、大幅な減収になること▽市の財政状況では支援が困難であること―など。この中で際立っていたのが、やはり医師不足だった。
もともと、銚子病院は日大医学部の関連病院で、常勤医師の半数以上が同大からの派遣だった。しかし、2004年度に導入された新医師臨床研修制度の影響もあり、06年度に35人いた医師は、07年度には22人となり、近隣の国保旭中央病院から2人の常勤内科医の派遣を受けていた。休止した08年度には13人までに減少し、診療体制の維持は困難となった。
その一方で、医業収入に占める給与費の割合は、06年度78.7%(自治体病院の全国平均は55.5%)と極端に高く、これも病院経営を圧迫した。市幹部は、「医療職の給与体系になっていなかった。医師よりも、むしろ看護師以下の医療スタッフの人件費が高くなった」と明かす。市職員と同様の給与体系をとっていたため、勤続年数の長期化で経費がかさんだという。05年7月から医療職の給与体系に改め、段階的な引き下げを行ったものの、早期解決には至らなかった。
98年度以降、入院患者数は減少の一途をたどり、06年度には初めて10万人を割り込んだ。また、98−05年度までは9億円前後で推移していた市からの支援金も、06年度で16億円(水道事業会計からの貸付金を含む)、07年度も15億円となり、市財政からの支援はもはや限界に達した。
■リコール成立で前市長の再開構想が頓挫
休止後、岡野市長は医療関係者らでつくる「銚子市病院事業あり方検討委員会」を設置。同委員会は11月末に報告書をまとめ、▽急性期病院として二次救急を行い、旭中央病院を後方支援▽最低限必要な基本診療科は内科、外科、整形外科、小児科の4科▽病床数は100−150床▽指定管理者制度を導入(公設民営)―などの再開方針が決定した。指定管理者制度を導入するため、市は12月に条例を制定。新たに設置された「市立病院指定管理者選定委員会」(以下、選定委)が、新病院を運営する事業者の公募をスタートさせた。
だが、3月に事態は一転する。市長のリコールの是非を問う住民投票が行われた結果、岡野市長が失職。それに伴う5月の出直し選挙では、岡野市長と同じ「公設民営」を掲げた野平匡邦・現市長が当選し、前市長のもとで進められていた病院再生事業は曲折することとなる。そして6月末、選定委は公募で管理者に名乗りを上げた千葉市の医療法人「郁栄会」を「不適切」と結論付けた。伊藤恒敏委員長(東北大大学院教授)が辞任するなど事態は紛糾し、再生構想は事実上、白紙に戻った。
■新市長のもとで市が機構と委任契約
野平市長は7月1日、医師や弁護士らでつくる事業機構を立ち上げるという新構想を明らかにした。機構の活動内容は、▽東京を拠点に、医科大学などと交渉して医療資源(医師、看護師、医療法人など)を確保する▽市立病院の経営組織(法人)の「組み上げ」なども責任を持って実現する―の主に2点。
病院再生までの道のりはこうだ。まず、市は機構と委任契約を結び、着手金を支払う。報酬は病院再生が実現した場合のみ支払われ、確保した医師が一定期間勤めなければ、機構に罰金を科すことも可能だ。既存の医療法人が確保できた場合は、選定委が法人を選ぶが、確保できなかった場合は機構が新たな法人を組み上げる。法人は議会の議決を得て指定管理者となり、病院が開設されるという仕組みだ。
市議会は先月16日の臨時議会で、機構への着手金など3150万円の今年度一般会計補正予算案を可決。市は23日に機構と委任契約を結び、来年4月の暫定再開を目指している。
医療法では、休止した病院が正当な理由なく1年以上業務を再開しない場合、都道府県知事は、開設許可の取り消し、または開設者に対して一定期間の閉鎖を命じることができるなどと定めている。病院は9月末で休業から1年を迎えるが、市が既に再開に向けて動き出していることから、県では市側が再開までの工程表を示すことで、これらの措置を見送る考えだ。ただ、この1年で銚子から周辺病院への搬送が増加し、近隣の旭中央病院では、ベッド数の不足や外科手術の増加などの対応に苦慮している。病院再生までのタイムリミットは、もはや待ったなしの状態だ。(続く)
更新:2009/08/12 14:45 キャリアブレイン
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