朝日新聞

震度6弱―「東海」の備えは大丈夫か (2009年8月12日)

早朝の強い揺れに跳び起きた人も多かったに違いない。

昨日の地震は、静岡県で震度6弱を記録したのをはじめ、揺れは関東から中国地方までの広範囲に及んだ。

マグニチュード(M)6.5という地震の規模以上に人々を緊張させたのは、東海地震の震源域として想定されている駿河湾で起きたためだ。

M8が予想される巨大地震、東海地震の前兆かどうかを判断するため、1979年にできた気象庁の地震防災対策強化地域判定会の臨時の打ち合わせが初めて開かれた。専門家たちは、この地震がただちに東海地震に結びつくものではないとの結論を出した。

とはいえ安心はできない。地震の性質を詳しく分析し、東海地震との関係について慎重に見極める必要がある。

東海地震の切迫度を示す3段階のうち、最も低い「東海地震観測情報」が初めて出された。政府の地震調査研究推進本部によれば、東海地震が今後30年に起こる確率は87%と高い。

今回の地震を警鐘としてとらえ、備えを点検しなければならない。

東海地震は、日本列島が乗ったプレートと、その下に潜り込んでいる海側のプレートとの境界で起きるとされる。海溝型巨大地震の代表格だ。

いつ起きても不思議はないとの説が提唱されたのが1976年、それを機に、プレートの動きなどの前兆現象をとらえて予知をめざそうと、大規模な観測態勢が敷かれた。

それから30年以上、東海地震は起きていない。一方で、阪神大震災などの直下型地震の不意打ちが続いた。わかったのは、予知がきわめて難しいことと、事前の備えの重要性だ。

中央防災会議は05年、死者9200人と予測される東海地震の被害を、建物の耐震補強や津波対策などによって10年で半減させる目標をつくった。昨年までの達成度はまだ2〜3割程度。着実に進めねばならない。

防災先進県を襲った地震だったが、東名高速の路肩が崩れ、帰省ラッシュに大きな影響を与えた。東海地震の震源域には日本の大動脈が何本も走り、原子力発電所もある。大きな被害が出れば、打撃は計り知れない。

東海地震がこれまで起きていないことは、東南海・南海という、東海沖から四国沖を震源域とする巨大地震が、東海と連続して起きる可能性に現実味を加えている。この最悪のシナリオへの備えも十分に点検する必要がある。

西日本に大被害をもたらした台風9号が東海沖を進むさなかに地震が起きた。温暖化で豪雨も増えるなか、地震が風水害と重なって被害を広げる恐れも決して無視できない。

私たちが「災害列島」に生きていることを改めて自覚し、命と生活を守るための知恵を集めよう。

ミャンマー―軍政がアジアを脅かす (2009年8月12日)

ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏に対して、軍事政権はさらに1年半の自宅軟禁を命じた。

当局の監視をかいくぐり、湖を泳いで渡ってきた米国人を自宅に泊めたことが、外部との接触を禁じた国家防御法違反に問われた。法廷は労働を伴う3年の実刑判決を出したが、軍事政権が直後に自宅軟禁に変更した。

国際社会の批判を意識して「減刑」したとアピールしたいのだろうが、そもそも根拠の乏しい訴追なのだから、不当さに変わりがあろうはずがない。

スー・チー氏の自宅軟禁や拘束は計14年間に及んでいる。軍事政権は「民政移管」のために、来年前半に総選挙を行うとしているが、結局、国民に支持されるスー・チー氏を選挙活動に加われないようにするのが今回の自宅軟禁の狙いだろう。

こんな形で総選挙を強行しても、その正当性が認められることはありえない。日本をはじめ国際社会の多くの国々は、スー・チー氏を含む全政治犯の釈放を求めている。軍事政権はこの要請にすぐに応じるべきなのだ。

88年のクーデター、そしてスー・チー氏率いる国民民主連盟が大勝した90年の総選挙結果を握りつぶして以来、軍事政権の強権統治はひどくなるばかりだ。2年前、生活難に抗議する僧侶や市民らのデモを武力鎮圧し、日本人ジャーナリストの長井健司さんが射殺された。

軍事政権の独善的な行動は、アジア全体に深刻な影を落としつつある。とくに心配なのは、北朝鮮との軍事協力が進んでいる疑いが出てきたことだ。

6月、国連制裁で禁止されている武器などを積んでいる恐れがあるとして、米軍が追跡した北朝鮮船舶は、ミャンマーに向かっていたとされる。首都ネピドー付近で核関連施設と疑われる地下トンネル網が北朝鮮の協力で建設されている、という報道もある。

クリントン米国務長官は先月、訪問先のタイで北朝鮮からミャンマーへの核技術移転の可能性に懸念を示した。

もしミャンマーが核開発に手を染めているとすれば、アジアの安全保障の構図はがらりと変わる。

日本政府は、軍事政権をあまり追い詰めると、もともとミャンマーと関係の深い中国の影響力がますます強まってしまうとして、激しい政権批判を控え、対話を維持してきた。しかし、ミャンマーに核関連疑惑があるとなれば、悠長なことは言っていられない。中国に対して影響力を行使するよう働きかける必要があるし、中国自体も事態を深刻に受け止めるべきだ。

北朝鮮に対する国連制裁を実効あるものとするためにも、政府はミャンマー問題で国際的な連携を強めなければならない。

読売新聞

スー・チーさん 民主化に逆行する有罪判決 (2009年8月12日)

有罪判決ありきの裁判だったのではないか。

ミャンマー軍事政権の特別法廷が、民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チーさんに、国家防護法違反の罪で、禁固3年を言い渡した。

直後に、軍政側は、自宅軟禁1年6月への減刑を発表した。異例の措置は、国際世論の批判を意識してのことだ。

軍政側は、スー・チーさんの影響力を恐れ、軟禁を続ける法的根拠がほしかったのだろう。

軍政は、独自の民主化政策の一環として、来年総選挙を実施するという。だが、減刑したにせよ、最大野党を率いるスー・チーさんの自宅軟禁がそのままでは、民主化の実現とは言えまい。

スー・チーさんは、5月上旬に自宅脇に広がる湖を泳いでわたって来た米国人男性を2日間、自宅に滞在させて食事を与えた、として有罪になった。

国家防護法は、軟禁中の者が外国人と接触することを禁止しており、これに違反したという。

米国人男性はスー・チーさんの支持者で、彼女を激励することが目的だったとされる。

特別法廷は、この男性にも禁固7年を言い渡した。

スー・チーさんの軟禁は、今年11月で期限が切れる予定だった。一時的に解放された期間を除けば、過去20年間で通算14年近く自宅に軟禁され、自由を奪われ続けている。

亡くなった夫が外国人だったことを理由に、昨年採択された新憲法の規定により被選挙権を剥奪(はくだつ)されているため、来年の総選挙には出馬できない。

スー・チーさんに象徴される軍政の人権抑圧政策に欧米諸国は長年、制裁措置を取ってきた。それが軍政を中国や北朝鮮寄りへと追いやる結果を招いた。

ミャンマーと中国・昆明を結ぶ天然ガス・石油のパイプライン建設は9月にも開始される。ベンガル湾に面したシットウェ沖のガス田で採れる全量が中国へ輸送されることでも合意済みだ。

加えて軍政は、北朝鮮から支援を受け、原子炉とプルトニウム抽出用の再処理施設を秘密裏に建設中と伝えられている。これが事実とすれば、極めて懸念される事態である。

日本はこれまで、ミャンマーの軍事政権に対し、人道目的などに限定した援助を続けてきた。今後も軍政に対し、人権抑圧の改善などを粘り強く求めていく必要があるだろう。

災害列島 避難準備と救援体制は万全に (2009年8月12日)

日本は災害列島、と改めて思い知らされた。

まず、台風9号に伴う豪雨が西日本の各地を襲った。この台風が東へ向かうと、今度は、進路に当たる東海地方で、最大震度6弱の静岡沖地震が起きた。

当初懸念された巨大地震「東海地震」との関連はない、と判明したが、どちらも被害は深刻だ。政府と関係自治体は、救援と復旧に全力を挙げてもらいたい。

豪雨では、各地で河川が増水し土砂崩れが起きた。死者、不明者は兵庫県などで27人に達する。土砂で埋まった住宅も多い。

静岡沖地震では、静岡県で震度6弱の激しい揺れが記録され、隣接の神奈川県を含め、多くの人が重軽傷を負った。

地震前から台風9号による降雨があり、緩んだ地盤が各所で崩れる「複合災害」も起きた。特に静岡県内の東名高速道路での路面崩落は、物流への影響が大きい。

東西を結んでいる「交通の大動脈」が、約100メートルにわたって壊れた。早急に修理して、通行を再開させねばならない。

台風シーズンはこれからが本番だ。大きな地震も、いつ、どこで起きるか分からない。救援と復旧作業の一方で、災害への備えは大丈夫か、点検も大切だ。

とりわけ気がかりなのが、河川の増水や土砂崩れに備えた避難体制の現状だ。兵庫県では、増水に備えて避難中に、水位が上がった川に流された人がいる。しかも夜間の避難だったという。

西日本では先月も、豪雨による大規模な土砂崩れが起き、山口県などで30人が亡くなっている。この時も、避難体制について課題が指摘された。

政府は2005年に「避難に関するガイドライン」をまとめ、全国の市町村に体制整備を呼びかけている。その前年に豪雨災害が多発し、200人以上の犠牲者が出たことを踏まえている。

まず、増水や土砂崩れの危険がある場所を洗い出す。これに基づき、被害が及びそうな地域を地図化する。その上で、河川の水位や降雨量をもとに、住民に避難を呼びかける「基準」をあらかじめ定めておく、という内容だ。

だが、消防庁が今春公表した調査結果によると、この「基準」を定めている市町村は、全国で4割程度しかない。避難方法を住民に伝える文章を用意している市町村も、同程度にとどまる。

気象庁によると、豪雨の発生回数は近年、増加している。備えあれば憂いなし、を徹底したい。

毎日新聞

社説:西日本豪雨被害 「町で何が?」徹底検証を (2009年8月12日)

台風9号による大雨は兵庫、岡山、徳島3県で多くの犠牲をもたらした。20人以上の死者・行方不明者をだした兵庫県佐用町の家々は土砂に埋もれ、先月、やはり豪雨被害に襲われた山口県の特別養護老人ホームの惨状と二重写しになる。人口約2万人の中山間地域の町に、なぜこれほどの被害が集中したのか。疑問がぬぐいきれない。

今回の水害は猛烈な豪雨で、河川の水位が一気に上昇したことが特徴だ。町内を流れる千種川や支流の佐用川は9日午後7時ごろから急激に雨量が増え、午後8時からの時間雨量は約80ミリに達した。降り始めからの累計でも300ミリを突破し、例年の梅雨時の1月分以上に相当する雨が降り注いだという。

このため午後9時ごろ、水位は危険水位をはるかに超え堤防が崩れ、濁流が流域の家々に押し寄せた。水位上昇の速度は警報システムの想定以上で、町が避難勧告を出した午後9時20分には既に道路は冠水し、避難途中で流されたとみられる犠牲者もあった。もっと早く、危険を察知して避難させる手だてはなかったか。悔やまれてならない。

台風の接近などで危険が予想される場合、早め早めの避難が鉄則である。一方で、夜間に冠水した道路を逃げることには大きな危険が伴う。「無理して避難するより自宅の2階に逃げる方がいい場合がある」と指摘する専門家もいる。避難勧告のタイミングや避難指示のあり方に問題はなかったか。徹底して検証し、教訓をくみ取るべきだ。

昨年夏、愛知県岡崎市でも深夜に1時間140ミリを超す豪雨があり、2人が亡くなった。この時も深夜の情報伝達の遅れが指摘され、同市は避難情報を携帯メールで通知するなどのシステムを導入した。こうした新しいツールの利用も注目したい。

温暖化の影響でゲリラ豪雨が増える可能性が指摘されている。住民の生命を守るには情報伝達や避難誘導に従来以上の迅速さが求められる。先手先手の豪雨予測が不可欠だ。

国土交通省は局地的な大雨や集中豪雨を監視できる気象レーダーの整備を進め、気象庁も積乱雲の発生をとらえるレーダーを増強している。こうしたハード整備に加え、ハザードマップ(災害予測地図)を利用した住民参加の防災訓練を進めることも必要だろう。

今年は伊勢湾台風から50年を迎える。5000人以上の犠牲者をだした反省から治水対策が進み、その後死者1000人を超す台風被害は起きていない。しかし、数十人規模の被害が姿を消さないのはどうしたことか。人的被害をなくすため、あらゆる技術と知恵を動員すべきだ。

社説:静岡の地震 自然恐れ日々の備えを (2009年8月12日)

もしかすると東海地震に関係があるのではないか。駿河湾を震源とする早朝の強い地震に、不安を感じた人は多かっただろう。実際、今回の震源は想定される東海地震の震源域付近だった。地震のメカニズムは異なるが、これが東海地震の引き金となる懸念があった。気象庁は臨時の会議を開いて検討し、初の「東海地震観測情報」を公表した。

最終的には「東海地震につながる変化はない」と判断されたが、日本の周辺では、複数のプレートが境界を接している。いたるところにひずみがたまっており、いつ、どこで、大地震が起きてもおかしくない。

メカニズムも、想定される東海地震のように、プレート境界にたまったひずみが一気に解放されるものばかりではない。阪神大震災のように内陸の活断層がずれて起きるものも、今回のようにプレート内部で起きるものもある。こうした地震を正確に直前予知することは、今の科学技術では不可能だ。

東海地震は特別扱いされてきたが、いつ、どれぐらいの規模で起きるかわからない点では、他の地震と同じだ。非常に運がよければ、プレート境界のすべり現象が前兆としてとらえられるかもしれない、という程度に過ぎない。だからこそ、大事なのは、被害を最小限に抑えるための日ごろからの備えだ。

今回の地震では、東名高速道路の路肩ののり面が40メートルにわたり崩落し、路面が約20メートルにわたって隆起したところもある。高速道路はETC(自動料金収受システム)搭載車の料金割引が平日にも拡大され、選挙戦では無料化が争点の一つになるなど利便性や経済効果が注目されるが、足元の安全は大丈夫だろうか。

早朝だったこともあり学校での被害はなかったが、文部科学省によると、全国の公立小中学校の約7300棟が震度6強で倒壊する危険性が高いのに耐震補強されていないという。国は09年度補正予算に1830億円を計上し自治体に耐震化を促しているが、早急に実施すべきだ。

浜岡原子力発電所は運転中だった4、5号機が自動停止した。放射能漏れや火災はないという。同原発では6号機を新設する計画があるが、東海地震には不確定要素があり、今回のように集中豪雨との複合災害に見舞われることもあり得る。これを機に安全性について再検討をする必要があるのではないか。

多数のけが人を出したものの、静岡県の都市部・住宅地を震度6弱の地震が襲ったわりに被害が少なかったのは、揺れの特徴に加え、東海地震への備えを進めてきた防災先進県だったからとの指摘もある。備えだけは怠らないようにしたい。

日本経済新聞

社説2 許せぬスー・チー不当判決(8/12)

ミャンマー軍事政権は民主化勢力の指導者アウン・サン・スー・チー氏(64)に自宅軟禁1年半の命令を下した。軍事政権が来年に計画している総選挙にスー・チー氏が参加するのは極めて難しくなり、ミャンマーの民主化は一段と遠のいた。

軟禁下にあったスー・チー氏が昨年11月と今年5月、自宅に隣接する池を泳いで渡ってきた米国人旅行者と会ったことが、国家防御法の定める「無許可で外国人に会った罪」に当たるとされた。

3カ月にわたって審理してきた特別法廷は11日、スー・チー氏に3年の禁固と重労働の判決を下した。直後に軍事政権は、1年半の自宅軟禁に減刑する特別命令を発表した。

外国人旅行者が警備をかいくぐってスー・チー氏の自宅を訪れたことをはじめ、事件の経緯も判決も疑問点が多い。スー・チー氏は控訴する方針だ。ただ、判決が覆る可能性は小さいとみられる。

軍事政権は1989年からの20年間のうち累計で14年間にわたってスー・チー氏を軟禁・拘束してきた。本来は今年5月末に軟禁期限が切れるはずだったが、その直前に今回の事件で起訴された。

起訴のタイミング、総選挙に向けた政治活動を完全に封じ込めることになる自宅軟禁期限の設定など、司法に名を借りた政治弾圧なのは明らかだ。人道的にも許し難い。

軍事政権は総選挙を通じて民主化が進展したと内外にアピールしたい考えとみられる。だがブラウン英首相は今回の判決を受け、総選挙は正当性を失ったと指摘した。

潘基文国連事務総長と東南アジア諸国連合(ASEAN)は7月、相次いでスー・チー氏を含む政治犯の釈放を求めていた。スー・チー氏への弾圧が続く限り国際社会は民主化が進展したとは認めないことを、軍事政権は理解すべきだ。

逆に、スー・チー氏を解放し真の民主化への道を踏み出せば、日米欧が経済制裁をやめ積極的な支援に転じるのは確実だ。軍事政権は自ら、愚かな道を歩んでいる。

事務総長の要請を無視された国連は対応を問われる。安全保障理事会でミャンマー制裁に消極姿勢を示してきた中国とロシアが焦点だ。

社説1 「東海」を想起させた静岡地震の衝撃(8/12)

「すわ東海地震」と思った人は多かっただろう。11日早朝に発生した駿河湾を震源とする地震は、伊豆地方や静岡県中部で震度6弱を記録し、東海地震を想起させるに十分なほど、強く大地を揺さぶった。

気象庁は地震学者らからなる「地震防災対策強化地域判定会」の打ち合わせ会を臨時に開いて検討し、今回の地震は「東海地震に結びつくものではない」と関連を否定した。

東海地震は太古から繰り返し発生してきた。日本列島が乗っているユーラシアプレート(岩板)の下には、フィリピン海プレートが潜り込んでいる。引きずり込まれたユーラシアプレートの端がひずみの限界に来て跳ね上がると、岩板の境界面でM8クラスの大地震が発生する。

今回の地震は岩板の境界面ではなく、岩板の中で発生し、断層のタイプも跳ね上がりの逆断層とは違う。規模もM6.5とM8に比べると100分の1以下である。発生場所、メカニズム、規模の3点で、想定される東海地震とは大きく異なり、直接的な関連性は薄いと見るのが合理的かもしれない。

私たちは「予知幻想」が、日本の地震研究と地震防災に影を落としている、と指摘してきた。31年前に東海地震対策としてつくられた大規模地震対策特別措置法=大震法は、時間と場所と規模を特定して、発生の2、3日前に地震を予知する直前予知を、防災の大前提にしている。

研究が進んで、予知が極めて困難なことが判明しても、行政と学界はそれを率直に認めず、予知にこだわり続けている。今回の地震の評価で、気象庁や判定会の談話に盛んに登場する「プレスリップ」という言葉はその象徴でもある。

大規模地震では本震の前に断層が緩やかに滑り始めることがあるという。このプレスリップ現象を観測できれば、予知が可能になる。しかし、東海地震は必ずプレスリップを伴うのか、プレスリップは必ず捕捉できるのか、何の保証もない。

地震学の研究と議論は大いに歓迎する。しかし、防災に直結する分野で、科学的検証があいまいなまま、行政や学界の都合で決めた想定や前提が一人歩きする愚は避けたい。

台風のふるさとよりはるか北、日本近海で台風9号が突然生まれ、想定外の水害が各地で多くの命を奪った。その豪雨と重なって、今回の地震は発生した。複合的な被害が心配される。判定会の阿部勝征会長の言うように、自然に対しては謙虚にあるべきだろう。そろそろご都合主義の想定とは決別したい。

産経新聞

【主張】地震と台風 牙むく複合災害に備えよ (2009.8.12)

日本列島が連日のように自然災害の猛威にさらされた。台風9号の接近による各地での豪雨、駿河湾を震源とする地震の襲来である。

11日朝の地震は、想定されている東海地震の震源域と近かっただけに、どきりとさせられた。多くの人が就寝中であったにもかかわらず、大きな惨事にならなかったのは、家具の固定など地域での日ごろの震災対策が功を奏したためだろう。住民や自治体の備えを評価したい。

台風と地震が一緒に訪れることは珍しくない。大正12(1923)年9月1日の関東大震災のときも台風が能登半島付近を通過中だった。本所の被服廠(ひふくしょう)跡で火災旋風が起き、避難していた4万4000人が命を失った災禍にも台風による強風が関係している。

台風との重複で地震被害が増幅される現実は、防災上忘れてはならない教訓である。

日本列島の地震は、周期的な活動期に入っていて大地震が多発しやすい。一方、地球温暖化の影響で大雨が増えており、台風も大型化の傾向を見せている。現代は異種の災害が同時に牙をむく多難な時代なのである。今回は大雨で地盤の緩んでいた東名高速道の一部が地震の揺れで崩落した。

台風9号は、南からの湿った暖気を日本列島に吹き込んで9日ごろから記録的な大雨を九州や中国地方にもたらした。土砂崩れや河川の氾濫(はんらん)で、30人を超える死者・行方不明者をだしている。

被災者は「こんなことは今までなかった」と異口同音に語る。統計上からも最近は、1時間に50ミリ以上の豪雨の回数が、30年前に比べて1・5倍に増えている。過去の体験を判断の基準にしがちな高齢者には危険な変化なのだ。

今回の水害では、夜間に避難していた人たちが亡くなった。暗くて雨が降っていると普段は何でもない小川が命を奪う深みに変わる。自治体による避難勧告の出し方にも再検討の余地があろう。

場合によっては、2階にとどまる方が安全であることも心得ておくべきである。住民は、近隣の道路や水路の位置関係を避難イメージと重ねてしっかり頭に入れておくことが必要だ。

静岡地方を震度6弱で揺らした11日の地震は「東海地震に結びつくものではない」と判定された。だが、地震はいつどこで起きても不思議はない。それを肝に銘じて複合災害の時代に備えよう。

【主張】靖国神社参拝 指導者の務めはどうした (2009.8.12)

麻生太郎首相が終戦記念日の8月15日に靖国神社を参拝しない意向を示唆した。その理由を「(靖国神社は)最も政治やマスコミの騒ぎから遠くに置かれてしかるべきものだ。もっと静かに祈る場所だ」と述べている。本意とすれば、いささか残念である。

麻生氏はかねて、靖国神社の非宗教法人化を主張していた。だが、それとは別に、麻生氏は現在の宗教法人としての靖国神社にも敬意を表し、平成17年に外相になる前は春秋の例大祭に参拝していた。首相になってからも、例大祭に真榊(まさかき)を奉納し、戦没者に哀悼の意を捧(ささ)げてきた。それはそれとして評価されるべきだ。

だが、さらに踏み込み、麻生首相が8月15日に靖国神社を参拝することを期待していた遺族や国民は多かったはずだ。靖国神社にまつられている戦死者は、私事でなく、国のために尊い命を捧げた人たちである。首相が国民を代表して慰霊することは国の指導者としての務めだと思われる。

確かに、今日のような状況下で首相が靖国参拝すれば、中国や韓国などが反発し、それに便乗した反対勢力が騒ぎ立てることが予想される。首相が言う「静かに祈る場所」の環境が一時的に損なわれる懸念はあるが、それは参拝する側の責にのみ帰すべき問題ではなかろう。難しい判断ではあるが、麻生首相に再考を求めたい。

小泉純一郎元首相が毎年1回、靖国参拝してきた平成13年から18年にかけ、民主党は常に首相参拝に反対してきた。その間、代表が鳩山由紀夫、菅直人、岡田克也、前原誠司、小沢一郎氏へと代わったが、「靖国神社に『A級戦犯』が合祀(ごうし)されているからだ」という反対理由はほぼ共通していた。

今年も、中国中央テレビの報道などによると、岡田克也幹事長が今月初め、中国メディアに対し、「靖国神社に第二次大戦のA級戦犯が合祀されている以上、日本の首相は参拝すべきではない」と述べたと伝えられている。鳩山代表も海外メディアとの会見で「(首相になっても)靖国神社を参拝するつもりはない」と語った。

中国に媚(こ)びた姿勢と受け止められてもやむを得ない。

靖国問題では与野党内に、いわゆる「A級戦犯」分祀論や無宗教の国立追悼施設建設構想などさまざまな意見がある。衆院選では、有力政治家たちの靖国をめぐる言動にも注目したい。

東京新聞

人事院勧告 次期政権で大幅改革を (2009年8月12日)

今年の人事院勧告は六年ぶりの大幅引き下げとなったが、国家公務員の給与は依然として民間よりも高いというのが国民の実感だろう。次期政権は給与改革にしっかりと取り組んでもらいたい。

人事院も苦労したことだろう。国民からの高給・厚遇批判に対処する一方、公務員の士気低下は防がなければならない。そこで今年は若年層と医療職を除き、中堅層や管理職の引き下げ幅を広げることにした。

勧告内容は(1)民間給与との格差を是正するため月給とボーナス合計で年間十五万四千円引き下げる(2)来年四月から時間外労働の割増賃金率を引き上げる(3)六十五歳定年制実現に向けて具体的な取り組みを急ぐ−などとなっている。

引き下げ勧告が出たとはいえ一般行政職の年間給与はモデルで六百三十五万六千円。諸手当を入れれば実際の年収はもっと高い。

今年の経済財政白書は雇用者約五千万人の過半数が年収三百万円以下、と指摘した。国税庁の調査でも同二百万円以下が一千万人を超えている。低賃金に加え民間労働者の間では正規・非正規雇用を問わず失業者が急増中だ。

現行の民間準拠の仕組みに問題がある。人事院の民間給与調査は役職や勤務地域、学歴、年齢ごとに条件がほぼ同じ民間給与と比較して算出しているという。

確かに形式は整っているが、結果的には大企業管理職の給与を色濃く反映している。中小企業や低賃金にあえぐ派遣やパート社員の賃金水準は反映されていない。「公務と民間業務とは性格が違う」というのが人事院の説明だ。

民間準拠の使い方が、ご都合主義的である。国家公務員の六十五歳定年制導入を求めているが、民間企業では六十五歳定年制を採用しているところは一割程度しかない。現行の再任用制度ではなぜ駄目なのか十分に説明すべきだ。

国債などの債務残高は八百六十兆円を超え国家財政は破綻(はたん)状況にある。社会保険庁の杜撰(ずさん)な年金記録や相次ぐ官僚の不祥事など、待遇見直しを求める声は強い。

やはり政治が大なたを振るわなければならない。公務員制度改革は次期政権の最重要課題だ。

自民党は選挙公約で国家公務員の給与体系見直しと人員削減計画を明記した。民主党も国家公務員の総人件費約五兆三千億円の二割削減を掲げている。労働基本権の付与とともに公務員給与の見直しもきちんと行うべきだ。

地震と台風 同時襲来でどうするか (2009年8月12日)

台風9号が日本列島の南海上を東進中、静岡県を中心に震度6弱の地震が襲った。地震と台風が重なったとき、どう対応するか。バラバラではない防災対策を考えておく必要がある。

日本では東海地震、東南海・南海地震という海溝型地震が警告され、直下型もどこでも起こる。台風シーズンと重なれば、どちらの災害も待ってくれない。

地震と台風が同時に被害を与えるなら、住民への情報提供や避難誘導などソフト、防災施設整備などハードの両面で、対策も連携しあう必要がある。

気象庁は台風の進路を五日先まで予報する。河川の増水などの情報とあわせ、少なくとも人身の安全については、避難など早めに対策を講じるのは可能である。

一方、駿河湾を震源とする今回の地震は一応、東海地震と結び付かないとされた。発生は夜明けだったが、大規模家屋倒壊などには至らなかった。

地震は、緊急地震速報が出てから大きな揺れがくるまでには、常に秒単位の短い時間しかない。夜明けのことで、ラジオやテレビを視聴していた人は少ない。防災行政無線なら眠っている人も起こし、多くの住民に周知できる。情報提供の方法を再検討すべきだ。

静岡県牧之原市で東名高速道路の路肩が崩れ、通行の障害となった。高速道路は橋の耐震強化が進んでいるが、土盛り部分は従来、問題とされなかった。しかし台風に伴う雨と地震が相次ぐと、意外にもろいのではないか。

高規格道路は災害時、救援物資や復旧資材、要員輸送の基幹ルートとなる。それが簡単に通れなくなってはお手上げである。

静岡市清水区由比地区には東名と国道1号、JR東海道線が急傾斜地と海に挟まれた狭い部分に集まった区間がある。まず障害が起きないよう維持、万一の時は通行規制に万全を期すべきだ。

伊勢湾台風を機に、名古屋港には高潮防波堤が造られたが、大地震の際に地盤が液状化し、沈下の恐れが明らかになった。各地の港湾にも、高潮や津波を防ぐ防潮壁や防潮扉が設けられた。地盤沈下で役立たずになっては大変だ。点検と対応策を急ぎたい。

東海地震で最大の被災が予想される静岡県は県職員らが毎月、防災訓練を繰り返している。それを生かし今回の地震でも早朝、職員は持ち場に参集した。大小にかかわらず、関係者は災害時の対応を誤らないよう心掛けてほしい。