きょうの社説 2009年8月11日

◎兼六園の景観維持 入園者増を前提に名木管理を
 兼六園で名木などに悪影響を及ぼす土質の酸性化が進み、入園者の踏圧もストレスを与 え続けていることが12年ぶりの土壌調査で分かった。兼六園はミシュランガイドの格付けで三つ星を獲得するなど海外の評価も広がり、城下町金沢の象徴として地域における存在感はますます高まっている。今回の調査結果は大変気がかりであり、県も重く受け止める必要がある。

 兼六園の2008年度の入園者数は前年度比12%増の約182万人と改善傾向を示し 、北陸新幹線開業で観光客はさらに増える可能性がある。美しい景観や名園の風情を維持するためにも酸性雨や踏圧対策はこれからも向き合っていかねばならない課題である。いたずらに入園を制限するのは現実的でなく、新幹線時代を考えれば、入園者増を前提にした名木保全策などが求められるだろう。

 調査を実施した県立大の長谷川和久客員名誉教授によると、園内15カ所の調査地点の うち、樹齢200年以上の「根上松」周辺など6カ所で強い酸性が確認され、別の判定法と合わせて園全体で酸性化が進んでいることが分かった。

 大陸からの大気汚染物質の影響で酸性雨被害は県内各地で報告され、土壌では有機物の 含有量が少なくなり、樹木が育ちにくい環境となる。樹勢が衰えた兼六園の老木はこうした環境変化の影響に敏感な存在である。12年前の調査でも酸性雨や踏圧の影響が確認され、県は堆肥を使った土壌改良や踏圧を和らげる園路対策などを進めてきたが、今回の調査結果はそれだけでは決して十分でなく、より効果的な対策を迫っているといえる。

 元東京農大学長の進士五十八(しんじいそや)氏は兼六園の価値を「時間の美」と表現 し、風雪に耐えた老松やコケの風情が最大の魅力と指摘した。すでに「夫婦松」や「乙葉松」は松くい虫被害などで伐採され、老木は確実に減少している。

 藩政期以来、その時代の土木・庭園技術の粋を集めて美観を保ってきたのが兼六園であ る。踏圧による土壌の「コンクリート化」は観光庭園の宿命的課題だが、最新の土壌科学などを駆使して名園の維持に知恵を絞ってほしい。

◎安保防衛懇報告 「お蔵入り」になるのか
 政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、新しい「防衛計画の大綱」策定に向け た報告書を麻生太郎首相に提出した。集団的自衛権行使を禁じる政府の憲法解釈の変更を求めるなど、わが国の安全保障の基本方針の見直しを迫る画期的な提言を含んでいる。政府はこの報告書をベースにして、新防衛計画大綱を策定する予定であるが、今度の衆院選で民主党中心の政権が誕生した場合、報告書は棚上げにされる可能性もある。

 2004年に策定された現行の防衛計画大綱は、5年後の見直しが明記されている。政 府は安保防衛懇の報告書をたたき台に、10年度以降の新大綱を年内にまとめるスケジュールを描いている。

 報告書に盛り込まれた集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則の見直しなどは、わが 国の防衛力の在り方を考える上で避けることのできない問題である。

 安全保障の国際常識を踏まえて日米同盟の信頼を高め、強化しようという立場に立てば 、米国に向かうミサイルの迎撃や、ミサイル警戒に当たる米艦船の防護で集団的自衛権の行使を認めることは、常識的な判断と思われる。

 集団的自衛権行使に関する同趣旨の報告書は、安倍晋三元首相の私的諮問機関からも出 されたことがある。しかし、後を継いだ福田康夫前首相は憲法解釈の変更に慎重であり、報告書は「お蔵入り」になった経緯がある。

 今後もし民主党政権になれば、党内の旧社会党勢力や連立を想定する社民党への配慮か ら、安保防衛懇の報告書も同様の道をたどる可能性が大きい。政権交代に伴って前政権時代の議論が振り出しに戻ることがあっても不思議ではないが、議論にふたをしてしまうのは好ましくなかろう。

 今回の報告書は、中国やインドなどの台頭で、唯一の超大国といえた米国の一極支配に 変化が生じているとの認識の下、同盟国や地域との「多層協力的安全保障」という新しい概念を打ち出すなど、新防衛計画大綱の土台として検討に値する提言が多くあり、新政権での真摯な議論が望まれる。