全国知事会は自民、公明、民主3党が衆院選マニフェスト(政権公約)に掲げた地方分権政策に対する採点結果を発表した。大差はつかず、知事らは「どの政党が政権を取っても分権が進む感触を得た」などとして合格点の評価を与えた。
分権公約の点数評価は、地方の力を存分に発揮できる分権型社会の実現に向け、熱意を競わせて政策に反映させようとの狙いである。29人の知事が「国家像の明示と分権・自治体の位置付け」「直轄事業負担金の抜本的改革」などについて前日開催した公開討論会の内容も加味して採点し、平均点を出した。
その結果、トップは公明党で66・2点、次いで自民党60・6点、民主党58・3点の順。公明党は知事会が特に重視して配点を高くした「国と地方の協議機関の法制化」で、地方が権限を有する分権会議の法制化としている点などが評価された。自民党は国が地方をしばる「義務付け」の見直しや「権限移譲」で数値目標を示したことなどが認められた。民主党は国の直轄事業負担金の全廃などで高得点を挙げたが、地方財源確保への不安による大幅減点が響いた。
これまでも地方分権は声高に叫ばれてきたが、いざ前へ進む各論段階では族議員や官僚らの強い抵抗で、なかなか動かなかった。それが、いまや衆院選の大きな争点になってきた。全国知事会の麻生渡会長(福岡県知事)は「歴史的な転換だ」と手応えを語る。
背景には、政権交代の可能性が現実味を帯びてきた衆院選がある。さらには橋下徹大阪府知事や東国原英夫宮崎県知事ら人気知事の登場で、その影響力を各党が意識していることなどが挙げられよう。知事会は、この好機を逃さず分権を動かして、地方の活性化につなげようと攻勢をかけてきた。
狙いは当たったようだ。典型的な例が、知事会が分権推進の主戦場と位置付ける国と地方の協議機関の法制化である。これまでいくら要望しても取り合わなかった自民、公明両党が、今回はしっかりと記した。3党のうち唯一政権公約に触れていない民主党も、公開討論の席で追記を言明した。
問題は衆院選の後だ。分権に前向きな姿勢を次々打ち出す各党からは、選挙への思惑で知事会にすり寄ろうとの本音が見え隠れする。政権を得た政党に約束をきちんと守らせなければならない。政党の実行力と成果に目を光らせることだ。知事会の負う役割と責任は重い。
勤務時間中に無許可で労働組合活動に従事する「ヤミ専従」について再調査を進めていた総務省が調査結果を発表した。過去3年間で違法な組合活動に従事した職員は、地方にある出先機関を中心に国土交通、農林水産、厚生労働の3省で合わせて1466人に及ぶ。
このうち、1日4時間以上の組合活動が年間30日を超える常習的な「ヤミ専従」は農水省の97人。4時間未満の活動が年間30日以上あった「準ヤミ専従」は農水省101人、国交省12人だった。このほか年間30日未満だが許可を得なかったのは国交省932人、農水省316人、厚労省8人となっている。
総務省は社会保険庁のヤミ専従問題を受けて、昨年5月に全省庁を対象にした実態調査を実施した。しかし、「該当なし」と回答した農水省で多数のヤミ専従の事例が発覚したことなどから、各省庁任せだった調査方法を統一するなどして今年5月から再調査を行ってきた。
ヤミ専従は国民の税金である給与を不当に得るもので、国家公務員法で禁じられている。それが続いてきた背景には、自己中心的なゆがんだ労使関係があるといえよう。
再調査のきっかけとなった農水省の場合では法令順守の意識を欠いた労組側だけでなく、省側もヤミ専従の疑いを把握しながら欺き、関係文書を改ざんするなど組織ぐるみで隠ぺいを図った。国交省のケースでは、勤務時間内の組合活動を容認する指示文書が長く引き継がれてきたことが分かった。
何とも悪質で根深い。それだけに「3省以外ないのか」と疑念を抱く向きもあろう。大きく損なわれた官の信頼を回復するには、労使双方が危機感を強めてウミを出し切り、健全な関係へ一から出直す以外ない。
(2009年8月10日掲載)