2010〜14年度の防衛力整備の指針となる新「防衛計画の大綱」策定に向けて、有識者による「安全保障と防衛力に関する懇談会」が報告書をまとめ、麻生太郎首相に提出した。集団的自衛権行使を禁じる政府の憲法解釈の見直しを求めるなど、戦後日本の国防政策の根幹を変更しかねない内容である。
防衛大綱は、長期的な防衛力の整備、維持、運用に関する防衛政策の基本方針となるものだ。04年に策定された現大綱が5年後の改定を明記していた。
報告書を受けて政府は年末までに新大綱を策定する方針だが、衆院選で民主党中心の政権が誕生すれば、報告書が棚上げされる可能性も否定できまい。
報告書で注目されるのは、北朝鮮の長距離弾道ミサイルへの有効な対処と日米同盟強化のため、集団的自衛権行使の必要性を打ち出し、政府解釈の変更を促していることだ。具体的には、米国に向かうミサイルの迎撃、ミサイル警戒に当たる米艦船の防護を可能にすべきだと提言している。
武器の輸出を事実上全面禁止している武器輸出三原則についても、日本の防衛力の向上につながる国際的な共同開発や生産への参加は三原則の例外とするよう見直しを求めた。
さらに、「中国、インドなどの台頭が米国の相対的なパワーを低下させている」との認識を示した上で、日本自身の努力や同盟国との協力などを組み合わせて「多層協力的安全保障」を構築すべきだと提唱した。
日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化しているのは間違いない。日米同盟の深化と日本独自の防衛力強化の必要性を強調した今回の報告書は、衆院選の与野党論戦にも問題提起したといえるのではないか。ただ、集団的自衛権行使の容認は、「平和国家」日本の防衛政策の根幹にかかわる問題である。憲法との整合性を踏まえ、見直しは十分慎重を期す必要があろう。
自民党は衆院選マニフェスト(政権公約)で、集団的自衛権行使に関する政府の憲法解釈見直しを明言してはいない。しかし「米国に向かうミサイルの迎撃などが可能となるよう必要な手当てを行う」としており、報告書と基調は同じだ。一方、民主党はマニフェストで「緊密で対等な日米同盟」を目指すとしたものの、安全保障政策の全体像を示す記述は薄い。
安全保障の問題は避けて通れない重要テーマの一つである。衆院選を機会に、与野党は冷静な論戦を深めるべきだ。
子どもたちの人権を踏みにじる卑劣な児童ポルノ事件が急増している。警察庁がまとめた今年上半期(1〜6月)の摘発事件数、被害児童数は、いずれも統計を取り始めた2000年以降で最多となった。
摘発事件数は382件で前年同期より27・3%も増えた。摘発された人数は289人、身元が特定できた被害児童数は218人で、ともに前年同期に比べて1・5倍という激増ぶりだった。被害児童は中学生が106人で最も多く、高校生71人、小学生33人などとなっており、小学生が前年同期より73・7%も増えるなど低年齢化が進んだ。摘発されたのはまだ“氷山の一角”といわれる。
現行の児童買春・ポルノ禁止法は「18歳未満の児童を撮影した、性欲を刺激する写真や映像」を児童ポルノと定義し、販売・提供目的に限って所持を禁止している。個人が趣味で持つ「単純所持」は容認されている。
しかし、主要8カ国(G8)の中で単純所持を認めているのは日本とロシアだけだ。日本はインターネットなどを通じた児童ポルノの「供給国」との国際的な非難を浴びてきた。
そこで、昨年の通常国会以来、新たな規制強化を盛り込んだ改正案が自民、公明両党と民主党からそれぞれ提出されるなど改正論議が続いてきたが、先の通常国会で衆院が解散され白紙に戻ってしまった。与野党の最終調整が進んでいただけに、残念としか言いようがない。
ネットの普及で画像は容易に国境を越え、世界中に広がっていく。また、一度出回ると回収することは困難で、被害者の苦しみや恐怖は続く。児童ポルノ根絶には世界的な取り組みが求められている。日本も早く仕切り直して、規制強化に向けた対策を急がなければならない。
(2009年8月9日掲載)