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【昭和正論座】学習院大教授・香山健一 昭和50年11月4日掲載 (3/4ページ)
≪経済自滅もたらしかねぬ≫
山本七平氏が「全体空気拘束主義」という巧みな呼び名で特徴づけたこの「空気支配」の傾向は、わが国の環境行政を驚くばかりに非科学的で、大衆迎合的な、行き過ぎたものにしてしまった。例えば、環境庁が定めたわが国のNO2の環境基準0・0二PPMは、(1)NO2濃度と慢性気管支炎の有症率との単純極まる相関関係を基礎にするという医学的誤謬(ごびゅう)と、(2)慢性気管支炎の有症率の自然水準三%以下の三都市とそれ以上の三都市の計六都市のデータから、最小二乗法で単純に直線を引き、その交点から0・0二PPMという基準値を導き出すという統計学的にも全く話にならないでたらめなものである。
このような非科学的な環境基準を、思いつめ型の「全体空気拘束主義」だけで強引に押し通そうとするならば、またしても日本は環境問題でかつての「パール・ハーバー的行動」を再現したとして、重大な国際不信と反発を招くであろうし、国内的には公害防止投資の極端な負担から、やがては日本経済の自滅をもたらしかねないこととなるであろう。取り返しのつかない破滅的な結果にいたらないうちに、わが国は“PPM信仰”を打破し、環境行政の全面的見直しと総点検に着手すべきであろう。
≪言論統制で環境行政ゆがむ≫
ところが、こうした健全な環境行政批判の高まりに対し、環境庁は全く戦前の行政と同じパターンの言論統制と「非国民」呼ばわりの挙に出てきたようである。去る十月二十五日の夕刊各紙によると、環境庁の橋本大気保全局長はトヨタ自動車工業の幹部を呼びつけて、トヨタ自動車工業の社内PR資料に厳重注意をし、その撤回、回収を要求したというのである。私は日本共産党がその数日前に国会で問題にしたこの社内PR資料を早速取り寄せて、専門家と詳細な検討を試みてみたが、その内容は環境基準についても、排ガス規制についても、むしろ基本的には正論が述べられているものであり、なんら非難されるべき筋合いのものではないと判断した。
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