[掲載]週刊朝日2009年8月7日増大号
■ついに本丸に踏み込んだ
天皇とは何なのか? もしも外国人や日本の若者にそう問われたら、どんな説明をすればいいのか。とりあえず何か語ることはできるかもしれないが、はたしてそれが正しいのか否か、実は自信がない……そんな日本人はきっと多いに違いないと私は推察している。なぜなら、私自身がそうだったから。
『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』を上梓した小林よしのり(昭和28年生まれ)もまた、40代半ばまではさほど天皇に関心がなかったらしい。戦後に生まれて「国民主権」の教育を受けてきた者にすれば、それは何も珍しいことではないだろう。聖徳太子の業績や明治天皇下での大日本帝国憲法発布などは習っても、天皇そのものについて教わった経験は私にもない。そして、戦後生まれが総人口の4分の3を超えた状況を考えれば、今やほとんどの日本人は天皇について曖昧な知識しか持ち得ていないと断言できそうだ。
だから、コミックエッセイの形式で天皇について言及した同書は、わかりやすい「天皇入門書」としてヒットしている。読者は、先に無知を脱した小林の案内にしたがって、天皇の成立過程、歴史的な役割や機能、現況などを学び、断片的にしか知らなかった天皇の全体像に近づいていき、「祭祀王」としての天皇の実像を垣間見る。また、小林の秘書による豆知識コーナーをとおし、皇室の構成や皇位継承のルールなどの基礎知識についても知ることになる。なんせ、参考文献は93冊に及んでいる。ここまで学べば、読者の皇室問題に対する発言もきっと変わってくるだろう。素直にそう思うほど、内容は濃い。
思えば、週刊「SPА!」で「ゴーマニズム宣言」の連載をはじめて以来、小林はこの国のタブーと呼ばれるテーマを積極的に扱ってきた。同和問題やカルトに与えた彼の影響は実に大きかったと私は認めているが、この作品で、彼はついに本丸に足を踏みいれた。それは、日本を考える上での必然的な歩みだったに違いない。
著者:小林 よしのり
出版社:小学館 価格:¥ 1,575
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