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きょうの社説 2009年8月10日
◎温泉地の総湯整備 再興したい「湯治場」の魅力
石川県内の温泉地の総湯(共同浴場)整備が進んでいる。昨年完成した粟津(小松市)
、白峰(白山市)に続き、加賀温泉郷では先ごろ、山代で新施設が誕生し、片山津は来年度完成を見込む。ほかにも湯涌(金沢市)が総湯で特産品を販売して付加価値を高めるなど、総湯を活用した温泉地再生の取り組みが目立っている。バブル崩壊によって、温泉地は団体客から個人客へと客層が変わった。いままた厳しい 景況のなか、県外資本の進出が相次ぎ、宿泊客が望むサービス、料金なども多様化している。 それでも、湯に浴して心身を癒やしたいというニーズは変わるものではなく、各温泉地 が総湯を核として、もてなしの原点ともいえる「湯治場」の魅力を再興しようという動きには賛同できる。北陸新幹線開業に向けても、温泉は人を引き寄せる大きな力の一つであり、自然や伝統文化など各地の観光資源を生かした活性化を追求してもらいたい。 地元にとって総湯は、昔から住民の語らいの場でもあり、まちの情緒と活力を生み出し てきた。全国の温泉地が集客増を目指して、まち歩きコースの策定や四季を通じたイベント開催などを模索しているが、湯のまちの魅力を高めるうえで、総湯の存在は大きい。 山代の場合は新総湯を中心に「湯の曲輪(がわ)」という街並みを形成し、開業と合わ せて芸能「山代大田楽」を催し、にぎわい創出につなげた。粟津も総湯周辺の景観整備を進め、総湯で各種イベントを展開する予定である。「滞在力のあるまち」として国土交通省の事例集に紹介された山中(加賀市)は、総湯などのまち歩きスポットの設置が評価された。今後も各地で総湯の入浴と湯のまち散策、伝統工芸体験や自然体験など、各温泉の持ち味を効果的に盛り込んだ滞在メニューを打ち出していってほしい。 受け入れ側には、一層の質の向上が求められる。山代や和倉(七尾市)などが、温泉や 地域の歴史に理解を深めた旅館従業員やガイドの養成に力を入れているように、より満足されるもてなしで長期滞在やリピーターにつなげたい。
◎韓国のFTA戦略 座視できぬスピード交渉
韓国とインドが包括的経済連携協定(CEPA)に正式署名した。貿易立国として生き
残りをかける韓国は、米国や欧州連合(EU)とも自由貿易協定(FTA)の締結で合意しており、今回のインドとの経済連携協定で、地球規模のFTA網を築こうという韓国の通商戦略に大きな弾みがつくことになる。日本は東南アジア諸国やチリ、メキシコなどとFTAを締結しているが、大市場国との FTAでは韓国に遅れをとっている。日本も韓国の大胆さや交渉のスピードを見習いながら、通商戦略を立て直す必要があるのではないか。 韓国とインドは2006年に経済連携協定の交渉を始め、今年2月に仮署名にこぎつけ た。インドは議会承認を終えており、今後、韓国国会の同意を経て、来年1月の発効が見込まれている。 両国の協定では、発効後8年以内に貿易品目の約8割の関税を撤廃することになってい る。インド側にとって韓国からの最大輸入品である自動車部品の関税は、現行の12.5%から1〜5%に引き下げられる。韓国農業への打撃を抑えるため、一部の農産物は関税引き下げ対象から外された。 インドは約12億人の巨大市場であり、北陸の製造業も子会社を設立するなど市場参入 の動きを強めている。経済連携協定はすぐ効果を発揮するわけではないが、韓国は競争相手の日本や中国などに先駆けて貿易上の特恵を手にし、優位に立つことになる。 韓国のFTA戦略でさらに注目されるのは、7月にEUと協定締結で妥結したことだ。 協定発効にはEU加盟国すべての同意が必要であり、なお時間を要するが、本格的な交渉開始から2年余で妥結という早さである。 FTA交渉は国益のぶつかり合いであり、米韓のFTAは政府間合意から2年経つが、 両国の議会はまだ承認していない。日韓の経済連携協定交渉は、韓国の対日貿易赤字拡大の懸念から暗礁に乗り上げたままだ。国内の利害調整が難題であるが、日本としても韓国の積極的なFTA戦略を座視しているわけにいくまい。
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