きょうのコラム「時鐘」 2009年8月10日

 昭和30年代後半の話である。日本を訪れた開発途上国の首脳が列車に乗った。車窓に流れる水田風景を見ながら質問した。「どの町にもある大きな建物は何か」

どれも学校だと聞いて、深くうなずいたという。「国づくりに大切なものが分かった」と。明治以来、日本は教育に力を入れた。それが戦後復興を早める力ともなった。均質な教育力の大切さを示す話としても知られている

先日「親の収入で子どもの学力に差が出る」との文科省調査があった。家庭の経済力が子どもの学力と連動するなら、将来に影響する悩ましい問題である。教育の機会均等はどうあるべきかを考えさせられた

一方で、国や家庭の豊かさが子どもの自立心や生活力と結びつかない現実がある。「家貧しくして孝子あらわる」と言えば時代錯誤と笑われるだろうが、逆境が人を育てることもあることをこの際、思い出してもいいだろう

格差だけに焦点を当てると大切なことが見えなくなる。教育の真価は社会に出てから問われる。格差から、はい上がる力をつけるのも教育の使命だ。日本の戦後はそのことを教えていないか。