独立行政法人(独法)の「天下り隠し」ともいえる、官民による役職の「バーター」が初めて明らかになった。民間側は「官民の人事交流」との位置づけだが、当の省庁は「人事に関連性はない」(総務省)などとし、人事交流とすら認めていない。独法の役員に就任した損保会社元理事らは異例の人事と認めたうえ「天下りへの厳しい視線が背景にある」と内情を語った。【公益法人取材班】
「突然、会社から話があり、びっくりした」
06年7月に独法「国立大学財務・経営センター」の監事に就任した大手損保会社元理事は、そう振り返る。「当時の社長に『官民の人事交流で独法に行ってくれ』と言われた。この時は日本損害保険協会の会長会社になっていたため、社長は『誰かを出すことになった』と。私が(官僚との交換相手に見合う)東大出身だったこともあるようだった。既に天下りへの世の中の視線が厳しかったことも(人事に)関係したかもしれない」と語る。
代わりに来た財務省出身者については「損保の顧問になった」と証言。「給料は損保時代より減ったが、社長からも『定年の60歳までは保証する』と言われ、差額は出身会社が穴埋めしてくれた。それじゃないと(独法に)行かないでしょ」と、人事が異例なものだったと明かした。
一方で「それまでは天下りを受け入れていなかったが人事交流ができ、官庁向けの営業を考えるとデメリットばかりではない」という。ただ、実際に独法に入ってみると「必要な仕事だとは感じたが、官僚出身者は人事のローテーションで来ている人が多く、新しいことをするという気概を感じなかったのも事実」と述べた。
財務省はこの「人事交流」について「既に退職した方の就職について統一的に把握しておらず、経緯等については承知していない」とコメントしている。
ある省庁の事務次官経験者は「同時期に入れ替わっているのは『バーター』と言われても仕方がない」と認める。背景に天下り批判や規制があるとしつつ「独法は元々国の仕事をしており、『官は悪』という発想の(天下り)規制はどうかと思う」と述べた。
現役の省庁幹部で人事を担当する官房長経験者は「私たちも天下りをしたくて役所に入ったわけではないが、現状では早期に退職するOBの再就職先を最低60歳まで、あるいは年金がもらえる65歳までは考えないといけない。今後はどのように役所で長く働くのかを考える必要がある」と話している。
◆官民のバーターの事例◆
<省庁から民間> <民間から省庁所管独法>
財務省関東財務局長→損保大手A社 損保大手A社理事
(06年8月) 顧問 (06年7月)→国立大学財務・経
営センター監事
総務省統計局調査官→電機大手 電機大手関連会社社長
(03年7月) 営業本部嘱託 (03年4月)→統計センター理事
■官民のバーターの疑いがある事例
総務省審議官→電機大手顧問 電機大手関連会社役員
(08年8月) (08年7月)→情報通信研究機構
監事
経済産業省事務次官→損保大手B社 損保大手B社役員
(06年9月) 顧問 (07年4月)→日本貿易保険監事
総務省審議官→通信大手特別顧問 通信大手関連会社幹部
(04年7月) (04年4月)→情報通信研究機構
部門長
※国立大学財務・経営センターは文部科学省の所管だが監事はそれまで財務省枠。バーターは公益法人などを経由したケースを含む
毎日新聞 2009年8月9日 2時30分(最終更新 8月9日 12時24分)