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哲学者・桜井淳 高レベル放射性廃棄物の地層処分

2009/8/7

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 ■新技術に期待 焦る必要なし

 世界では約450基の原子力発電炉が稼働中であり、最大の課題は高レベル放射性廃棄物の地層処分である。高レベル廃棄物とは、使用済み燃料集合体や高レベルガラス固化体を指す。高レベル廃棄物には半減期が数十万年もの放射性核種が含まれている。

 世界にはいくつかの進展がある。米国では、ネバダ州ユッカマウンテンの地下300メートルの堆積(たいせき)岩層に貯蔵所を建設中である。米国の場合、使用済み燃料集合体をそのまま遮蔽(しゃへい)容器に収納し、将来取り出し可能な方法で貯蔵所に収める。フィンランドでは花崗(かこう)岩層を有するオルキルオ島に地下貯蔵所を建設する。スウェーデンでは2つの候補地が挙がっており、今年度中に決定される。その他の国々は検討中か白紙である。

 ◆日本にはあと10年の余裕

 日本は、原子力委員会が1976年に策定した原子力政策に基づき、2030年から商業利用が可能な地下貯蔵所の建設を目指している。日本の場合、米国のような使用済み燃料集合体の取り出し可能な貯蔵方式ではなく、燃料集合体を再処理して生じた高レベル放射性廃液から製造したガラス固化体による永久処分である。その利点は廃棄物の減容化にある。半面、米国とは異なり、再処理を継続しなければならない。

 原子力発電を担う電気事業者は、経済産業省の行政指導と安全規制にのっとり、地下貯蔵所の建設地を決定し、建設・操業・閉鎖など、その事業の推進を図るため、2000年に法律が整備された後、原子力発電環境整備機構を設置して候補地の公募を行っている。計画どおり2030年から商業利用するには約10年の建設期間を想定すれば、建設地決定までにあと10年の余裕がある。

 公募開始から今日まで、高知県東洋町長と福島県楢葉町長が独断で応募したが、議会や住民の反対が強かったため、すぐに撤回した。これまでの経緯と発生した社会的反応を吟味してみると解決の難しさが読み取れる。地下貯蔵所建設は今後の技術革新に期待し、海外からの返還ガラス固化体や六ケ所再処理工場で製造されるガラス固化体の数を考慮しても、六ケ所暫定貯蔵施設の拡張などの対策によって、今世紀半ばか末の操業計画に先延ばししても支障なく、急ぐ必要はない。さらに、よりアドバンスな技術として現在、大型加速器利用により、すべての放射性核種の半減期を10年以下にする核種変換技術も開発中である。

 ◆社会的矛盾も高まる

 日本原子力学会誌解説論文(09年3月号)とそこに引用されている文献や米国の施設設計例を吟味すると、地下貯蔵所建設に伴う致命的な問題点は見いだせないものの、数千年間の長期にわたる工学的現象の不確実性まで考慮すると、受け入れがたい事項も少なくない。例えば、操業後わずか100年で施設を閉鎖して永久処分するのは、技術の現状からすれば受け入れ難い。

 経産省は応募を促進するため、応募した地方自治体に対し、最初の文献調査段階だけでも毎年10億円、次の段階のボーリング調査などに毎年30億円の交付金(電源立法による税金)を支給する制度を設けている。日本のこれまでの原子力政策では、事業を遂行するため、我慢料として地方自治体に多額の交付金を支給し、暫定的な問題解決に努めてきた。しかし、安全安心どころか、根源的な問題は何一つ解決しておらず、原子力発電所の安全性から高レベル廃棄物地下貯蔵所の長期的安全性まで含め、核燃料サイクル施設の安全や核不拡散の追究に伴う社会的矛盾は、拡大の一途をたどっている。

 原子力施設の我慢料としての交付金支給による社会的受容は本物の受容ではない。高レベル廃棄物地下貯蔵所の建設については、じっくり時間をかけて考えようではないか。

                   ◇

【プロフィル】桜井淳

 さくらい・きよし 群馬県出身。東理大で物理(理学博士)、東大で社会科学(博士論文作成中)、今年4月から東大で神学の研究中。自然科学と人文社会科学の両面からの評論活動。過去、原研で材料試験炉の炉心核計算に8年間、安解所で原発の安全解析に4年間従事。著書20冊。

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