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【09総選挙 長野ニュース】

09年総選挙in信州(4)医療 求められる安心感

2009年8月9日

 「順調だと思います。次は血液検査ですね」

 松本市内の産婦人科医院「小谷ウイメンズクリニック」。妊婦健診に訪れた市内の女性(32)を前に、小谷俊郎院長は、共通診療ノートに診断結果を書き込みながら語りかけた。

 同市など松本地域の9市町村は昨年7月から、産科医の負担軽減を目的にした「出産・子育て安心ネットワーク制度」を始めた。信州大病院(同市)など出産を扱う4つの病院は原則として初期、中期の妊婦健診をせず、出産を扱わない診療所などがそれを担っている。

 共通診療ノートは、双方が妊婦の状況などの情報を共有する役割を果たし、同制度の鍵を握る存在だ。

 女性は2年前にも出産を経験したという。「前回は最初から最後まで同病院で診てもらったので、この制度の話を聞いた当初は不安だった。でも、ノートに細かく診断結果が書かれていて、医療機関が違っても安心できる」と話した。

 同制度を中心になって構築した同大医学部保健学科の金井誠教授は「産科医の肉体的、精神的負担は限界まできていた。この制度が導入されなければ、この地域の産科医療体制は、パンクしていたかもしれない」と指摘する。

    ◇

 全国的な医師不足と偏在の流れの中で、特に医師の負担が重い出産を扱う病院は減少傾向にある。県医療政策課によると、2001年に68あった県内の分娩(ぶんべん)医療機関は現在、46まで減少している。

 昭和伊南総合病院(駒ケ根市)は、08年4月から出産を扱わなくなった。同じ上伊那地域で、同病院から10数キロ離れた伊那中央病院(伊那市)に産科医を集約するため、2人いた産科医が引き揚げられたためだ。

 駒ケ根市など上伊那南部4市町村の多くの妊婦は、移動に20分〜1時間以上余分にかかる伊那市で出産しなければならなくなった。「できるならば昭和伊南でお産がしたいのに」。駒ケ根市の妊婦(42)は打ち明けた。

 金井教授は、お産を取り巻く現状について「本来は、妊婦さんが産みたい医療機関で産むことができるだけの医師の余裕が必要。医師数の確保と、診療科などによる医師の偏在の解消が必要だ」と訴える。

    ◇

 医師不足に陥った原因の1つに、1997年、政府が医療費増額抑制を目的に大学医学部の定員削減を閣議決定して以降、医師数抑制政策を続けてきたことが挙げられる。

 舛添要一厚生労働相は昨年6月、「『医師数は十分で偏在が問題だ』と言ってきたが、現実はそうではない」と、同省のこれまでの政策の誤りを認めた。国はようやく大学医学部の定員増へとかじを切った。

 衆院選マニフェストでは、自民が医療費助成の対象となる難病の範囲拡大を、民主は医師養成数の1・5倍増を盛り込む。そして、両党とも医療の充実を目的に診療報酬の引き上げを掲げている。

 安心して医療を受けることができ、安心して子どもを産むことができるのは国政の基本だ。各政党は国民生活の現状をどう見つめているのか。医療問題は、それを判断する試金石となっている。(坪井千隼、石川尚里)

 【出産・子育て安心ネットワーク制度】 原則として妊娠33週前後までの妊婦健診を、診療所など15の健診協力医療機関が担う。共通診療ノートには、超音波を使って撮影した胎児の写真を張り、妊婦の自覚症状や血液検査結果などを記入する。導入から1年がたち、目的とした分娩医療機関の医療スタッフの負担軽減につながっている。だが、一部の妊婦からは、健診と出産を同じ病院で行えないことへの不安や不満も出ている。

 

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